1-7
「はい、どうぞ。無駄遣いしたら、だめゴブよ~?」
「うん、ありがとう」
翌日、オレはプリンちゃんからお小遣いをもらった。
銅貨5枚と銀貨2枚だ。
よくはわからないが、お小遣いとして手渡されたのだから、おそらく食事代+α程度の金額なのだろう。
「プリンちゃんは、今日も仕事?」
「そうゴブ。……あ、でも、ソーハは体を治すことだけ考えればいいゴブよ!」
「もうだいぶよくなったけどね。
……完全に治ったら、オレにもできる仕事を探さないと」
「そうゴブね……。いい仕事がないか、知り合いに聞いておくゴブ!」
「ほんと? 何から何まで頼っちゃって悪いけど……」
「問題ないゴブ! それじゃ、行ってくるゴブね!」
「うん、行ってらっしゃい」
プリンちゃんが出かけると、すぐさまレルムタイムとなる。
耳に優しいプリンちゃんの声から、キンキンと甲高いレルムの声へと、聞こえてくる音の質がいきなり変わるから、若干の身構え、というか耳構えが必要だ。
「ソーハ、なんか失礼なことを考えてないだわさ?」
「ん? レルムが可愛いって思ってただけだよ」
「あらん♪ そんな当然のこと言っても、ボクは全然嬉しくないだわよ♪」
両手を頬に当てて身悶えながらのたまうレルム。
なんとも単純であしらいやすい。
「さてと、早速、行きますか」
「あいっ! 尾行開始だわさ!」
というわけで、オレとレルムは出かけていったばかりのプリンちゃんの追跡を始めた。
目的はもちろん、プリンちゃんの仕事がなんなのかを確認するためだ。
「なぜか教えてくれないんだよね」
「絶対に怪しい仕事をしてるだわさ!
さっきの話だって、ちょっとおかしかっただわよ!
ソーハの仕事を探すの、知り合いに聞く前に、自分の職場で聞くのが先だわさ!」
「う~ん……。プリンちゃんの職場は手が足りてるってだけかもしれないけど」
「きっと、裏の仕事に違いないだわさ!」
「裏の仕事って……」
プリンちゃんの雰囲気からして、そんな可能性は低いと思われる。
だとしても、隠そうとまでする仕事についてはちょっと興味がある。
オレはこそこそと身を隠し、ゆったりとした動作で歩いていくプリンちゃん背中を追いかけた。
しばらく歩いている間に、プリンちゃんは何度も声をかけられていた。
おはよう、といった挨拶の声を受け、プリンちゃんの方も笑顔で挨拶と会釈を返す。
挨拶だけでなく、軽く会話を交わしたりもしている。
プリンちゃんは人あたり(ゴブあたり?)のいい性格だから、誰とでもすぐに仲良くなれるタイプなのだろう。
「ふん! あんなの、表面上だけだわさ!」
「そんなことはなさそうだけど……。
でも、仮に表面上だけだったとしても、社会の中で生きていくなら必要なことだよね」
コミュニティー内では、あまり浮かないようにしつつ、かつ、それなりの関わりを保つ必要がある。
そうでないと、目の敵にされて事あるごとに攻撃される対象となったり、逆にハブられて孤独に打ちひしがれる結果になったりして、自分自身が苦しむ羽目になる。
……なんだろう。
記憶を失っているはずなのに、今、心がズキンと痛んだような……。
「こら、ソーハ! ぼけっとするなだわさ!」
「痛っ!」
レルムがちっこい足でオレの肩口を蹴っ飛ばす。
妖精サイズだからケガをすることもないと思うけど、それにしたってキックはひどいのでは。
「レルム、お前……!」
「目的を忘れちゃダメだわさ! プリン、曲がり角を曲がっただわよ!」
「おっと!」
今は尾行中だった。
オレは素早く曲がり角まで駆け寄る。
だけど――。
「あれ……?」
プリンちゃんの姿はどこにも見当たらない。
曲がり角の先には、さらに細い路地へと入る道が多数あり、それぞれ確認してはみたものの、ターゲットの再発見には至らなかった。
このあと、レルムのキック攻撃を何度も食らう結果となったのは言うまでもない。
プリンちゃんを見失ったあと、細い入り組んだ路地を適当に歩いてみた。
レルムは「怪しい店が立ち並ぶ怪しい裏路地だわさ!」とか言っていたけど。
実際には単なる住宅地のようだった。
狭い範囲に密集している石造りの家々。
かなり埃っぽい印象のある、薄暗いジメジメとした場所だ。
この辺りには貧しいゴブリンたちが暮らしているのだろう。
ゴブリンの世界でも、貧富の差ってのはあるものなんだな。
と、そこで。
くきゅるるるるぅぅぅぅ~~~~……。
おなかの虫が音を鳴らす。
「あはははは! ソーハ、おなかが鳴っただわさ! 可愛い音だっただわさ!」
「うぐぐ……。今朝はごはんが少なめだったから……」
そもそも、この世界の食事は比較的質素なものが多い。
プリンちゃんの作る料理がそういうものばかり、というだけなのかもしれないけど。
育ち盛りの男子高校生としては、さすがに足りていなかったのだ。
……ゴブリンに転生しているのに、男子高校生と同じカロリー摂取量が必要なものなのかな?
