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サバイバル鬼ごっこ

作者: うすたく

あらすじにもある様に、「引き篭もりの俺が刑務所で変な労働を受けている。」のユニークユーザー数が100人を突破した事を記念して作った作品です。本編とは全く異なった世界観なので、本編を全て読んだ方も、これからそうする方も、そしてそうでない方もお楽しみいただく事ができます。

誤字脱字、文面による指摘等ありましたら、コメントに書いていただけると、こちらの方で対処させていただきます。

「鬼ごっこをしようと思う!」


 紫色の髪の毛の少女・空音(そらね)が総勢30人に向けて突然そう告げた。


「いや、高校生にもなって鬼ごっこって、いくらお前でも賛成しねえよ空っち」


 青髪の少年・春樹(はるき)はそう返答する。もちろんそんな返しは想定済みの様で、空音はこう言った。


「もちろんただの鬼ごっこじゃないわ。その名も<サバイバル鬼ごっこ>。」


「「「サバイバル鬼ごっこ!!??」」」


 その場にいた全員が声を揃えてそう言う。


「そう。ルールは単純。鬼に掴まればアウト。でも、捕まったからと言って鬼が交代するわけじゃないわ。やられた瞬間ゲームから強制退場。つまり負けたら終わり。」


 橙色の髪の毛の少年・(みのる)はそれを聞いてこう返す。


「そのゲーム内容を言ってくんなきゃ何がしたいのかわからねぇよ。」


 その質問も待っていたかの様に空音は鼻で笑いながら答える。


舞台(ステージ)はこの森林公園全域。つまり生い茂る木々の中に逃げ込んでも構わないわ。」


 空音の発言に桃色の髪色少女・柘榴(ざくろ)は驚愕した表情でこう返す。


「全域って・・・この公園どんだけ広いと思ってんの!?1人見つけるだけでも一苦労よ?」


 それもまた読んでいたかの様に空音は返事をする。


「ルールは本来の鬼ごっことは大きく変わるわ。今この場にいる私を含めた31人の内、鬼は1人。見つける対象が30人もいればすぐに見つかるわ。」


「でもそれって鬼の労力がやばいことになるぞ?」


「それも対策済み。鬼はありとあらゆる手段を使って敵を捕まえる事ができるわ。なんてったってサバイバル鬼ごっこですもの。」


 空音が自慢気にそう言う。白髪少女・冬華(とうか)はそのルール説明に疑問を抱く。


「あらゆる手段って、具体的に?」


 冬華の質問に空音は赤い玉と青い玉を取り出す。


「鬼は赤。人間は青。それぞれの服に敵色のインクが付いたら退場よ。」


「それってつまり・・・」


 眼鏡をかけた深緑の髪色少年・真二(しんじ)がそう言う。


「そう、鬼を殺す事が出来る。ただ、鬼は1人でアンフェアだから、特別ルールで鬼には合計50回服にインクを付けなきゃならないわ。それと、道端に付いたインクを踏んで退場とかはつまらないから、退場判定になるのは膝から上ね。」


「でもインクをつける手段がないじゃないですか〜。」


 薄い茶髪の少女・光希(みつき)がそう言う。


「鬼ごっこ開始は今から2週間後。それまでにその使えない脳をフル回転させてインクを付ける為の武器を持って来てちょうだい。」


「完全にやる事になってやがる・・・。大体、鬼は誰がやんだよ。」


 その質問に初めて空音が考えるが、わずか3秒程度で答えが出た。


「うん、第一回は提案者の私がやるわ。」


「第一回って・・・。」


「もちろん、第二回サバイバル鬼ごっこも行われるかもしれないわよ。もっと大規模で・・・。あっ、衣服の方はこっちで用意するから、私服で来てもらって構わないわよ。細かいルールは個人個人で質問すればいいわ。」


 空音は説明を終える。その顔は少し不敵な笑顔を帯びていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「武器ってもなー。エアガンとか用意すりゃ良いのかな。インクを付着させりゃ良いわけだし。」


