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高架下のミズリー  作者: 十五歳の早計
2/2

第2話 ミズリーという男

「全く……営業時間内ギリギリに来やがって……これだからゆとりはマナーがなってないんだ」


「⁉︎ッ⁉︎」


私は辺りを見回し、声の主を探そうとしたが高架下の真っ暗な空間しか捉える事が出来なかった。

声音からして男なのはわかるが……。


声は続く。


「おい、相談ならさっさとやれ!もう営業時間はとっくに超えてんだ、相手にサービス残業やらせといて何も感じないのか?この冷徹機械人間!」


「だ、誰が機械人間よ!大体こんな高架下で営業時間とか残業とか普通の会社みたいに偉そうなのよ!アンタ絶対ただの暇人でしょ!」


「ほう……ならば何故その暇人の名を呼んだのだ?それ程お前も暇を持て余していたという事か?いいな〜ゆとりは暇で!」


「くっ!」


何て口達者な奴だろうか。

私は悔しくて拳を握り締める、私はこんな人間に相談をしようとしてたのか……。

恥ずかしくて顔から火が出そうだ。


「大体アンタ何者なのよ!どっから話してんの?」


私の問いかけに暫く声は沈黙する。


「あっ?俺?俺はみ………神だ」


「今明らかに言い直したでしょ!?」


もう何なんだコイツは?

関わらない方がいい感じの人間な気がする。

コイツは本当に何処から喋っているのだろうか?声は高架下の為か反響して位置を特定できない。


それより……コイツは何でこんな所にいるのだろう?いや、私も人の事は言えないがこんな真っ暗闇な空間で、しかもくちぶりからして本当に相談屋をひらいているのだとすれば……。


「貴方は何?此処に住んでるの?」


またもや、しばしの沈黙。


「……おかしな事を言う小娘だ、俺からしたらこの地球上すべての大陸が住処であり、ここはその一つでしかない」


なるほどなるほど。


「要するにアンタはただのホームレスって事ね」


「……まあ、そういう言い方もあるかな」


私はこれ以上のおしゃべりは無駄と判断し、ため息を吐きながら踵を返して家に帰ろうとする。


「お、おい、待て!そこの小娘!」


「何よ」


うんざりと振り返る私に声は言い放った。


「相談料払え!現金、飲食物、小切手でも可だ。しかしキャッシュは駄目だ、俺は機械に弱いし社会的に使えない!」


「知らないわよ!大体相談なんてしてないじゃない!」


「そうだとしても!人間は飯を食わないと生きていけない!お前は弱ってるミズリーを見殺しにしてのうのうと生きていけるのか!?良心の呵責に責められながら生きる事になるんだぞ?」


「無茶苦茶元気そうじゃん!ていうか神なんじゃなかったの⁉︎」


「な訳ねーだろがボケ!こちとら二週間以上まともな飯が食えてないんだ!もうそろそろ死ぬ!死んでやる!」


コイツは無茶苦茶だ、関わらない方がいい。

そう考えた私は一目散に我が家へと駆け出した。


「ああっ!逃げんのか、コラ!」


「多分アンタは関わっちゃいけない人間よ!私の第六感がそう告げてるから!」


私はそう叫びながら走る。


後ろからは「明日は10時からだ!今日の分の飯か金銭は必ず持って来いよ!」という往生際の悪い男の叫びが聞こえてきていた。








ーーーーーーーーーーーー


ーーーーーー


「ん、ん〜ー」


午前7時半、私は自宅のベッドから伸びをしながら起き上がった。

チュンチュンと鳥のさえずりを心地よく感じながら、私はベッドから出て、顔を洗いに階段を降りる。

すると、丁度廊下でばったりと父に会った。


「おはようミズキ、寝癖がサ◯ヤ人みたいになってるぞ」


「おはよ、父さ……寝癖はこれから治すの!それより公務員の癖に今日仕事なの?」


私の父は自衛官だ。

一応公務員なこともあって、土日はいつも家でゴロゴロしていた筈なのだが……。


父は迷彩服に身を包んで、カバンを担いでいた。


「事案発生、野営訓練中に行方不明になっていた少年工科学校の生徒が最近近所の街中で目撃されたんだと。警務隊はそのせいで大忙しさ」


警務隊とは自衛隊の内部の風紀を取り締まる組織らしい。

風紀だけでなく、脱走した自衛官なんかも警察と共同して例え外国に逃げようと地の果てまで追いかけるそうだ。

そんなチェイサー集団が父のいる自衛隊での役職らしい。


いわゆるミリタリーポリスというヤツ。

進撃で言えば憲兵隊?


