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虚術偽刃(ホーカスポーカス)のレンジュアーリ  作者: クラゲ三太夫
オープニング:開幕はいつも理不尽に
4/40

EP.4 ものは言いようだ 正直キモい人も神々しいとか言えばいい

通常の主人公ならそろそろゴブリン100匹を剣一振りで虐殺し、発情したエルフ10人に「抱いて!」とか絶叫されているタイミングなのにウチの子ときたら……。

「わ、私は二年前よりべべリアスクにおける闘争の骨子を学ぶべく、母の用意した訓練場にて技を鍛えておりました」

「ほほう。しかし貴様の住まう世界に魔術やミスリルや加護はないはずだが?」

「ご賢察の通り。それについて思い悩んだ母は家を出て、それら異世界の要素を持つ仮想の世界を形作ることで、私の腕を磨き上げるための空間を用意したのです」


『百の因果』に挑む結界と神銀の英雄レンジュアーリ・ハルフィネン・ミスレライン誕生の衝撃が抜けきらないが、説明はしないとまずい。目眩がしそうな気分の中、俺は大げさな言葉を垂れ流した。

 偉そうに言っているがまあお分かりのとおり、俺は『べべリアスク・オンライン』で遊んでいたことを正直に歪めて述べているだけだ。バーチャルリアリティゲームをだらだらやってたのを鍛錬と言い張るのはさすがに苦しいが。

 ただ別にこれは、完全な嘘でもなかった。あのゲームは、実際に俺一人のために用意されたものだったからだ。


 お袋が親父と揉めた理由は、俺の教育方針だった。親父は『俺自身の体力・知力・成長力』こそが肝要と思ったのに対し、お袋は『異世界への対応力・理解力』が勝負を分けると重視していた。

 そしてお袋は俺が異世界へ送り込まれたときに戸惑わずに済むように、ゲーム会社を設立して、予算や技術の限界までこだわりべべリアスクそっくりの世界を作り上げたのだ。

 だから意見が対立したのは事実。お袋が家にいられなくなったのも事実だが、親父にまだお袋が惚れているのも事実だったし、俺に隠れてデートもしてたらしい。ソースは手紙。両親の離婚に傷つく息子を放っといて……死ねよバカップル。死ねよ。

 だが大したものだと思う。スポンサーやマーケットに受け入れられる形で、商品、製品として息子に最善の英才教育を行うための場を用意してみせたのだ。息子を半養殖のヒーローに仕立てるとは、さすが母の愛は巨大だ。

 言ってしまえばお袋も親父に劣らぬ壮大な中二病だったということだが。


「架空の世で経験した絵空事が、貴様の力、貴様の経験となっているとでも言いたいのか? 笑わせるな、レンジュアーリ」

「そのお言葉の正しさは重々承知ながら、べべリアスクを知らぬ私では、未知の要素に瞬く間に不覚を取る可能性もありましょう。ゆえに母は『実戦のごとく訓練し、訓練のとおり実戦を戦え』と私に繰り返しておりました。私に心構えと慣れのみでも与えようとしたのでしょう」

「むむむむむ」

「実戦に備え訓練場での戦いに使用していた力と同等のものを賜りたい、というのが私の望みでございます」

「む」


 カッパは言いくるめるのが楽でいいねー。

 ちなみに実戦どうこうは言われていない。『べべリアスク』のキャッチコピーとチュートリアルの決まり文句にはありましたが。まあお袋が社長でプロジェクトリーダーだから嘘じゃないだろ。

 俺は結局、ここまで一を十に膨らませることをしても、完全な嘘はついていない。罪悪感もある。そのせいで不自然な言動になってしまうのを避けたいのもある。整合性も気にしている。

 だが、本当の理由は女神への裏切りは危険だからだ。コイツの報復力は最強だ。そして人間の心を読むくらい楽勝の力を持っている。アホなので読んだためしはないらしいが……。