 春樹は1人でブツブツ呟きながらそう言う。


 ピロリロリン♪


 突然可愛らしい音が携帯から聞こえる。空音からのメールだ。開くと、何やら地図らしき写真が貼られていて、その写真と共にあるメッセージが添えられていた。


「森林公園全域の地図を作成しました。当日はこれを参考に行動すればいいわ。」


「マジかよ、森林公園ってそこらのショッピングモールの3分の2はサイズあるぞ?それの地図を作るって・・・。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 同様に、同じメールが送られて来た(みのる)


「マジでやる気かよ。大体鬼1人って、いくら空音でも女の子だぞ?できるのか?あれ、1人?」


 実は何かを閃いたのか、手をポンと重ね合わせたのち、メールを開き、鬼である空音以外全員にあるメッセージを送った。


「うまく行けばこれで勝てるはずだ。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 〜当日〜


「さーて、皆集まったわね。はい、これが衣装。インクが当たった瞬間に他者に退場メッセージが送られるから、ゾンビシステムは不可能。対して私にインクが当たると、服の腕にあるカウンターが減っていくわ。0になると私は50回当たった事になり、鬼の負け。」


 予想を遥かに上回るレベルでハイテクで、空音を除く30人が驚愕する。


「それと、もうひとつ追加ルール。今みたいに対面してる状態だと、私が圧倒的に不利だから、ゲーム開始から30秒間、鬼の私はその場から離れる権利を与えられるわ。その間お互いにインクを当てる行為は許されない。いいわね?」


 その場にいる全員が頷く。


「開始時刻は8時00分から。現在は午後7時55分。今から5分後ね。せいぜい個人で作戦でも考えてればいいわ。」


 空音が調子に乗った声色でそう言う。その場に緊迫した空気が流れる。単なる遊びなのに、この緊張感はなんだろうか・・・。


「あと15秒…14…13」


 黒髪少女・あかりがゲーム開始までの時間を数え始める。


「12…11…10」


 着々と開始時刻は近付く。場にいる全員はなにをすることもなくただ立っていた。


「6…5…4…3…」


「2…1…」


 時計の針が動く。


「「「0!!」」」


 空音は全力疾走でその場から去って行く。その後、残された30人の中喋ったのは実だった。


「この30秒間の間に話したい事がある。メールで送った通り、皆にはエアガンを持って来てもらった。」


 29人はエアガンを構える。実は続けてこう言った。


「空音がこの30秒間なにをするかは大きく分けて2パターンある。ひとつは遠くへ離れて1対1を誘発するパターン。もう一つは、この近くに隠れて、発砲が許された直後に俺達の内誰かを殺してくるパターン。そこで、あらかじめ3人一組を作ってもらう。隣同士のやつだ。」


 実の話を聞いていた29人はあちらこちらに顔を動かす。


「そして、パーティの内1人でも殺されたら空音に殺される前に残りの2人は退散。別の班に合流して空音の情報を伝達。隙あらば一斉攻撃を行え。一気に鬼のライフを削るぞ。」


 その場にいた全員が頷いた。


(初手なら殺せても1人。最悪4人程度だろう。その4人は痛手だが、勝てなくなるわけじゃない。)


「残り、10秒。」


 金髪少女・(ひな)がそう言う。


「5…4…3…2…1…」


 ドパパパパパッ!!!


 全員が「0」と告げた刹那、退場通知メッセージが鳴り響く。


 ジリリリリリリリィィ!!!


 単体で聞けば対した音ではないが、ここまで大量になるとさすがに大きい。赤髪少女・詩奈乃(しなの)が驚きの声色で告げる。


「龍馬、拓人、のどか、真二、あかり、将太、翠、英那の8名退場!?」


 8名。それは実の予想を遥かに上回っていた。開始2秒で20%以上が殺された。インクが飛んできたであろう方向に誰かがいる気配はない。逃げられた。背筋に寒気が走る。


「・・・げろ。逃げろぉぉぉ!!!いつ殺されるかわかんねぇ。もはやアイツは俺達の知ってる空音じゃねぇ!」


 空音。非常に頭の回転が速く、駆け引きも強い。彼女の考える悪巧みは非常に正確かつ巧妙であったが、それを凄まじい手つきで終える空音はまさに職人だった。実は俺達は、とんでもない相手を敵に回したのかもしれない。


 逃げるしかなかった。いつ襲われるかもわからない。パーティなんて考えてる暇もなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。」


 凄まじい疲労感に襲われる。春樹は自分と同じ方向に逃げて来た4人に言う。


「空音の持つ武器はただの武器じゃねぇ。連射型だ。インクさえ当てれば良いこのゲームにおいて、速射性なんて関係ない。空音のやつ、最初からこのつもりでいたのか。」


 パァァァン!!!!