意識は以前のままだから、脳がまだ順応できていないだけという可能性もある。
なんにせよ、おなかがすいたという事実に変わりはない。
「食事のできそうな店でも探そうか」
「ここら辺の裏路地だと、怪しいお店しかなさそうだわよ!」
「いや、この路地じゃ店自体がないってば。……あ、少し先まで行けば、何かありそうだな」
この細い路地では、ゴブリンの姿はほとんど見かけないけど。
奥まで行った先の通りには、ちらほらと行き交う人影(ゴブ影か……)が確認できる。
オレは急ぎ足でその通りを目指した。
通りに出た途端、まるで世界が変わったように、明るい空気に包まれる。
「あっ、喫茶店だわさ!」
その言葉通り、レルムが指差す先には一軒の喫茶店があった。
なにやら暖色系の看板や飾りつけがなされた、女子受けしそうな喫茶店だった。
オレが足を踏み入れるのは、少々躊躇するくらいだけど……。
ぐっぐっぐぅぅぅぅぅぅ~~~~……。
おなかの虫が執拗に急かしてくる。
周囲を見回しても、他に飲食店らしき建物は見受けられないし。
ここは、気にしている場合でもないだろう。
オレは意を決して、その喫茶店の入り口をくぐった。
「いらっしゃいゴブ、ご主人様!」
入った瞬間、ふたつの驚きに襲われる。
原因のひとつは、突然「ご主人様」なんて呼ばれたことだけど。
もうひとつは、その声に聞き覚えがあったからで……。
「って、ソーハ!? どうしてここにいるゴブ!?」
そう、それはプリンちゃんだった。
彼女は喫茶店のウェイトレスをしているようだ。
「いや、お金も貰ったし、おなかがすいたから、ちょうど目に留まったこのお店に入ってみたんだけど……」
返事をしつつ、プリンちゃんの全身を上から下まで眺める。
「ちょ……ちょっと、そんなにジロジロ見ないでほしいゴブ……」
すその短いスカートを手で押さえながら、もじもじと体をくねらせるプリンちゃん。
ウェイトレスとしての制服なのだろう、他にも数人、同じ服装のゴブリンがいる。
そしてそれは、とてもひらひらした造形の服で……。
「え~っと……。メイド喫茶で働いてたんだね。プリンちゃん、似合ってるよ」
「はううう……。恥ずかしいから、教えたくなかったのにぃ~……」
べつにそこまで恥ずかしがる必要もないとは思うけど。
ちょっとスカートが短すぎるくらいだし、あまりにも可愛らしすぎる服装だし、ウサギ耳のようなリボンまでつけてるし。
確かに、進んで知り合いに来てほしい、とは言えない感じかな……?
