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高架下のミズリー  作者: 十五歳の早計
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第1話 モテ期到来

私、澤村水希は人生最高の決断に迫られていた。

私の周りをとり囲むのは我が教室のクラスメート達。

それだけでなく、面白半分に見物に来た他のクラスの野次馬達。


そして目の前にいるのはイケメン運動部四天王の四人。


野球部ナルシスト系の山下先輩。


クールが心情のサッカーマシーン青山先輩。


活発で明るいユーモラスなバスケ馬鹿、加藤。


テニスの王◯様やってます、丸山後輩。



正に選り取りみどりっていうヤツ。

彼等四天王が何故私の目の前にいるのかというと、私を取りあって何故か教室で舌戦をくりひろげているらしいのだ。


私からしたら舌戦でなく、殴りあってサクッと決めて欲しいとこなんだけど……。

それ以前に一つ根本的な問題がある。


「これじゃあ埒があかない!結局決めるのはミズキだろ!」


「そうだ、ミズキが決めることだ」


「ミズキ!一体誰を選ぶんだ!」


「えー……」


そもそも私はこの中の誰とも恋した覚えがないんだけど……。前に一人一人にハッキリと言った筈なんだけどこの人達は覚えてない様だ。

周りのクラスメート達も興味津々で見守る中、私は口を開いた。


「か、勘弁して下さい。こんな人の多い所で」


私の悲痛な叫びは少し掠れ声となって絞り出される。女子からは早く決めろと非難の目、男子からは少しばかり同情の視線が贈られる。


「確かにこんな大衆の目に晒されるのはミズキの望ところではない。移動しよう、それがミズキの為になる。お前らもいいな?」


サッカーマシーンの青山先輩が音頭をとって四天王が頷きあう。

私は彼等に腕を掴まれ、何処かに拉致られそうになった。私は勘弁して下さいと言っただけで場所を変えて欲しいとは言ってない。


私は半泣きになりながら、ズルズルと引きずられていく。一体何処に連れて行くつもりだろうか?

正直この人達は人の話を聞かないから怖い。

もう一度ハッキリと「私は別に貴方の事なんか好きではありません」と言おうか?今度は大衆の前で。


でも前にそれを言った時は何故かフッと微笑まれた。

もしかして私の事をツンデレか何かと勘違いしていたのだろうか?

それだったら尚更解決の糸口が無い。


どうしようか悩んでいたら、いつの間にか廊下へと連れ出されていた。

やばい、早く逃げないと……。


「ちょっ離して!」


私は腕を掴んでいるバスケ馬鹿を振り払い、逃げようとする。

しかし、運動性能の違いのせいかもう片方の腕を直ぐに掴まれた。


「どうしたっていうんだよ!」


えー……。

私は半泣きになりながらこの理不尽な状況に中指を立てたくなった。


「待て!お前ら何やってる!」


後ろから息を切らしながら登場する声がする。

もしかしたら私を助けてくれる救世主の登場だろうか?