 突然爆発音が聴こえる。音の先には、赤い煙が巻き上がっていた。


 ジリリリン!!


 退場通知が届く。メールを開くのさえ怖い。初っ端あんな攻撃をされたんだ。だが、そんな恐怖心を振り絞って、メールを読む。


「実、柘榴の2名退場。」


「「実!?」」


 つい先ほど指揮を取った本人が序盤でやられた。しかし、なにやらこのメールには下がある様だ。


「小野崎実の活躍により、柊空音のライフを4減らした。蜜根柘榴の活躍により、柊空音のライフを2減らした。」


 思わずカウンターを確認する。確かに50から44へと切り替わっている。たった6という些細な事かもしれないが、2人の活躍は非常に大きい。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「・・・ちっ、6発も。私なら2発に抑えられたはず。でも実を抑えたのは大きい。」


 空音は直ちにその場を離れる。


「実君、やられちゃったね。」


 柘榴は笑顔を実に向ける。


「そうだな。でも、あいつの所持してる武器、銃だけじゃないのか?さっきの風船爆弾。下手に仕掛けられれば凄まじい範囲攻撃になる。」


「私達退場だよ。向こうに行ってようか。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


「実君の死は大きい。でもその分、実君の残してくれた事も大きい。今私達は2人の努力を無駄にしない様に戦わなきゃ。」


 冬華は他の3人に向けてそう言う。


「でも既に3分の1が退場してんだ。初撃で8人の損害は大きすぎた。実と柘榴ちゃんが守ってくんなかったら今の俺たちもいないかもしれないしな。」


「そうだな。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


「はぁ・・・はぁ・・・。」


 森の中1人で走り続ける男・海人(かいと)だった。


「これでも俺はサバイバルゲームは強ぇんだよ。負けるわけにはいかねぇ。」


 サッサッサッ!


 背後から足音が聴こえる。


「そこダッ!!!」


 パンパンパン!!!ストンっ!ストンっ!ストンっ!


 儚くも、放ったインクは木に当たる。


「外した。どこにいやがる、化け物め。」


 海人の瞳の先に人影が見える。どうみても空音のものだ。


「よぉ、タイマン張れよ。」


 空音に突如タイマンを張ったのは、世輝(せいき)だった。


「あいつ、バカなのか?」


 しかし、世輝の手が微かに動く。それは空音を指していた。


「そういう事かよ。」


 海人は銃口を空音に向ける。


 空音は世輝のわずか左に向かって発砲する。案の定わずかにはずれ、インクは背後の木に付着する。一瞬怯んだ世輝に向かってインクの付いたナイフを構えて突進する。


「今だっ!!!」


 放たれたインクは空音に向かって飛んでいく。


 スパッ!スパッ!スパッ!


「っ!?」


 3発空音に直撃する。空音は一瞬だけ動揺した後、海人に向かって赤いインクを飛ばす。かろうじでよけきり、インクは背後の入りの壁に着く。


 世輝は今だにナイフで攻められている。なんとか避けきっている。性別による体力の差だろうか。


 海人は再び銃を構え、インクを飛ばす。しかし、そのインクは完全に空音に勘付かれていた。空音は世輝の足を引っ掛け、一瞬だけ宙に浮かせる。空音は世輝をガードに攻撃を回避する。そして、身動きの取れなくなった世輝に一刺し。世輝の服に赤色のインクが付いた。


「今、なにが・・・」


 驚愕している暇もなく、空音は海人に接近する。一生懸命に海人は後退しながら攻撃を避ける。


 ドン!


 石の壁に背中をぶつける。その壁は、先ほど空音の攻撃でインクが付いたものだった。空音は海人の前に立つ。


「ここまで計画通り。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ジリリリン!