 手紙によるとカッパは騙すのが赤子以下に楽なアホなのだが、なぜか謀ってしまうと主犯はひどい目にあうらしいのだ。違約者へは無意識で自動反撃か。やはり凄まじい力の持ち主だ。


「……どこか釈然とせぬが、女神には二言も背約も後出しもない。貴様の言葉はどうやら本当に父と母を信じ、思うゆえのことのよう。では頭で想像してみよ。どんな力か」

「はっ」


 要するに俺の望みは簡単だ。ゲームと同様の仕様にする能力にしてくれ、と言っているだけだ。異世界チートでも基本のアレな。ただし俺の場合、ゲームが完全再現されるかは試してみないと分からないが……。

 この選択には俺の趣味もあるし、親父がアレなので「俺が異世界へ行ったら……」と思うことがあったことも正直影響はしているが、最後は生存率と達成率の計算に後押しされて選んだ。

 よく言われる話だが、『プレイヤーとしての仕様』こそ大体のゲームにおいてのチートである。レベルアップなどの単純な成長限界の余地の大きさ。アイテム格納能力や、魔法の豊富さなどの特権的な要素。転職など、自分の可能性の選択の幅の広さ。どれもどれほど優れていようがNPCには持ち得ないものだ。インターフェイスや仕様への理解、作品知識などのメタ的な力もそうだろう。

 無論、それはプレイヤーにゲームを楽しませるため、進ませるため、クリアさせるためにあるのだが。

 本質的なことを言うなら、全てのゲームはプレイヤーにクリアされるために作られている。早い話が、「主人公」としての特性・能力(として設定されているもの)が手に入れば、クリアには近くなる、ということだ。無論、現実はゲームではないが、俺がやってきたのは現実をモデルとするゲームだ。最悪でも使い勝手という点から、生存率は上がるだろう。

 ちなみに『べべリアスク』では蘇生アイテムもあり、死んでもデスペナルティを抱えての復活となるが、俺は蘇生には期待していない。手紙に「生き返りは期待すんな」とあったからだ。それは因果を乱す真似で、できたとしても女神はやってくれないらしい。

 明らかに現実化されていないゲーム仕様もある、と覚悟して進めるほかないだろう。


 俺が『べべリアスク』について思い出していると、急に空間に半透明の文字が浮かんできた。それはおなじみ『べべリアスク』他、ゲームで付き物のシステムウィンドウだった。

 時間、自分の能力値や装備や状態、手持ちアイテム、受けているクエスト、マップなどの項目もついている。これは、俺がべべリアスクのプレイヤー性能を得たことを意味する。

 やった! とうとう最大のチートを手にしたぞ! 

 おおシステムウィンドウ。現実的には情報整理にもアイテム管理にもヘルプにも鑑定にも何につけありがたみがあり、実際俺が「現実にも欲しい」と思っていた力よ! 十分俺も異世界脳か。


