プロローグ
今回が初めての投稿になります。至らぬ点もありますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
プロローグ
「はぁ、終わった~。今日もしんどかったな~」
億劫な中等部を終え、帰り道をだるそうに歩いていく。
この少年は細井結星。中等部の3年生でもうすぐ卒業である。
「今まで魔法やら魔剣なんて無かったのに、急に覚えろ言われてもなぁ・・・」
そんな小言を吐き捨てながら我が家へと辿り着いた・・・が、どうも騒がしく家の中がお祭り騒ぎのようだ。
なんだ?と思いながらその白くて重い玄関を開ける。
「ただいま、何かあった?」
「あ、おかえり!あの子がやりよってん!優勝やで!優勝!」
母がリビングから駆け寄りながら嬉しそうに話しかけてくる。
すると母の後ろから楽しそうな声で「お母さん、あの子じゃわからんやろ!」と三女の姉が割り込んでくる。
「私な、今回の京都魔法文化総合大会の『スペルアーツ』部門で優勝してん!」
「え!それは凄いな。おめでとう!今日の夕飯は期待出来そうじゃん」
「そやな、今日はええ夕飯にしなな!任せとき、母が腕によりをかけて作ってあげるわ!」
家族達のにぎやかな声に紛れつつ結星の心は複雑な想いで溢れ返っていた。
姉を祝福する気持ちは勿論有った。だが別の思いも有ったのだ。
そう、劣等感である。
数年前、ある科学者が人の内なる力を見つけ、それを動力にし様々な現象を発生させる技術を見つけた。
世界はその力を[魔力]と呼び、技術を[魔法]と呼んだ。
世界中の国々はその驚愕の技術を我が物にしようと研究を進め、気が付けば・・・全世界はファンタジーの世界へと移り変わってしまっていた。
そんな世界の中で結星は劣等生であった。
中等部で何度も魔法を使おうとしたが上手く成功した試しがなかったのだ。
その内魔法に対して劣等感が生まれ、今では、一生懸命やるほどではない、自分には必要ないものだと感じ、魔法も勉強も・・・いや学校そのものが億劫になりほとんど友人達と遊ぶ為だけに通うようになっていた。
しかし、姉は違ったのだ。
姉は昔から馬鹿みたいに勉強ばかりしていたのに、人付き合いも良く明るい性格でまさに優秀を絵にしたような女性だった。
そんな彼女は名門と呼ばれる府立ガノッサ高等学校に入って魔法を学び、スペルアーツ研究部という魔法を使った戦闘を行い実力を競い合う運動部に所属した。
彼女はドンドン成績を伸ばして行き、学校の成績はオール満点、部活動も小さな大会で必ず入賞するようになっていた・・・・今回の大会だって優勝する気がしていた。
結星にとって自分とは正反対の存在である彼女に劣等感を感じるのは自然なことだった。
「けど、本当におめでとう!いや~、俺とは正反対だよね、同じ血が流れているとは思えないよ」
劣等感を隠すように冗談交じりに自分を嘲けた。
「どうやろうな?実は私、橋の下で拾われたんちゃう?」
三女の姉も冗談で返してくれる。
結星が拾われたではなく自分がと言ってくれる事に心で泣いた。それと同時に姉の些細な優秀さに、また劣等感を強くした。
俺は耐え切れず、曖昧に笑顔を返して自室へと逃げる様に去った。
夜、自室からリビングに戻ると二女と長男、母が話し込んでいた。
まだ優勝の熱が冷めてないのだろう。
一度自室に戻ろうかと思ったが自宅で気を使うのもアホらしく感じそのままリビングに入った。
「あ、噂をすればなんとやら、丁度結星の話をしてたんよ」
二女が少し優しげな声で話す。
「ん?俺の話?」
優勝の話ではなかったのか・・・失敗した。これは面倒な事を言われるな。
「あんたの進路の話!まだ決めてないんやろ?」
母のその言葉にやっぱりか・・・とため息が出てしまいそうだった。
「あぁ、うんまだ決めてない」
