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プロローグ 1つの御伽噺と、姫君に挑むはずだった者

 昔々、あるところに一つの王国がありました。その王国はとても豊かで、王族も国民も、皆幸せに暮らしていました。

 しかしある日、傲慢な王子が欲に駆られ、王座を得るために父親を暗殺しました。そしてその罪を、美しい妹の王女に被せ牢獄へと幽閉しました。そのことに異議を申し立てた多くの家来は王子によって処刑され、残ったのは王子と共に王を裏切った強欲な大臣や、王子に恐怖して逆らえなかった者達だけでした。

 王子が支配するようになり、国は暗くなっていきました。王子の気分を損ねた者はすぐさま処刑され、国民たちの暮らしはどんどん苦しくなりました。その様子を感じ取った王女はただ牢獄で泣くように歌いました。

 そしてついに王女も処刑されることとなりました。多くの者が嘆き悲しみましたが、誰も止めることはできません。

 王子は断頭台の前で、嗤いながら言いました。


「最期に残す言葉は無いか」


 それに王女は、憎しみの籠った目で答えました。


「最期に言いたい言葉はただ一つ。貴様に命を奪われた多くの者の嘆き、憎しみの叫びを聞くがいい!」


 そして彼女は一つの魔術を使いました。すると、王子によって処刑された多くの者の魂が、王女の体に入り込むと、その全身から黒い茨が生えてきました。

 突如として生えてきたその茨は王子に向かって、物凄い早さで伸びていきます。王子はすぐさま城へ逃げ込むと、配下の騎士や魔術師に茨をどうにかするようにと命じました。しかし、その茨は剣で斬ることもできなければ、炎で焼き払うこともできない、怨念の茨でした。

 王子とその配下の者は、城の中に入り込んだ茨によって絞め殺されてしまいました。

 ですが怨念は、王子達を殺すだけでは収まりませんでした。怨念は王女の体を怪物へと変え、茨は街にまで伸びていき、多くの民を襲いました。民たちは、街から命からがら逃げだしました。そして城と街の周りは人が住むことのできない、怨念に覆われた地へと変わっていきました。そして通りがかった旅人などを襲うようになっていきました。

 このことを知った多くの騎士や魔術師が、怨念を止めるためにその地へと向かいましたが、皆茨の前に手も足も出ずやられていきました。

 そんなある時、世界中を旅する賢者が現れました。賢者はその話を聞くと、すぐにその地へ向かいました。やって来た彼を、他の騎士や魔術師と同じように茨が襲いましたが、彼が操る魔術の前では無力でした。そして彼は怨念によって怪物と成り果てた王女と激しく争い、最後は怪物を封印し、永い眠りへと就かせました。

 怪物が消え去ったことで、人々の明るさが取り戻されていきました。そして皆が、怪物を倒した賢者のことを称えるようになりましたとさ。めでたしめでたし。



××××××××××



「ついにここまで来たな」


 薄暗い城の奥、巨大な門の前に俺達4人はいた。

 約1000年前に6人の救世主の1人である大賢者が封印したとされる、怨念に蝕まれた茨の姫君。その封印が愚かな盗賊によって解き放たれたというのは2年前のことである。御伽噺でも語られる姫君の脅威から人々を守るために、数多くの騎士や魔術師がこの城へと挑んだが、実力が足りない者は姫君の下へ辿り着く前に、この城に巣くった魔物の大群に追い返され、やっとの思いで辿り着いた者も、姫君の圧倒的な力の前に倒れていった。

 自分もかつて幾度となくこの城へ挑んだが、その数だけ魔物や姫君の前で倒れ伏した。だが、今は違う。

 今の俺には頼れる3人の仲間がいた。堅牢な鎧を纏った歴戦の槍兵。教会では随一の回復魔術の使い手であるシスター。魔術学院をトップクラスの成績で卒業した魔術師。そして俺が持つ剣も、王国で屈指の鍛冶屋に鍛えてもらった自慢の一品だ。それに、この玉座までに俺達が疲弊しないように、露払いをしてくれた騎士団の人達もいる。彼らの思いを無駄にはできない。

 俺が3人に目を向けると、全員が力強い目で応える。それに頼もしさを感じながら、俺は巨大な扉に手を掛けた。扉は見た目の割に軽く、簡単に開いていく。

 そして扉が開き切るのを待たずに、俺達は中へとなだれ込み、戦闘態勢を整える。


「茨の姫君。今日こそお前を…?」


 だが、俺達が見たのは思いもよらぬ光景だった。常に玉座の前で侵入者を待ち構えていた姫君の姿がない。だが、油断したところを不意打ちしてくる可能性にも備え、俺達は緊張しながら背中合わせで身構えた。


「本当にここなのか?」


 槍兵はこの状況を不審に思うような目で聞いてきた。

 辺りを見回すが、確かにここは姫君がいたはずの玉座である。何度もこの場所へ赴き戦った俺が言うのだから間違いない。

 しかし周囲には、あの圧倒的な威圧感が感じられない。これは一体どういうことだろうか。まさか、魔物の相手をしている騎士団の下へ向かっているのだろうか。

 どこか焦りを感じ始めたその時、シスターが口を開いた。


「あれは何でしょう?」


 彼女が指し示した玉座に目を向けると、確かに何か紙のようなものが1枚、無造作に置いてあった。

 いつ襲撃されても問題ないように、身構えながらその紙へと近づく。そしてその紙を見ると、達筆な文字でこう書かれていた。


『あなた方との戦いに疲れたので、旅に出たいと思います。探さないでください。

追伸 この城の中の魔物を排除していただけると嬉しいです』


 まるで家出をした際に残す書置きのような言葉を見て、思わず叫んだ。


「何だそりゃああああああああああああ!!!!!!!」


 俺の心からの叫びは、城に虚しく響き渡った。

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