 ……手紙によればこのぐらいは必勝ではなく生存に必須のラインらしいが。


『アイテム』を開いてみる。アイテムインベントリには何も入っていない。

 失礼、とハルミシアに断り、拝謁の間の入り口に放置しておいた『異世界お出掛けグッズ』に向けて手をかざす。一瞬で現物が消え、アイテムインベントリへ格納されていた。

 別に体も重くならない。計約百二十キロあるのに。しかもこれは格納限界種類三百のうち、二つしか占めていない。


 ・異世界お出掛けグッズ(特上)×1

 ・異世界お出掛けグッズ×1


 多分上が親父の分だ。いくつか俺の分のグッズからインベントリ内部で分割してみる。


 ・異世界お出掛けグッズ(特上)×1

 ・異世界お出掛けグッズ×1

 ・シャンプー(詰替用)×3

 ・石鹸×20

 ・チョコチップクッキー(箱)×3

 ・エチケット袋(使用済)×1


 ……普通に使えますね、今のところ上手く行き過ぎて怖い。チョコチップクッキーの説明を見てみる。


『チョコチップクッキー(箱)』

 ・異界『イナッシ』製の甘味。小麦粉とチョコレートを主原料とする。

 栄養価は高く、保存に特化。イナッシにおいては中品質。

 べべリアスクでは貴族が争って欲しがるであろう味わいと高い純度の糖度を持っている。


 これ向こうでうかつに振る舞うのやめよう。しかし菓子は高級品なのか。日本は高々専門店で買える程度の保存の利くタイプってだけなのに。

 そして現世はイナッシと呼ばれているようだ。


「なるほど、これはヒトには便利であるな。洗練されており、英雄の力にふさわしいかも知れぬ。別段、因果を乱しもしていない」

「お認めいただき、まこと重畳……」

「持ち込もうとする荷物の価値も知れておるし、本来の祝福の規模からは精々八割程度のものといったところか。本当にこれで終わりでいいのか?」


 どう考えてもチートアイテムである現代グッズの持込みが、能力選択に合わさり、絶対限界超えた! と確信していた。にも拘らず、まだ余裕があるというのか。

 これはこなさねばならない任務や試練がハンパないことになりそうだ。追加で何かもらうか? しかし下手な加護なんて足を引っ張ること確定だ。

 あ、そうだ。


「ではお言葉に甘え、残りは『この能力内での』強化を行うということでご許可をお願いいたします」

「む? 言っている意味がよくわからんが、まあよい。望んでいる現象を頭で考えてみるがよい」


 俺は集中しつつウインドウを開いた。

 べべリアスクは割りとオーソドックスな作り。自分の能力やスキルの強化はレベルアップなどで得るポイントを割り振って行う仕様だ。

 スキルポイント欄をを見るためスキル項目を開くと、俺の手持ちスキルと、初期ボーナスポイントの『5』のみがそこには記載されていた。あれ? 『5』だと?

 意識すると使用可能ポイントが、あっという間に『105』になった。うおすげえ。これならいける。俺は他にもいくつか実験を兼ね、能力の強化を行った。

 色々試していると、とうとうハルミシアから呼びかけられた。


「む、そろそろくれてやれる力の限界が近いか」

「お気遣いいただき、ありがたき幸せ」

「そうかしこまるな。私と貴様の仲ではないか。さて、英雄の力を与え終わったところで『百の因果』について教えよう」


 別に仲良くねーだろ。本気で仲良くねーだろ。と言うか俺はお前が嫌いだ。察してよ。





 話の内容は最悪だった。

 べべリアスク大陸では現在、大陸の人間の居住可能圏は四割以下にまで低下。加えて大陸での覇権を求め、魔王軍が動き始めている。

 人類国家でも中央の一部はまとまろうと必死で努力をしようとしているものの、相互不信と中央の指導力のなさで基本的に人間の勢力は四分五裂。一枚岩に近い魔王軍に対抗すべくもない。

 地方は魔王に押されまくっているものの、何とか自分たちだけは生き残ろうとあがいている。まさに累卵の危うきにあった。

 この魔王軍撃破が、第二の目標。


 じゃあ第一目標は? 

 現状、べべリアスクの世界を中心に、原因不明の因果の狂いが発生しているとのこと。狂いとは、生きるべきでない者が生き延び、死ぬべきでないものが死に絶え、起きないはずの現象が起き、既に完成しているはずのモノが準備もされていないなどという事態。

 これは他の世界にも影響、波及しており、既に二つの異世界がいきなり脈絡もなく滅びているとのこと。まるで、最初から存在すべきではなかったかのような滅びっぷりだったらしい。放置すれば、現世も危ないとのこと。

 また基本的にこれは小さな因果の狂いであり、超越者たる女神には直接には対処不能。小さな狂いと思っていると、ある日滅びが訪れるらしく、対応は人間などが行うしかない。

 そして最後に、べべリアスクにおける現状の狂い・歪み・乱れはハルミシアの見るところ総数約百。緊急性は不明ながら、遅くなっていいことはないようだ。


「でっでは恐れながら……私にその約百ある因果の狂いを解消しつつ、魔王を撃破しろと?」

「その通りだな。風の英雄らしく迅速に完遂するがいい」


 千年の期間をもらってもできるわけねーだろゴミ! 頭のデキまで河童なのかてめーは! そもそもそんな重大任務を高校生一人に任せんなや! 軍勢で行け、軍勢で! 手前ェはお脳の中までキラキラなのか!