「世輝、海人の2名退場。白瀬海人の活躍により、柊空音のライフを3減らした。」


「あと41回インクを付ければ俺達の勝ち。でも、こちとら残り18人しかいねぇよ。」


 春樹はあまりの展開に絶望する。確かに少しずつ空音のライフを減らしてる。でもまだ進行度は20%にみたっていない。それに、ここまで与えてきたダメージも、2人以上の攻撃があってこそ。1人では誰1人として太刀打ちできていない。


「よし、俺が行こう。」


 そう言い出したのは、坊主頭の爽太だった。


「無理だ!空音()相手にどうこうなる問題じゃねぇ!力の差がありすぎんだよ!」


「宣言する。俺が空音のライフを8減らしてきてやるよ。」


「お前、マジで言ってるのか?」


 爽太は頷く。そして、それに続いて一言。


「そのために2人ほどついて来て欲しい。おびき寄せるためだ。」


 しかし、その意見については反論が出た。


「つまりは囮にするってこと?討ち取れる根拠もないのに死ぬとか論外。私は反対する。」


 その意見が出ると「俺も」という意見も出た。


「・・・わかった。じゃあそこで待っててくれ。俺が空音を狩ってやる。」


 そう言うと、爽太はその場から去って行った。


「本当に大丈夫なのか?爽太のやつ・・・。」


 ササササッ!!


 突然背後から草木の揺れる音がした。


 スザンッ!スザンッ!スザンッ!


 インクの付着したナイフが春樹と共に行動していた3人を貫く。


「ま、まさか!」


 ドパパパパパパパパ!!!


 その直後に無数の衝撃音が鳴り響く。


「っ!?」


 思わず空音が足を止め、自分の服を見る。


「ちっ!」


 その隙を見逃さず、春樹はエアガンで猛襲する。


 パン!パン!パン!


 3発の内1発は避けられ、即座に距離を詰められる。


「ざけんなっ!」


 シュバ!!


 春樹の服に赤いインクの直線が出来上がる。


「嘘だろ・・・こんな至近距離の弾丸を避けるなんて・・・。」


 ジリリリン。


 メールが届いた様だ。すぐに確認をする。


「彩音、春樹、隼人、光留(ひかる)の4名を退場。

 春樹の活躍により、空音のライフを2減らした。

 爽太の活躍により、空音のライフを8減らした。」


「「8…!?」」


 爽太は確かに8減らした。でも一体どこから・・・。空音は周囲を見渡しながら一言。


「一体どこから・・・。」


 空音はそう言葉を捨てて、その場から走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「当たった・・・。さすが8連弾。当たればかなりの威力を発揮するな。でも逃げるのにこれを持ってくのは邪魔すぎる。」


 爽太は目の前の大砲の様なモノを見ながらそう言った。


「犠牲者を減らすための囮だったのに、皆に断られたからなぁ。大体、動きの少ないところを狙うのは当たり前だろ。春樹みたいにその場で構えてるやつのトコなんか、カモになるに決まってる。逃げ出して正解だ・・・。」


 ジャリ・・・。


 背後から砂を踏む音が聞こえる。


「ま・・・まさか・・・」


 振り返らなかった。ここはどうするべきか・・・。逃げる?でもこの8連銃を空音に渡せばとんでもない事に、でもここで留まっても。いや、空音じゃない可能性も。


「みーつけた♡」


 背筋が凍った。先ほどまで真っ正面にいたはずの少女が背後から殺意を向けてくる。


「お返ししてあげるっ♡」


 ザクッ!


 赤いインクが血の様に飛び散る。


 ジリリリン!


「爽太、退場。途中経過。生存者残り13名。鬼の残りライフ31。」


 空音は爽太の扱った8連銃に手を出す。


「へぇ、2週間でこんなの用意できたんだぁ。私も見習わないとね。大丈夫、これを奪ったりはしないから。」


 そう言って空音は去って行く。


「化け物だ。さっきの4人同時殺し、早すぎる。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


「残り13人?もう半分もいねぇじゃねぇか!対して空音は31も残ってやがる。もはや数でどうこうなる問題じゃねぇ。」


 金髪の少年・和樹は送られたメールを見ながらそう言う。


「次狙われるのは私達かもしれないものね。」


 詩奈乃は怖いセリフをさらっと言う。


「確かにいつ危険が攻めてきてもおかしくねぇ。って、フラグ立てんじゃねぇ!」


 ◇◇◇◇◇◇◇


 空音は木の上から周囲を見渡しながら1人で呟いていた。


「まさか8機も減らされるとは・・・想定外だった。30機は残すつもりでいたのに。ヤツを残してこれだけ減らされるなんて、思ってもみなかった。ヤツとやるなら邪魔者は消した方がいいはず。あと12人を早めにやって、1対1で仕留める準備をしよう。」