「あら~? そちらがプリンニャンの噂のカレシさんゴブン~?」
同僚と思われるメイドゴブリンが、ニタニタと笑いながらプリンちゃんに声をかけてくる。
「な……なに言ってるゴブ!? ソーハは、そんなんじゃないゴブ!」
「え~? そうゴブン~? そのわりに、すっごく仲がよさそうゴブンよ~?」
「本当にそんいうのじゃないゴブ~! ロアニャン、からかわないでゴブ~!」
オレはその様子を微笑ましく思いつつ眺める。
プリンちゃんが隠そうとしている仕事。
レルムに言われたからってわけじゃないけど、なにかヤバい仕事だったらどうしよう、という思いもわずかばかりあった。
でも、現実にはメイド喫茶での仕事で、制服が恥ずかしいから隠していただけだった。
それに、同僚とも仲良くやっているみたいで、楽しそうな職場だということもわかった。
「しかも、プリンニャンって……。ぷぷぷ……!」
「な……なにゴブ!? 笑うことないゴブ!」
「だってさ……ウサギの耳なのにニャンって……!」
「あー、これは今日がウサ耳デーだからゴブン! 猫耳の日も、犬耳の日も、クマ耳の日も、アクマ耳の日もあるゴブン!」
笑いをこらえるオレに、ロアニャンと呼ばれたゴブリンが説明してくれた。
アクマ耳って……それだけ異質な気もするけど……。
「そうなんだ。ところで、ロアニャンって、本名はロアっていうのかな?」
「本名はババロアっていうゴブン!」
「え? だったら、ババニャンと言うべきじゃ……」
何気なくそうつぶやいた次の瞬間、ババニャン……いやロアニャンはオレのすぐ背後にいた。
すかさずオレを抱えこむように腕を回し、首筋に銀色に輝く切っ先が向けられる。
刃物……ではない。だけど、それはフォークだった。充分に殺傷能力はある。
「もう一度その呼び方を口にしたら、頸動脈から血が噴き出ることになるゴブン……」
「う……、はいっ! 二度と言いません!」
どうやらここは、単なるメイド喫茶というだけではないようだ。
「お……美味しくなるおまじないゴブ~……。も……萌え萌えきゅん~……」
「声が小さいよ? オレはお客様……というか、ご主人様なんだから。しっかり声を出して!」
「ううう……。お金、私があげたものなのに……」
「ご主人様に口答えするなんて、ここのメイドの教育はどうなってるの?
店長に文句を言わないとダメかな~?」
「わ……わかったゴブ、ちゃんとやるゴブよ~!
美味しくなれなれ! 萌え萌えきゅん! 私の気持ちも一緒に食べてね♪」
若干やけくそ気味ではあったけど、プリンちゃんはオムライスに魔法をかけてくれた。
「うん、ありがとう。美味しくいただけそうだよ」
「うう~~~……。だから知り合いは呼びたくなかったゴブ~~……」
相手が知り合いじゃなかったとしても、恥ずかしい気がするけど。
そこはスルーしておこう。
それにしても、オムライスか……。
オレは今しがた魔法をかけてもらったばかりの、ケチャップで絵が描かれたオムライスに目を向ける。
パンだけかと思ったら、お米もあるんだな、この世界。ケチャップまであるし。
「このネコの絵も、描いてくれてありがとう!」
「……うう……ウサギなのに……」
「えっ……これ、耳が短いけど……」
「ううう~~。私、絵は苦手ゴブ~……」
「ま……まぁ、味に変わりはないから。
とにかく、ありがとう! ……うん、美味しい!」
と、こんな感じで、充分にメイド喫茶を満喫する。
プリンちゃんの違った一面も見られて、なんとも得した気分だ。
「そういえば、来る途中、どうしてあんな細い路地に入っていったの?
近道にはなるかもしれないけど、ここの通りなら別のルートでもいいよね?」
オムライスをいただきながら、疑問を投げかけてみる。
ふと思い出しただけで、話題なんてなんでもよかったのだけど。
「え? ソーハ、もしかして私のあとをつけてきたゴブ!? 信じられないゴブ~!」
「あはは、ごめん」
そうだった。偶然見つけたって話になってたんだっけ。
「だけどさ、なんか薄暗い路地だったし、ひとりきりじゃ危険もあるんじゃない?」
「あら、心配してくれるゴブ? ありがとう。
……でも大丈夫ゴブ。あの辺りは、よく行くゴブよ。
今日は、子供たちに無料チケットを配ってたゴブ。
以前からこの店に来たいって言ってたから、店長さんに特別に用意してもらったゴブ」
「無料チケット? そんなの、店の損失になるだけじゃないの?」
「そうでもないゴブよ? 子供たちから話を聞いた親が、来てくれたりもするゴブ」
「お土産も持たせたりすると、お礼を兼ねて来てくれたりもするゴブン!
