!?:歴史書の裏側で
「で、王国に帰った筈の貴女が何故こんなところに居るんですか?」
食後の優雅なひと時を紅茶と共に堪能していた私の元に、国に報告に帰った筈のシャルリーヌが唐突に訪れた。
「例の小芝居で何か問題でもありましたか?」
「ええ、お師匠様。
やはり幾ら魔王が攻めて来ないと推測されていても放置は出来ないという意見が大勢を占めています」
まぁ、それはそうでしょう。
推測で油断していて攻め込まれたら目も当てられない結果になるのですから、警戒は当然です。
「それは元々予測出来ていたことですね。
その点は貴女が説得するという話ではありませんでしたか?」
「はい、ですから説得しました。
魔王を監視する監視役を送り、定期的に報告させることで安全を確認するというものです」
確かにそれなら安全は確認出来るでしょうが、肝心の監視役になりたがる人間が居るでしょうか。魔族に囲まれて一生を過ごすことになりますし、いざという時は最初に死ぬことになるのです。
「実現性に欠ける提案に思えますが、まさか監視役に志願する様な無謀な人間が居たのですか?」
「監視役ならきちんと志願者が居ます……目の前に」
目の前……って、まさかシャルリーヌ自身が監視役だと言うのでしょうか。確かに勇者である彼女ならいざという時も自分の身ぐらいは守れる──実際にはそうでもないですが、人類側の見解はこうなっている筈です──し、真っ先に魔王に対応出来ると考えれば適任と言えば適任です。
しかし、彼女は魔王討伐の旅が終わったら王太子妃となって、やがては王妃になるのではなかったのですか。
「貴女なら適任に見えなくもないですが、しかし、王子と結婚するのではなかったのですか?」
「フェルディナンド殿下との婚約は解消してきました。
一方的な婚約解消ですが、人類の平和の為と言うことであればアウグスト侯爵家へのお咎めもないでしょう」
「婚約解消? なんでまた……」
「お師匠様の所為です」
私の所為? 何かしましたっけ。
「そう言えば、いい加減約束を守って欲しいです」
唐突にシャルリーヌが話題を変えました。私としては先程の発言の真意を確かめたいところでしたが、変えられた話題にも気に掛かることがあったため、先にそちらを聞く事にします。
「約束……ですか?」
「ええ、私が一人前になったら名前を教えてくれるという約束です」
確かに最初にあった時にそんな約束をしましたが、その約束は先日既に守った筈です。
「名乗ったじゃないですか」
「この前のでしたら無効です。
本当の名前を教えてくれないと納得いきません。
だって──
──アウレーゼなんて、女性の名前じゃないですか」
まぁ、そうですね。男性の名前としてはあまり聞かないのは確かです。とは言え、私も嘘を言ったわけではないのですよ。
「レオンハルト=ヴァレリア=アウレーゼ、それが私のフルネームです。
アウレーゼと言うのは魔王が代々受け継ぐ家名の様なものです」
「レオンハルト様……」
別に隠していたわけではないのですけどね。ただ、あの名乗りは魔王の伝統故に私の一存では変えられないのです。
「それで、シャルリーヌ。
先程の私の所為と言うのはどういうことですか?」
「そんなの決まってます。
あんな辱めを受けたらお嫁になんていけません。
責任取って下さい」
唖然とする私にシャルリーヌの顔が近付いたかと思うと、唇にそっと柔らかいものが触れる感触がした。
ご読了ありがとうございました。
色々な作品を読んでる内に悪役転生ものを書いてみたくなり、突発的に短編で書き上げました。
しかし、なんでしょう……何か違う気がします。他の作者様が書かれている悪役転生モノはもっとこう、何と言うか……残念ながら上手い言葉が見付かりませんが、私が書いたのが「確かに、確かに『悪役』転生ではあるんだが……何か違う」と評するべき代物に仕上がってしまったことは間違いなさそうです。
相変わらず斜め下に突き進む自分のひねくれ具合には呆れますが、折角書き上げたのですし投下してみました。気分転換にでも役立っていれば幸いです。
まぁ取り合えず、主人公が男性であることに最終話まで気付かれなければ私としては大満足ですが。^^;
追記:主人公と(元)悪役令嬢が結ばれない場合、王子との結婚披露パレードの最中、(元)悪役令嬢が正規ヒロインに刺され、キレた魔王による人類全滅エンドでした。