 空音は向こうで歩いている4人組を発見したので、木を降りてから直ちにそちらへ向かう。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 冬華、雛、(みつる)英智(ひでのり)の四人は森で歩いていた。


「どうすんだよ。空音のやつ、同時に何人かを相手にしてもダメージを少なめに全員倒してやがる。」


 英智がそう呟く。すると雛が・・・


「確かに空音ちゃんの成績凄いからね。美術の成績以外全部10だっけ?しかも、唯一10じゃない美術ですらも8だし。入学式も特待生としての入学だし。天才としか言えないよ。」


「どう考えても成績とかの問題じゃないわ。ただ運動能力が高いだけなら男子生徒複数人を女子1人で倒すなんて鬼畜だもの。これは鬼ごっこなんかじゃない。戦闘(サバイバル)よ。」


 冬華がそう言う。その場にいた冬華を除く3人は納得した様に頷く。


 サッ!


 どこかに隠れる音がした。空音()だ。


「雛、充、英智。空音が現れたわ。直ちに距離を取って迎撃態勢に・・・んっ!!」


 冬華の声は途中で切れる。


「させないわよ。そんな事。」


 空音は冬華の胸ぐらを掴む。


「空音だ!撃て!!」


 充が雛と英智に指示をする。全員が銃を構えて発砲を開始する。


 パパパパ!


「当たるわけないでしょ!」


 空音は冬華を盾にして、3人中2人の攻撃を無効にする。気を取られている内に空音は雛に接近する。


「えっ、えっ!?」


 サクッ!


 雛の服に赤いインクが付く。その時間は5秒にも満たなかった。休む間もなく空音は充の方へ走る。


「よくもまぁバラけやがって。一人一人殺すのが面倒じゃん。」


 空音はそんな愚痴を叩きながら充を斬る。


「嘘だろ・・・。」


 空音は足を止めて方向転換し、英智の方へ向かう。


「当ててやる!」


 パン!


「遅い!」


 先程の春樹との戦闘で学んだのか、放たれたインクをいとも簡単にかわす。


「らえっ!」


 ザクッ!


 英智の服に赤いインクが染み渡る。瞬時にして3人殺った。


「さて、あとは冬華。あんただけだよ。」


 空音は冬華を見ながらそう言う。


「あなた、この公園を自分の庭の様に扱ってない?」


 冬華は空音にそう質問する。


「まあね。2週間の間、ある程度迅速に動ける様に公園の木々の配置を覚えてきたわ。」


「それをやってるのがあなただけとはおもわないでよねっ!!」


 冬華は青のインクが付着したナイフを構えて空音に突進する。


 キッ!


 2人のナイフが擦れ合う。


「へぇ、あんたもナイフを用意したんだ。でもまさかとは思うけど、本物じゃないよね?」


 空音がそう質問をする。


「当たり前じゃない。その位常識は成ってるわよ!」


 冬華は空音の腹部を蹴っ飛ばす。思わず空音は後退する。


「いった・・・。やるじゃん。じゃあ、私も本気でいくわよ!」


 空音はナイフを投げる。冬華の反応も早く、それを避ける。


「なにをやってるの?それであんたは手ブラじゃない。」


「私の武器がそれだけなはずないじゃない!」


 空音は手に何かを構えながら冬華に接近する。


 スドッ!


 やり返す様に空音は冬華の腹部を蹴る。


 ドカっ!