そしたら、こっちのものゴブン!
なんたって、ここには可愛いメイドさんたちがたくさんいるんだから!」
ババロアちゃんまで加わって力説してくる。
「自分で可愛いとか言うかよ。でも、そういうものなんだな」
「こちとら商売ゴブン! 慈善事業ではないゴブンよ!」
「そりゃそうか」
そんなことを話していると、入り口から数人のゴブリンが店内に飛びこんできた。
大声を上げながら、ドタバタと走り回る。
「お姉ちゃん、来たゴブゴブ!」
子供のゴブリンたちだ。みんな、先ほど話していた無料チケットを高々と掲げている。
というか、今プリンちゃんに声をかけたあの子……このあいだ公園でオレにぶつかってきたゴブリンじゃないか。
「もう! うるさくしないゴブ! ここは喫茶店ゴブよ?」
「お姉ちゃんが怒ったゴブゴブ~!」
バラバラに逃げ出す子供たち相手に、翻弄されるプリンちゃん。
メイド喫茶がいきなり幼稚園にでもなったような印象だ。
あの子たちは実際にはもう少し上……おそらく小学校低学年くらいの年齢だと思うけど。
……この村には学校なんてないだろうから、この表現も微妙かもしれないな。
「えいっ!」
プリンちゃんの脇を通り過ぎた男の子ゴブリンが、素早く右手を振り上げる。
狙いはスカート。
「きゃ……っ! もう~~~っ!」
真っ赤になってスカートのすそを押さえるプリンちゃん。
その後、すぐにオレの視線に気づく。
「ソーハ……見たゴブね……?」
「い……いや、あの……」
見てない、と言ったところで、状況がわかっている以上、白々しいだけ。
逃げ場はない。
「あ~~~~~ん、見られたゴブ~~! もうお嫁に行けないゴブ~~~!」
プリンちゃんはその場でうずくまって泣き出す。
なにを大げさな……と思わなくはない。
ただ、見たのは事実だしな……。
なお、スカートの下には、言うまでもなく下着を着用していた。
ゴブリンだから、そのさらに下の素肌は緑色だったけど……。
こんな様子を見て、子供たちが騒ぎ立てないはずがない。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんを泣かしたゴブゴブ~~~~!」
「セキニンを取るしかないゴブブブ~!」
「セキニンってなにゴゴブブ?」
「そりゃ、お前、ケッコンに決まってるゴブゴブ!」
おかしな流れになりかけたところで、ババロアちゃんが助っ人に来てくれた。
「はいはい! こっちにジュースとお菓子、用意してあるゴブン!
静かにできない子には、あげないゴブンよ~?」
「わ~~~~い! 静かにするゴブゴブ!」
子供たちは我先にと、ジュースとお菓子が置かれたテーブルの取り合いを始めた。
「急がなくても、全員分あるゴブン!」
なかなか手慣れた対応だ。オレは関心する。
そして――。
「うううう~~~………」
うずくまっているプリンちゃんの方を見て、接客にはあまり向いていないのかも、といった感想を浮かべる。
ともあれ、これはこれで可愛いし、だからこそメイド喫茶ならやっていける、ってことなのかもしれないな。
オレは自然と笑顔をこぼしながら、オムライスを食べ進めた。
……ここで終わっていればよかったのだけど。
さらなる闖入者が現れ、場は混乱を極めることになる。
「な……っ!? プリンが泣いてる……だと!? どういうことだ!? ゴブー!」
巨漢のゴブリンが店内へと足を踏み入れる。
ギロリ。
鋭い視線は、プリンちゃんのすぐそばにるオレへと向けられた。
プリンちゃんの幼馴染みで、プリンちゃんに好意を寄せている、とんでもなく図体のデカいゴブリン、ゼリー。
オレの目の前で今、プリンちゃんは屈みこんだ状態で泣いている。
事故ではあったものの、その原因がオレ自身にあったのは紛れもない事実。
ああ、面倒なことになりそうな予感……。
予感というか、確信だな……。
案の定、ゼリーは敵意をむき出しにしてオレを怒鳴りつけてくる。
「お前か……! お前がプリンを泣かせたんだな!? ゴブーーーッ!」
「え~っと、食事中だからお静かに……」
「ふざけるな! 二度と食事が喉を通らない体にしてやろうか!? ゴブーーーーーッ!!」
火に油を注いでしまった。
とはいえ、こんなヤツ相手に、まともに戦って勝てるはずもない。
というか、そもそも戦う理由がない。オレはべつに悪くないのだから。
「ほんとになんでもないから! ただちょっと、事故でスカートの中が見えちゃっただけで……」
「なんだとぉ~~~!? うらやま……じゃない、事故といえど許されざる行為!