 俺は頭の中で目の前のカッパを罵倒し続けた。しかし思いは伝わらず、ハルミシアはこれから始まる自分直参の英雄の英雄譚第二章を考えているのか、お脳と同じくらい目をキラキラさせていた。

 あ、駄目だ。コイツ多分今、俺が颯爽と世界の危機を救い、魔王をぶち殺す場面を想像してる。あかんわコレ。下手な口答えは死ぬし。任務中の失敗も死ぬ。これは詰んだ。

 せめて言質だけは取ろうと、排泄物を直に嗅がされたような、内臓が出そうな声で俺は任務了解の返答をすることにした。


「ご期待よりは……かなり遅れてしまうやも知れませんが、必ずやこの試練を乗り越えて見せます……この任、かつて魔王討伐を成し遂げた父と母の名誉にかけても、拝命いたします」

「おおっ! さすがは銀風の英雄の子よ、紛うことなき銀の魂を受け継いでおるようだ! では早速行くがいい! まずは港町の……」


 汚物を承諾だー! こんな便臭漂う話は絶対受け入れたくなかったぁぁぁぁ! 了解を引き延ばすと、さらに悪化しそうだったけどね!

 一つだけ朗報もあった。調子付いたのかカッパは『親父とお袋はかつて成し遂げた』に突っ込みを入れてこなかった。コレで多分、俺が万一失敗しても親父とお袋の身は安全だ。

 そしてそんなすぐ行かねーよ! レベル1勇者が世界の謎解きイベントバトルに参加とか、どう考えても死ぬだろ! このクソガッパが!


「お言葉ですが、私の能力についてはお許しをいただいたはず。私は旅立ち前にチュートリアルを行いたく思います」

「チュウ、なんだと?」

「どうにゅ、腕試しといったところでしょうか。当然能力の一つに含まれております」


 なぜか紅い唇を俺に突き出すカッパを無視し、俺は提案した。






 俺がチュートリアルモードについて説明すると、一応女神はOKした。代わりに横で見るとのこと。

 助かった。異世界お出掛けグッズ以外、まったくブツもカネも経験もないまま行くとこだった。しかし親父とお袋はよく生き延びたな……。普通に超人としか思えない。

 べべリアスクでのチュートリアルモードはメニューから何度でも実施可能の仕様で、アイテムや経験を持ち越せるのだ。まあゲームではすぐレベルが上がり、アイテム品質についても経験値についても繰り返すだけの旨みは失われるものなのだが。

 これからの現実ではどうか分からんが、現実とゲームの乖離についての実験をせねばならん。それに、ケンカを除いては俺は戦闘経験がない。やっておかないとすぐ死ぬだろう。

 モード開始を選択すると、俺と向かい合った拝謁の間の壁が崩れて、草原に変わる。そして目の前の草原には蠢く死体が横たわっていることにすぐ気付いた。

 死体は恐らく、力尽きた冒険者。そして蠢くのはそれを咀嚼しているゲル状のモンスター。

 うげ。ゲルが張り付いた死体の顔の肉が、溶けております……。

 嘔吐感と恐怖感をこらえながら、俺はインベントリ内でグッズの折り畳み式スコップを組み立てて震える手で引き抜くと、ゲルに向けて構えた。


やっとチート取得。多分次話で強敵に勝ちます。そして女神はアホの子です。ご機嫌取りしないとすぐ切れます。

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