「んぐっ!!!」


 不意を付かれて吹き飛ばされ、冬華は木に背をぶつける。幸い痛みは大きくはない。


「私の勝ちよ。」


 空音は勝利宣言をする。


「なにを言ってんの、まだ終わって・・・。ん?」


 冬華は背中に何かが付いた様な違和感を覚える。先程投げたナイフのインクが木に付き、そこにぶつかった冬華の背中にインクが付いたのだ。


「まさか、ここまで計算して・・・。」


 空音は頷いた。その瞬間、空音も背中に違和感を覚える。


「まさか・・・。」


「よし、空っちに当てたぞ!」


 光希がエアガンを向けながらそう言う。


「どこからともなく湧きやがって。」


 空音は光希の方へ走る。残り3mとなった時


 ドパパパパ!


 四方から攻撃を喰らう。


「なっ!」


 しかし空音は大きくは動揺せず、光希を確実に倒す。そして、先程付いたインクから場所を特定し、直ちにそちらへ向かう。


「残念、こっちもだよ!」


 ドパパ!


 先程よりは少ないものの、空音の服に新たな青いインクが付く。


 スパ!


 空音は男を刺す。


「クソが、一体どこから・・・。」


 ジリリリン


 メールが届いた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


「ほう、やるじゃねぇか。」


 神助(しんすけ)は届いたメールを見ていた。


「雛、充、英智、冬華、光希、大吾の6名を退場。残り7名。

 幸太郎、光希、大吾、誠、正樹、俊、由香里、遥、の活躍により、鬼のライフを16減らした。鬼のライフ残り15。」


「俺を除いて残り6人。この猛撃をしたのは8人。内2人は空音に殺られた。つまり俺以外の全員が空音を攻撃したわけか。」


 神助は木から降りて、ゆっくりと歩みを始める。


「空音の事だ。6人位瞬殺すんだろ。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


「「はぁ・・・はぁ・・・。」」


 幸太郎と誠と由香里は空音への猛撃後、即座にその場を離れて休んでいた。


「大吾と光希の犠牲で16も与えたんだ。かなりの進歩のはずだ。」


 誠は息を切らしながらそう言う。


「でも、6人係でやっと16だよ。それもこちらからの奇襲で。もうこんなに上手くは行かないよ。」


 由香里がそう言うと、幸太郎はある案を提供する。


「ここからは全員ある程度の一定間隔で行動しようと思う。冬華がやられた時、空音は4人を倒すのに少し時間をかけていた。距離さえ空けてれば討つチャンスは自然と生まれるって事だ。」


 幸太郎の案に2人は賛成して、一定間隔を取り、同じ方向に平行移動する。


 ズバっ!


 誠が殺られる。その音を聞き逃さず、2人は音の方向へ銃を構える。


「由香里!構うな撃て!!」


 ドパパ!


 空音は由香里の放ったインクを容易くかわすが、背後からの幸太郎のインクは避けられず、何発か当たってしまう。


 スパ!


 確実に由香里を堕とし、射程の届かない範囲に行ってから幸太郎と空音は向かい合う。


「「殺す・・・。」」


 2人は同時にその台詞を吐く。空音は銃を構える。


「お互いに遠距離武器か・・・。まだ仲間がいる分こっちが圧倒的に有利だ。」


 幸太郎は1人でブツブツ呟く。


「「「くらえっ!!!」」」


 ドパパパパ!!


 空音の服にインクが付く。それにすぐに気付いた空音は直ちに幸太郎の方へ進む。銃を構えながら、冬華と戦った時に用意したんだ物を幸太郎に向かって投げつける。


 パァン!!


 破裂音と共に赤い煙が巻き上がる。


「よし、幸太郎は殺った。あとは神助を除いて3人。恐らく今私に奇襲をしてきた奴等だ。」


 空音は銃を構えて周囲を見渡しながら進む。


 カサカサッ!


 音がした方向にインクを放つ。


 パスっ!


 見事に当たった様だ。俊が姿を現す。


「よく見えない敵を当てられたな。」


「うるさい黙れ!」


 空音は俊を黙らせ、耳を集中させる。


 パン!


 発砲音が聞こえた。それを華麗に避けて、インクの軌道を予測し、放たれたと思われる方向にインクを放つ。


 スパ!


 またもや的中する。空音は思わずガッツポーズを取る。


「残るは正樹だけ。神助以外は1対1で怖いやつなんていない。」


 空音は再度耳を澄ませる。


 パン!


