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起:悪役始動

 気が付いたら魔王でした。


「うそん!?」









 いやいやと思い直して、豪奢な姿見に映る姿を改めて見返してみることにする。



  腰まで伸ばされた艶やかな漆黒の髪

  人体の黄金比と称すべき絶世の美貌

  豪奢なドレスシャツに包まれた均整の取れた肢体

  そして、背中から生える黒い羽根



 微妙に自慢みたいになってしまったが私の姿です、ただし「今世」の。「今世」と付けたのは、この姿を鏡で見た瞬間に前世の記憶が蘇ったことに起因する。


 私の名前はアウレーゼ、魔王アウレーゼです。


 先日父である先代から玉座を受け継いで魔族の頂点に立った魔王にして、前世でプレイして一時期ハマっていた乙女ゲーム「恋の鞘当て〜剣と魔法と恋の物語〜」のラスボスです。いやいや、何で乙女ゲームに魔王が出てくるんだ──とツッコミを入れたくなる気持ちは分かりますが、私に言わないで欲しい。言うなら製作会社に言って下さい。


「どうしてこうなったんでしょう」


 古今東西、乙女ゲームに転生と言ったら主人公であるヒロインか脇役キャラか、あるいはライバルキャラである悪役お嬢様として転生してくるのがパターンでしょう。しかし、私が転生したのは悪役は悪役でもラスボスである魔王……ガチで悪役です。ご多分に漏れずこの世界の魔族は人類とは敵対関係にあるため、魔王は人類にとって不倶戴天の敵です。


「ええと、どんなゲームでしたっけ?」


 少々乙女ゲームの基本から逸脱していたあのゲームは賛否両論で、ハマる者はとことんハマるし、合わずに半ばで放り出す者も多く居ました。ちなみに私はハマった方であり結構やり込んでもいた為、少し思い出せば鮮明な記憶が蘇ってきました。




「恋の鞘当て〜剣と魔法と恋の物語〜」略して「恋サヤ」はヒロインである少女カテリーナがラングバルド王立学園に入学するところから始まります。乙女ゲームの王道である学園モノです、ただし前半のみ。先程乙女ゲームの基本から少々逸脱していると言ったがそれは後半の話であって、前半は普通の学園モノとして話が展開します。物語の後半に突入するとRPG要素が入ってくるのです。

 ラングバルド王立学園自体が王国内の優秀な子供を集めて騎士や魔導師に育成する為の機関であり、学業だけではなく戦闘技術についても学ぶ学園です。当然、所謂攻略対象キャラも優秀な騎士や魔導師の卵と言うべき存在であり、カテリーナは彼等と交流を深めてパーティを組み魔王を倒す為に旅立ちます。

 攻略対象となっているのは、王子、騎士、魔法剣士、魔導師、治癒術師の5人……言うまでもないかも知れませんが、全員方向性は違えどイケメンです。なお、前から順番に俺様キャラ、チャラ男、朴念仁、インテリ、ショタです。

 前半の学園モノから後半のRPG部分に進む為には関門があり、攻略対象キャラ5人全員の好感度が全て一定以上でないとダメだったりします。卒業までに5人の好感度が一定以上に達しているとカテリーナに啓示が齎され、勇者の力に目覚めるのです。5人の好感度が足りないと一番好感度高いキャラと仲良く過ごしている描写が為されて終わってしまう、所謂ノーマルエンドです。


「逆ハー作らないと覚醒しない勇者って一体……。

 今から考えるとツッコミどころだらけですね」


 順調に逆ハーレムを築いて勇者の力に目覚めたカテリーナは、攻略対象キャラの4人とパーティを組んで魔王討伐の旅に出ます。攻略対象キャラ5人に対して1人足りない理由は、王子は旅に出ないからです。まぁ、普通に考えれば王族がそんな危険なことに従事するわけがないから当然なのですが、ここがこのゲームの最も厄介なところだったりします。

 後半に突入してRPG要素が入っても基本は乙女ゲームなので、攻略対象キャラの好感度はエンディングを決定する重要な要素となります。前半は主人公のパラメータと選択肢で好感度が上下しますが、後半においてはそれにプラスして戦闘時の行動などでも好感度が上下するのです。例えば、主人公が回復魔法を使用すると回復して貰ったキャラの好感度が微増したり、といった具合に。

 そして、旅に出ていないとは言え王子は依然として攻略対象キャラの一員であるため、グランドエンディングを迎える為には王子の好感度も必要になってきます。旅に出ない王子は当然ながら戦闘時の行動による好感度上昇が無い為、こまめに城に戻って会話をして好感度を稼がねばならなくなります。

 グランドエンディングは王子も含めて攻略対象キャラ全員の好感度が一定以上の状態で最終決戦に挑み魔王を倒すことで迎えることが出来ます。誰か1人でも好感度が足りないと、好感度が一番高いキャラとの個別エンディングとなります。なお、グランドエンディングルートも個別エンディングルートも魔王との最終決戦時に対象のキャラが死んでしまうとバッドエンド直行。グランドエンディングルートは対象キャラ=全員なので、誰1人欠けることなく魔王を倒す必要が生じ、結構な難易度となります。


「って、倒される魔王って私じゃないですか!?」


 いやいや、それは勘弁して欲しい。人間だった前世の記憶が蘇ったせいで人類を滅ぼしたり支配したりと言ったことをする気は欠片も無くなりましたが、だからと言って人類の平和の為に大人しく殺されるのも遠慮したいです。

 ただ、先程述べた通り魔族と人類は敵対種族なので、私が何もしなくても敵視されるのは確実です。和平を結びたいと持ち掛けても、好機と思われて攻め込まれるか足元を見られてとんでもない要求をされるだけに終わるでしょう。取り合えず、お互いに不干渉の状態に持っていければ御の字です。

 人類と魔族では個々の戦闘能力に大きな差がある為、戦争やったら魔族側の勝利は確実。人類側もそれは分かっているでしょうから向こうからいきなり総力戦に持ち込む様な自殺行為はしない筈です。魔族側に戦争を仕掛けたがる血の気の多い者は居るかも知れませんが、そこは私がしっかりと手綱を握るしかないです。

 となると、警戒しないといけないのは少数精鋭による特攻暗殺、ここで言う少数精鋭は勇者パーティを意図しています。先程総力戦なら魔族が勝つと言いましたが、それはあくまで統率が取れていることが前提となります。魔族の支配者である魔王を排除出来れば統率は乱れ付け入る隙も生じるため、人類側はこれを狙ってくる可能性が高いです。


「やっぱり肝は勇者対策ですね。

 取り合えず、ヒロインや攻略対象キャラの情報を集めさせますか」


 勇者が突撃してくるまでにどれくらいの猶予があるのかが分からないと落ち着いて対策も考えられません。何よりも優先的に、今がゲームで言うどの時期に当たるのかを把握しておきたいです。

 私は、小悪魔による偵察部隊を呼び出すと情報収集を命じました。

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― 新着の感想 ―
乙女ゲームにRPG要素が入るのは普通だよね? 有名どころ(?)だと、アンジェリークとかコルダはSLGだけど、遙かなる~は1、2ともに普通にRPGだったな。ゲームとしてのレベルは低かったけど。 当時はネ…
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