とにかく、私は自衛官の父を持っている為か自衛隊に関する無駄知識を沢山持っている。

しかし、そんな私でも全く聞いた事の無い単語が出てきた。


「少年工科学校って……何?」


「自衛官になると決めた奴が入る高校、幹部候補を大量に育成する防衛大学と違って将来のエリート陸曹養成所だよ」


「ふーんすごいんだね」


私が適当に答えると父はため息を吐きながら「とにかく行ってくるわ」と玄関を飛び出していった。


暫くすると、自衛官に人気らしいKAWASAKIのニンジャというバイクのアクセル音が聞こえ、発進して遠ざかっていく。


私は欠伸をしながら洗面所に向かい、バシャバシャと顔を洗った。

顔をタオルで拭きながらふと私の背中に寒気が走った。


そういえば私は今家に一人だ。

私は洗面所で歯磨きをしながら、そんな事を思い出していた。


お母さんは朝早くからパートに行ったし、お兄ちゃんも部活で夕方まで帰ってこない。

頼りの父は仕事にいった。

ーーーもし、今来られたら。


な、なんてね。

まさか幾ら何でも彼等だって家に進入してくる程ストーカー気質じゃない筈だ。

そんな事をすれば誰だって通報する。


いや……だけど彼等は私と両想いだと思ってる。

通報なんかされない、逆に喜ぶはずだと思っているとしたら……。


途端に私の携帯がポケットの中で振動する。

私は恐る恐る携帯を取り出してロックを外すと……『ミズキ、昨日は何で逃げたんだ?今日は部活も休みだからお前に会いに行くぞ』


私は急いで家を離れなければと思った。

逃げなければ、逃げねばあの頭のおかしいバスケ馬鹿に何をされるか分からない。

四天王の中では一番アイツが乱暴でやばいのだ。

家に入って来ないと限らない。


私は身支度をしながら、何処に逃げようか必死で考える。

ヒナちゃんの家は?

駄目だ、彼女も部活をやっていて朝早くからいない筈だ。


近所のネカフェ?行ったこと無いから、ちょっと怖い!

他にもカラオケとか色々思いついたが、なるべくお金がかかるのは控えたい。


……どうしようか。

他に隠れられそうな場所……。


私は昨日の出来事をフラッシュバックさせた。


『明日は10時からだ!今日の分の飯か金銭は必ず持ってこいよ!』


「ないないない!絶対ない!あんなカビ臭くて、ジメジメしてて、訳わかんない奴がいる所なんて…」


ピンポーン。


チャイムが鳴る。

私は思わず尻餅をついてその場に倒れた。


『ちわー、佐◯急便でーす』


私はほっと胸を撫で下ろし、立ち上がって荷物を受け取りに行った。

ーーーやれやれ、どうやら決断の時が近づいているらしい。






ーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーー


私は昨日雨宿りした高架下で、信じられない光景に目を疑っていた。

高架橋の柱となっている太い支柱、天井と高架下を支える僅かな隙間。

そこに寝息を立てているコウモリみたいな人物が居たのだ。


昨日の夜はあんな所から話しかけていたのか……通りで居場所を特定できない筈だ。


それにしても安全措置の柵もない場所で平然と寝ているなんて……十数メートルはある下に落下すれば待っているのは死だけだ。


私は戸惑いながらその人物に話しかける。


「み、ミズリー!」


「ふっ、フガ?」


ミズリーという男は寝ぼけているのかフラフラと起き上がった。

ーーーそして、天井に頭をぶつけ、ふらっと地面へと落下ーーーしなかった。

声にならない声を絞り出した私を他所に、彼は垂らしてあったロープにひょいと掴まって消防士みたいにピョンピョンと壁を跳ねながら下まで降りてくる。


やがて地面に着地した彼はボサボサの髪をボリボリと掻きながら近づいてきた。


私は咄嗟に身構えて、後ずさった。

得体の知らないホームレスだ、接近を許してはならない。


だが、近づいてくるミズリーの風貌を見て、私は呆気に取られて動きを止めた。

若い、非常に若かった。

もっと髭の生えたオッさんを想像していたのだが、これじゃあ17の私と変わらないんじゃないかって位若いのだ。


気づけばミズリーは私と1メートル位の距離まで接近していた。

ーーーまずい!離れないと。

そんな私を他所にミズリーは目を擦りながら、「あっ昨日の小娘か、牛和田じゃねーじゃねーか」と呟き、欠伸をしながらその辺の段差に寝転がった。


「う、牛和田ってだれ?」


尋ねる私を見忌々しそうに見つめながらミズリーは答える。


「たまに相談にくる奴だ……最近こねーから楽しみの固形物が全然食べれねー……ふぁーあ、おい、俺にもう話しかけんなよ、もうこれ以上カロリーを消費する訳には行かねーんだ俺は……」


「だからそのカロリーを持ってきてやったのよ……」


私が手に提げていたビニール袋をガサッと鳴らすと、ピクッとミズリーの体が反応する。

彼はゆっくりと私の方を向いて、「……飯?」と尋ねてきた。


「メシ」


私が短く応えると、ミズリーは信じられない位のスピードで素早く立ち上がった。


「マジか⁉︎昨日のあの話の流れで本当にメシを持ってくるなんてお前相当イカレてんな!」


目をキラキラとさせながらそんな暴言を吐くミズリーに私はカチンときた。


「……あげないよ」


そう言う私に慌てて頭を下げるミズリーに、私はしょうがなくビニール袋に入れていたおにぎりを渡してやった。


ミズリーは本当に飢えていたのだろう、一心不乱に美味い美味いとかっ喰らい始めた。

途中喉に詰まって窒息しそうになっていたが、私はお茶を渡して飲ませると直ぐに復活した。


そしてまたおにぎりをムシャムシャと食べ始める。


何だか……ここまで喜ばれると、昨日のゴハンをチンして塩で握っただけなので悪い気がしてきた。

ケチらず梅の一つでも入れてやれば良かっただろうか?


そんな事を考えていると、後ろからシャッター音の様な音が聞こえた。


「ん?」


私は振り向いてみると、スマホを手に鬼の形相を浮かべていたバスケ馬鹿の姿があった。

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