「後ろ!?」


 不意打ちに反応できず、空音の服に青インクが付く。


「そこだぁ!」


 インクを放つが、当たった気配はない。外した。


「くっ!どこだ!」


「ここだよ!」


 正樹の声と共に空音の服に新たなインクが付く。


「今度こそ!」


 空音は正確にインクを放つ。今度ははずさなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 ジリリリリィ!!


 空音に殺られた人達が集っている中、メールの音が鳴り響く。


「正樹、誠、幸太郎、由香里、俊、遥の6名退場。生存者、残り1名。

 正樹、由香里幸太郎、遥、俊の活躍により、鬼のライフを13減らした。」


「13?」


 実がメールを見ながらそう言う。


「空音のライフは残り3だ!勝てるかもしれねぇぞ!」


 春樹は思わず声をあげる。が、それを冷静に止める冬華。


「分からないわ。残っているのは1人。1対1で空音に3回攻撃を当てるのがどれだけ至難な業か、わかってるの?」


「そんなこと分かってるよ。もう、神助に賭けるしかねぇ。」


 ◇◇◇◇◇◇◇


「残り3機・・・これだけで神助に勝てるのかしら・・・。」


 空音はインクだらけの服を脱ぎ、中に着ていた私服姿になる。


「あの服、少し重いからこっちの方が良いわね。」


 空音は風船爆弾を片手に、ナイフを左ポケットに、銃を右手に持つ。


「神助に接近戦は無理ゲー。だったら爆弾と銃で戦うしか・・・。」


 ズガッ!!!


 突然空音は吹き飛ばされる。空音の服にインクが付いていた。


「私服になったのか、可愛いじゃねぇか。」


 声の主である神助は空音を蹴り、吹き飛ばした。腹部を思い切り蹴られ、トンデモない痛みに身を駆られる。


「んぐっ!はぁはぁ。」


「この服脱いじまったら、判定にならねぇよな?俺の靴にわざわざインク付けたんだ。脱ぎ捨てた服にインク付けて、判定にさせてもらうぜ?」


 神助は空音の服にインクを付ける。


「このまま俺が3回この服を踏めば、俺の勝ちだ。でもよぉ、お前はそんな展開望まねぇよな?」


 空音は頷きながら答える。


「当たり前でしょ・・・んぐっ!あぁ。」


 神助の蹴りは鳩尾(みぞおち)に入っていた様で、その激痛はかなりの時間持続していた。


「痛みが癒えたら立て。別にその状態からその銃で打っても構わねぇが、お前は俺の実力を知ってるはずだろ?この距離の弾なんざ、避ける事など造作もない。それに、お前こそ2機残ってんだ。そんなヤボな真似するはずないよな。」


 空音は腹部を摩りながらゆらりゆらりと立ち上がる。


「良いわよ。1対1で戦いましょ。」


「望むところだ。」


 神助は空音の着ていた服を踏みつける。


 ジリリリン!


 空音のライフが減った音だ。神助はそれを確認する。


「桜崎神助の活躍により、鬼のライフを2減らした。鬼の残りライフは1。」


「オッケーだ。さぁ、最終決戦を始めよう。」


 空音と神助の間に不穏な空気が流れる。


「こうやって向き合うの、いつ以来かしらね。」


「過去を振り返るつもりなんかねぇよ。大体、付き合ってた頃のお前は俺に凄く甘えてきて可愛かったのによ、どうして急に別れようなんて言ったんだ?」


「あんたこそ振り返ってんじゃない。それに、私は今でも可愛いでしょ。」


 空音と神助のその場の雰囲気に似合わない他愛もない会話をする事20秒。


「さて、私から行くわよ!」


 空音が構えていた風船爆弾を投げつける。


 パァン!!


 視界を遮っている内に空音は走って逃げる。メールは来ない。避けられたのだろう。


「初っ端から爆弾とは、調子に乗りやがって。」


 神助は空音を見失わぬ様、追いかける。


「神助は恐らく武器を持ってても素手で戦う。それはつまり、遠距離戦なら私が圧倒的に有利ということ。でも、ここまでの戦いでかなり疲労が困憊してる。できれば時間稼ぎをしたいところね。」


 空音は走りながらそう言う。


「空音のやつ、ほんとに女子なのか?逃げ足が速すぎる。」


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。ここまで来れば・・・。」


 空音は勝利を確信した表情でいる。


「見つけたぞ、ってあいつの持ってる武器はなんだ!?」


 空音がもたれかかっていたのは、爽太の扱っていた8連銃だった。


「爽太君には嘘をついちゃったけど、この際使わせてもらうわ。」


 ドパパパパパパパパ!!!