しかもそれを、なんでもないことだと!? 万死に値する! ゴブーーー!」
怒りの理由が微妙におかしな方向へ逸れているような気がしなくもないけど。
とりあえず、今オレが危険な状況下にいるというのは間違いない。
「ああ……ゼリー、だめゴブ……! ソーハは悪くないゴブ……! 私が全部悪いゴブ……!」
「う~ん、ゼリーっちは村の闘技大会で毎回優勝している猛者だゴブン~。これは血が見られそうゴブンね~」
健気なヒロインの言葉(この場合はさらに油を注ぐ結果になる)と、
聞きたくもなかったババロアちゃんからの情報が耳に届く。
「ゴブーーーーーッ! ゴブーーーーーッ!」
ゼリーは闘牛のように鼻息を荒くして今にも飛びかかってきそうだし。
ババロアちゃん以下、子供たちや他の客たちは、完全にイベントを見に来た観衆と化しているし。
オレはいったいどうすればいいのやら。
「ま……まぁ、待って。ここは落ち着いて話し合おう。心の友よ」
「問答無用!」
オレの声のかけ方もマズかったのだろうか、ゼリーは突進を開始した。
ツノなんて生えてはいないけど、見えないツノがオレの心臓を狙っているかのように思える。
「ゴブー! だいたい最初からオレ様は気に入らなかったんだ!
ただヨーグルトに似てるってだけで、プリンに優しくされやがって……!」
「え……?」
そうか。
オレはヨーグルトくん――亡くなったプリンちゃんの弟に似ているのか。
だから、こんなにも親切にしてくれたってことか……。
いくら同じゴブリンだからといって、見ず知らずのオレに優しくしてくれるなんて、普通ならありえない。
それはオレを通してヨーグルトくんを見ていたからだったのた。
自分の不注意のせいで死なせてしまった、弟への罪滅ぼしの意味を込めて……。
「ち……違うゴブ! ヨーグルトのことは、なにも関係ないゴブ!」
プリンちゃんは否定してくれたけど。
それでも、無意識に思い出を重ねてしまうほど、オレがヨーグルトくんと似ているのだとしたら。
まったく関係ないとは、言い切れはしないだろう。
呆然と立ち尽くしていたオレの顔面を、ゼリーの容赦ないパンチが襲う。
なすすべもなく吹っ飛ぶオレ。
あまりにも無防備で、抵抗すらしなかったことに、殴った張本人も驚きの顔を見せていた。
「お……お前、なぜ避けなかった!? ゴブー!」
「ん、いや……」
まともに答える気力もなくなっていた。
思いっきり殴られ、鼻血が出ていた。口からの出血もあった。
吹き飛ばされた勢いで、椅子やテーブルにも被害が出ているようだった。
心配そうな表情のプリンちゃんが見つめる中、オレとゼリーは店から追い出された。
「わ……悪かったな……。ゴブー……」
「うん、大丈夫」
適当に答え、オレはゼリーを残してトボトボと歩き出す。
耳元でレルムがなにやら騒ぎ立てているのはわかっていたけど、まったく脳には届かず。
どこをどう歩いたかすら覚えてはいないものの、気づけばオレはプリンちゃんの家まで戻ってきていた。