私は振り返り、期待の眼差しを贈るとーーそこには日本の高校には相応しくない、どうやって面接通ったんだよ!と尋ねたくなる銀髪イケメンの生徒会長が立っていた。


彼は息を切らしながら、ゆっくりと私達に近づいてきて、こう宣言した。


「ソイツを離せ!ソイツはな……俺の一番大切な人なんだよ!」


教室からはキャー!と女子の叫び声。

四天王はあからさまに敵意の目。場が一気に凍りついて、ピーンと張り詰めた糸みたいな修羅場ができ上がった。


何コレ……余計事態が悪化している。


私は場が緊張している隙を狙ってバスケ馬鹿を振り払い、スルリと抜け出した。

直様追いかけてくる音が聞こえる、単純な運動性能とスタミナでは向こうが上だ。

ならば近場で隠れてやり過ごすしかない。


私は近場の理科室に急いで飛び込んだ。


「わっ!」


一人実験をしていた少年が居た。

かなりの美少年だ、彼は面食らった顔をしながら私の事を怯える様に見つめている。


「ごめん!いきなりだけど何処か隠れられる場所ない?」


「えっえっ……隠れ?」


少年はオタオタしながら辺りを見回す。

やがてそれは何かを発見したかの様に停止し、ある一点を指さす。


「あそこの棚……望遠鏡入れって書いてあるけど……何も入ってない」


「何処⁉︎」


辺りを見回してみるが棚なんて一杯あって分からない。

私が尋ねると少年はとててっと走り出し、その棚をポンポンと叩いた。


「ここです…」


私は一目散にその棚目掛けて走り始めた。

それに入ろうとした時、遠くから四天王と生徒会長の声が聞こえた。


『何処にいったんだ!』


『探せ!遠くには入ってない筈だ』


『理科室……此処か!』


「⁉︎」


まるでホラーだ。

私は急いで棚に入り、扉を閉める。

それと同時に、理科室の扉が勢いよく開かれる音が聞こえた。


開閉扉の隙間から漏れる僅かな光を頼りに、内部を確認していると、いきなり目の前で先程の美少年と目があった。


「……何でいるの?」


「こ、声が聞こえて、な、なんとなく入ってしまって、すみません。直ぐに出ます!」


「い、今出られたら見つかっちゃうから良いよ。ゴメンね、巻き込んじゃって」


「いえ、いいんです……そ、それより」


少年は私の顔を見て顔を赤くしながら呟く。


「ち、近いですね」


確かに……。

少年と私の顔の距離は10センチ位しかない。


「ゴメン!暫くこの状態で我慢して!」


「ひゃ、ひゃい!」


少年は顔を上気させながら返答する。

結局私と少年は安全策をとって、20分程その状態のままだった。


そしてーーーーやがて近場で活動していた四天王達の声も遠ざかっていった。

私と少年はようやく棚から外へと抜け出る。


20分も狭い棚に二人でいたから暑くて汗を掻いてしまった。

私は少年に向き直り、手をあわせる。


「ゴメン、ありがとね!おかげで助かったよ、今度何か奢るね!」


少年はモジモジしながら返答する。


「べ、別に奢ってもらわくてだ、大丈夫です!け、けど……」


「……けど?」


少年は上目遣いで私を見ながらこんな事を言った。


「ま、また理科室に来てくださいね……」


顔を赤くしながらそんな事を言う少年を見て、私は悟った。

事態は急速に悪化している。


そう、私が人生最高の決断に迫られているというのはこういう事だ。


別に誰と付き合おうとかそういうのではない。


如何にして後腐れなくこの事態を収めるか、これが私の切実な願いなのだ。







ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーー


「という事があって、困っています」


「死ね」


都内のお洒落な喫茶店にて、そんな相応しくない物騒な言葉が出てきた。

私は現在、学校帰りに喫茶店で他校の友人と話をしていた。


彼女の名前は浅倉緋奈乃、小さい頃から一緒に遊んでいる古い友人だ。私は気軽にヒナとよんでいる。

さっきの言動からご察しの通り、彼女はかなりキツイ性格をしているのだ。


「そんな少女マンガみたいな羨ましい状況になってんの?女子校の私にそんな事相談しないでよね」


「えー……全然羨ましくないよ!私がその人達を好きなら別に構わないんだけど、そうじゃないのにガンガン迫ってくんの。もう私怖いよ!」


「……あんたがハッキリしないからじゃないの?」


「ハッキリ好きじゃない!と言ったのに全然聞いてくれないの!ドラマのヒロインみたいにツンデレってるだけだと思ってるんだよ、何それ怖い!どんだけ自信過剰なの?本気で拒否ってるのに!もう私アイツラのせいでおかしくなりそう」


そう言って机に突っ伏する私を見かねてか、ヒナはため息を吐きながら口を開く。


「私の友達集めて、そいつらシメテあげようか?口達者な怖いのを大勢連れて、ビデオに撮りながら囲んで言いくるめてメンタルをボロボロにしてやるの。逆上して手を出せば社会的にヤツらは終わる。私達の暴言を聞き入れるしかない……どういい考えでしょ?」


そんな事を真顔で言っちゃうヒナちゃん……彼女もなんだかんだでかなり怖い子だ。


「えー……い、いいよそんな怖いやり方。もうちょい平和的な解決法を模索してるの」


「まあそうだろうね、こんな事したらあんたが学校で肩身が狭くなるだろうしさ。でも、そんな事になってんなら学校の女子達には疎まれてんじゃないの?もし何かやられたら私に言いなさいよ、女子相手なら遠慮なくソイツらぶっ飛ばすから」


私は最近、女子達に嫌がらせをされているのを思い出した。


「大丈夫、仲良くやってるよ!心配しないで、今日はただ愚痴を零したかっただけだから」


「……そう、まあどうしようもなくなったら言ってね。私とアンタの中なんだから」


私は本当にいい友達を持った。

彼女のお陰で正気を保てている部分も大きい。


私達はそれから小一時間程おしゃべりをして、それから解散した。





ーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーー


一人、寂しく家に帰りながら私は空を見上げる。

もう太陽もすっかりと赤く染まり、辺りは薄暗くなりはじめていた。


……最近色んな事があって本当に疲れた。


精神的にも、肉体的にも、もう限界に近い。

幸い明日は土曜日、バイトのシフトも入ってないし一日中寝てようか。


そんなことを考えながら私は愛しい我が家の目の前までやって来た。

そこで動きを止める。


私は急いで近くの電柱の影に隠れた。

震えが止まらない、何故だ何故いるのだろう?