 8つの赤いインクが神助をめがけて飛んでいく。


「おらぁっ!おらぁっ!んおらぁっ!」


 飛んできたインクを蹴りで弾く。


「ルール上、膝下は当たっても問題ないんだよな。」


「ルールを逆手にとるなんて、あんたも頭良くなったじゃない。」


「どうだ?惚れたか?」


「別に・・・。」


「そうかいそうかい!」


 神助は全力疾走で空音に接近する。


(かかった!!!)


 空音は足元の風船爆弾を破裂させる。


 パァン!!


 赤い煙が巻き起こる。神助は即座に後退をする。


「こしゃくな真似しやがって!」


 空音の猛撃は止まらず、銃で応戦する。ギリギリになりながらも神助はそれを避ける。空音は左ポケットからナイフを取り出し、神助の方へ走る。


「最後の最後で接近戦かよぉ!」


 神助は拳をグッと握り締める。


「「くらええぇぇぇぇぇ!!!」」


 ◇◇◇◇◇◇◇


「いやー、サバイバル鬼ごっこ、予想以上に楽しかったねぇ。」


 空音は楽しそうな表情でそう言う。


「初っ端やられた俺は超つまんなかったけどな。」


 空音に開始早々やられた8人は悔しそうな顔でそう言う。


「そういや、空音はどうして私服なんだ?」


 実が疑問を持った様に質問をすると、空音は「あっ・・・」と言う。空音は何かに勘付いた様だ。


「にしても、空音強過ぎんだろ。1人で30人全員倒すなんてよ。」


 春樹がそう言うと、空音は「あは、あはははははー」と、何かをごまかす様に笑う。それを疑問に感じた冬華が質問で攻める。


「空音さん、なにか隠してない?」


「えっ!?いや、別に?私服だから神助の攻撃が判定になってなかった事なんて隠してないよ?アハハハ、ハハハ〜。」


 空音は笑っている。それを見ていた神助は


「つまりは、今回はお前の勝ちだが、お前が私服だったが為にお前の攻撃と俺の攻撃、どっちが速かったかは分からなかった訳か・・・。」


 神助は怒った表情でそう言う。


「また今度、もう一回サバイバル鬼ごっこやろ!ねっ?ねっ!」


「今すぐ決着じゃぁぁぁぁぁ!!!」

「サバイバル鬼ごっこ」いかがだったでしょうか。過去最大規模の文字数ですが、2日間で書き終えることができました!100人突破したのに気付いたのは、リア友が教えてくれたおかげでして、それがなければこの作品は生まれなかった事でしょう。ありがたやー、ありがたやー。


さてさて、本作品の主人公として登場しているキャラクター達ですが、本編どころか名前すらも登場予定がなく、急遽作ったキャラクターです。総勢31人の名前を制作と共に作ったモノで、途中から苗字を考えるのがだるくなり、ファーストネームだけで記載されている所が多々見受けられると思われます。まぁ、仕方ないよね!


今回の「サバイバル鬼ごっこ」を読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます!ここまで来れたのも読者さん達のおかげです。まさかここまで来れるとは思ってもいませんでした!

この「サバイバル鬼ごっこ」を手にとっていただいた方、是非是非本編の「引き篭もりの俺が刑務所で変な労働を受けている。」と「夢喰少女」をご覧ください!ローテーションで投稿しているので、1作品1作品の投稿頻度にはムラがありますが、既に合計50話は投稿されているので、しばらくはお楽しみいただけるかと思います!


「引き篭もりの俺が刑務所で変な労働を受けている。」と「夢喰少女」の読者の皆様、今回「サバイバル鬼ごっこ」を手にとっていただいた皆様、そしてこの情報を提供してくださったリア友様、本当にありがとうございました!


またの機会をお楽しみにしています!

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