「結星、府立ガノッサ高等学校がいいんじゃないか?」
長男の予期せぬ言葉に「はえ?」とすっとんきょんな声を上げてしまった。
まさか三女が通っている名門校の名前が出てくるとは思ってなかった。
「府立ガノッサ高等学校は私も行ってたでしょ?この数年で随分変わったんやけど・・・でも凄く良い先生が居るんよ、だからそこが良いんじゃないかなぁって」
二女は魔法が導入される前のガノッサ学校を卒業している。
「それに結星はパソコンとか触るの好きやろ?確かガノッサ学校のスペルアーツ研究部はデータを記録するのにパソコンを触るし、空き時間はパソコンで遊べるんやてさ。お前はそういうところの方が良いんじゃないかって話しててん」
あぁ、なるほど。この人達まだ熱は冷めてないご様子。
その熱が回りまわってこっちに来たのか・・・良い迷惑だ。と結星は内心またため息をついた。
だが、別に悪い気はしなかった。進路先を決めるのも考えるのも億劫になっていたので、周りが決めてくれた流れに乗れば楽に進む。
受験なんて相手次第なのだ。
落とされたら皆の諦めもつく、学校なんて何処も同じ・・・したくないことをするだけにすぎない。
「あぁ、なるほど。まぁ、いいかもしれないね。皆がガノッサ学校の事話してるの聞いてたら楽しそうだなって思うし」
「あら、そうなの?良かった、受験大変だけど普通科なら結星の成績でも入れるから頑張りや!」
母の声が先ほどと比べて幾分か明るくなった。
こんな駄目息子でも本当に心配してくれていたのだろう。
申し訳ない気持ちで一杯一杯だった。
府立ガノッサ高等学校は古くから有る名門校だ。
クラスが普通科、Ⅱ類学科、コスモ学科の三つに分かれている。
普通科とは最も簡単で普通な学科だ。勉強そこそこ魔法そこそこといった学科で俺みたいな低レベルでも頑張れば入れなくも無い学科だ。
Ⅱ類学科は魔法が発展した世の中でもいまだ根強く重要とされている学問に特化したクラスだ。
そしてコスモ学科、なんとも浮いたネーミングのこいつは魔法に特化したクラスだ。
魔法特化なんて言うが高度な魔法を使うための学力を持った連中が集まるクラスで、なんだかんだでⅡ類学科よりもさらに賢い連中が集まってるし受験も三つの内最も難しい。
Ⅱ類とコスモ学科の違いは文系と理系の違いみたいなもの。どっちにしろ俺なんかが入れるクラスではないのだ。
・・・・・・・受験合否発表当日・・・・・・・・・
結局、受験勉強も碌にせず。受験当日も頭の上にハテナが飛び交いながら終わっていった。
そんなで受験結果なんて目に見えている。俺の足取りはずっしりと重く、ゆっくりしたものだった。
「まぁ、落ちていても死ぬわけじゃないしな。受かってたら受かってたらであの姉と同じ学校ってのも絶対苦労するし」
自分自身にテキトウな言い訳をする。
発表会場に辿り着いたが、まだ結果は張り出されておらず、気持ちが落ち着かないままたくさんの受験生に囲まれて待つことになった。
「受験結果を発表しま~す」
奥の方から力ない声が響くとまだかと待っていた受験生達がその声の元に凄い勢いで駆けていく。
結星もその様子を横目に見てからゆっくりと重い足を運んだ。
発表位置に辿り着き、悲鳴のような喜びの声、笑っている様な泣き声を聞きつつ目線を上へと移す。
火で書いたような大量の数字が紙も無い空中に浮かんでいる、一昔前では考えられない光景だ。
「・・・・・・・」
合格者は受験番号で公表される。
自分の番号が無いか必死に目を動かす。
「あれ・・・?俺の番号が・・・ある?」
嬉しさがこみ上げ全身が震えた、があまりにも驚愕的で信じられなかったので何度も何度も番号を見直した。
「やっぱり合ってる・・・間違いなくガノッサ高等学校だ・・・」
結星は足早に手続きを済ませにその場を後にした。
この日、魔法が発展したこの世界で、僕は新たな一歩を踏み出した。