家の前は反則じゃないの?


いるのだ。

私の家の前に。


確認できるのは一人、多分あの身長のシルエットからしてバスケ馬鹿だろう。

深刻な顔して立ち尽くしている。


もうコレはラブコメなんかじゃない。

ストーカーじゃないか。

ホラーだ、スプラッタだ、ひぐらしだ。

怖い、震えが止まらない。


私は後ずさりながら、後ろを振り返り、 そして全速力で駆け始める。

私の存在に気がついたのか、家の方からシュターンッシュターンッと運動部の意識高い系の走る音が聞こえてきた。


「ひっ」


思わず悲鳴のようなものが漏れた。

怖すぎる、誰かの家に駆け込もうか。

警察を呼んでいいレベルな気がする。


とにかく私は一心不乱に走り続けた。

汗だくになりながら、必死に必死に。

気がつけば近所の土手を走っていた、辺りはすでに真っ暗だ。


私は周囲を警戒し、辺りを見回す。

誰もいない事を確認し、ほっと一息をついた。


それと同時に涙が出てきた。

なんでだろう、なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだろうか。


学校ではイケメンサイコ集団に追い回され、女子達には嫌がらせをされ、もう沢山だ。


気づけば町の端まで来ていた。

川の向こう側は隣町、各地で明かりが灯り、キラキラと光っていた。


「……」


綺麗だが、今は感傷に浸れる気分じゃない。

私はあてもなく、暫く歩き続けた。


すると、ポツポツと雨が降ってきた。

何処か雨風を凌げる場所はないだろうか?


「ん?」


暫く行くと、町外れの人気のない場所に、もう今は使われていないボロボロ高架橋が現れた。

確か彼処は幽霊が出るって噂の有名な心霊スポットだ。何故かビビりな筈の私が足を向ける。


……何でだろう、人間の方が怖いと知ってしまったからだろうか。

取り敢えず雨を凌げれば何でもいい。


強くなっていく雨から逃げるように、私は高架下に飛び込んだ。


「暗くて、黴くさい……」


誰かに言うでもなく、呟いた。

私はその辺の段差に腰掛けて、ため息をつく。

何故こんなところまで来てしまったのだろうか?私は最近追い詰められているせいかよく分からない行動をする。


バスケ馬鹿が家の前にいた時も、無視して家に入れば良かったでないのだろうか?

それか家にいるお父さんやお兄ちゃんに電話で伝えれば追い払ってくれたかもしれない。

いや、ハッキリともう付纏わないで!というチャンスだったのではないか?


それがこんな街外れまで来てしまった。


はあ……もう考えるのはよそう。

私は足を抱え込み、ボーッと雨の音を聞いていた。


ーーーーどれ位そうしていただろうか……。


段々と暗闇に目が慣れ始めた頃だった。

私の調度正面に、ダンボールに何かが書かれた物体があった。


「……何あれ?」


私はその物体へと近づいてみる。

よく見てみると、ダンボールで作られた簡易な看板のようだった。


携帯のライトで照らして見ると、書かれていた文字を認識できた。


「そう…だん…や?相談屋?」


其処には相談屋と書かれていた。

他にも営業時間など詳細が書かれている。





•相談屋、ミズリー。日常のささいな事や人間関係で悩む其処の貴方。私目が聞きましょう。今なら飲食物や金銭で30分間相談を聞きます。


御用の方はミズリー!と元気よく声をお掛けください。


営業時間

AM10:30〜11:30

PM15:30〜19:30




と書かれていた。

腕時計をみて、時間を確かめてみる。

現在は7時28分、ギリギリ営業時間内だ。


それにしても……なんともインチキくさい内容だろうか。

携帯を見ると、心配する母のラインが入っていた。

……そろそろ帰ろうか、どうやら雨も小ぶりになってきたようだ。


私は伸びをしてから、高架下を後にしようとして……。

振り返る。


「……」


何故だろうか、先ほどの看板が凄くきになる。

いや、看板と言えるほどの代物でもなかったけど、どうにも私の心を惹きつける何かがあるようだ。


「……み、ミズリー?」


小さく呟いてみる。

返答はない、当たり前か。


少し恥ずかしくなってきた私は、足早に立ち去ろうとして……。


「声がぁ小さぁーい!!!」


「は、はいすみません!」


怒鳴られた。

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