夜半のクレル
夜半の鐘が頭の中で鳴り響く。
交代で仮眠を取りながら、男3人で見張りをしている。
あまり大きな声では話せないが、手持ち無沙汰になるので、自然と会話になる。
「どう思う」
「…なにが」
クレルは無口だが喋ることができないわけではない。
「この戦い」
そして、何気にコミュニケーション能力が高い。省いた言葉も汲み取ってくれる。
「…どう答えたらいい?希望的観測を述べたらいいのか?最悪の結末を語るべきか?」
「……お前が思った事実でいいよ。それ以上も以下も求めねえ」
リタとも話し合ったことをクレルともう一度確認する。
「…始めからわかっていたこと。勝つことはおろか、一発痛い目を見せることもできない」
「…逃れられない運命ってか」
「……運命って言葉は嫌いだ。全ては結果として残っていく。そのためには、原因が必要で、原因が予め設定してあるなんて考えられない」
クレルなりの運命論も納得できる。
「…でも。この戦争に限れば、原因が発生した時点で結果は分かったようなものだ。同じ実験を幾度繰り返そうが、結果は同じ時なるんだろう」
「なんだそりゃ。俺たちは実験道具ってことか?」
少しばかりの皮肉を混じらせて、クレルの言葉を理解しようと試みる。
「…この国が何事もなかったように生きていけるなら、俺は実験道具として『壊され』てもなんとも思わない」
こいつも漢だなあ。
「…第4大隊の奴らもきっと国を救うという点では同じ思いを持ってるはずなんだ。開戦前の国に不満を持ってる人間はごく少数だった」
頭に針を刺したような痛みが奔る。ルーナという国に不満を持って立ち上がり、死んでいったかつての幼馴染や家族の顔が、もう朧げなイメージとなって頭を駆ける。
「…だから、目指すところは同じだと思う。手段の違いだけ。その手段に理解が得られないのは彼らも分かってるだろう。逆に言ってしまえば、周りの目を気にしないほどこの国を生かしたいという思いが強いんだと思う」
「それなら、お前はあいつらの行動を許すのか?」
「…それとこれでは話が違う。行動には周囲の理解が必要だ。その理解を得られないままでは、罰せられても仕方ない。それに、おそらく終戦後の国の実権を握るつもりなんだろう。そんな事こそ許されない」
月光がクレルの漆黒の瞳に映り込んで青白く光る。
「…あいつらは俺たちで討つ」
「当然だろ」
夜が更けて行く-