EP.19 使い捨てても文句が出ない 素晴らしきかな敵対よ
「どうするんですの! レンジュアーリ様!」
「落ち着きたまえローレラ君、まだサハギン二百五十匹に、退路なく隙間なく完全包囲されただけだ」
「ほぼ終わりじゃないですか! だから私は逃げてと何度も!」
「まあ待て俺の作戦どおりだ」
「どこがですの! いいから逃げて! 逃げてよ……」
「相も変わらず静寂の素晴らしさを弁えないやかましい焼きビーフンヘアだなオイ! いいから俺らの背後から出んなや! それとポーション投げるの休むな! 手が足りてねえんだよ!」
策を誤った覚えはない。
そもそも敵がいくら強化されようが、直前で作戦を変える余裕など俺たちになかった。
しかし、現状は苦戦と表現するのも馬鹿馬鹿しい状況だ。
敵の垣根を撥ね飛ばし、お嬢のもとへ辿り着いたまではまだよかった。
そこからは衆寡敵せず一方的。硬く重い肉の圧力に、俺たちは早速崖の窪みに押し込まれていた。
崖を背後にする。
巨大化したゴレムントが大半の敵をひきつけ、ゼトが穴を埋める。
俺は防御しつつ隙に乗じて攻撃に転ずる。
お嬢は安全な背後から俺たちにポーションを投げ、替えの武具などを渡す。
稚拙ながらも陣形ができているからまだ殺されていないだけだ。
仲間を目の前で殺戮された以上、緩んだ心などもう敵に残ってはいなかった。
サハギン軍団も本気だ。群青色の殺意が雲霞の如く攻め立ててくる。
浜には一瞬たりと砂が舞っていない瞬間はない。何匹跳ね飛ばそうが殴り殺そうが後続が飛び掛ってくるからだ。
研ぎ澄まされた爪牙は金属の刀剣以上。宿る力は本物で、こちらはお嬢以外無傷な者はいなかった。
おまけに敵全員が一匹の例外なく強化済み。勢いは増すばかりで、こちらは現状維持で手一杯だ。
「こっちだ! 下等なダボハゼ面共めが!」
ミスリルの大盾が朝日を反射した。
俺たちの中でも防御に優れるゼトが盾スキル技『挑発』により、無理やり狙いを自分に集める。
数匹分の鉤爪が強引に誘導されて蒼銀色の盾に叩き込まれ、無様に折れた。
老人はミスリルの小剣で小刻みに隙を縫って反撃。
数匹が目玉や手首を切られて悲鳴を上げた。戦力を失い、一時後退していく。
しかし、ゼトも盾を持ち上げる手がかなり疲弊し震えていたし、初動時に負った脇腹の傷から血を流している。
「飛ばしすぎだろトシ考えろ!」
「なんの! 老骨とは言え私もまだまだ行けますぞ! レンジュアーリ様、ご心配なく!」
ゼトは剣も長柄も鈍器も一応は使える戦士ではある。
しかし本領は盾。その本質は一言で言えば従兵だった。
術士の魔術が揮われる瞬間まで、主人を守る戦いに特化した戦士だ。
元々親父やお袋に対しても守ることが仕事だったのだろう。ダメージにも間合い取りにも慣れたものだ。
惜しむらくは本式の武芸は修めておらず、ゼトは盾スキルレベル3ながらも確固とした技を知らなかった。
武器系も含めて持つ技すべてが、技モドキ止まりだった。
敵の攻撃を己に集中させる『挑発』も、敵を盾で弾き飛ばす『バッシュ』すら、れっきとしたスキル上の技としては成立してはいなかった。
ただし今朝、レベル1とは言え刀剣と盾のスキル学習書を読むまでは、の話だが。
「せあぁ!」
今のゼトは、攻守に正規の騎士並の力を発揮していた。
裂帛の気合いとともに繰り出される正統の盾技、『バッシュ』が、手柄に逸って突出した魚人の頭部に直撃する。
骨に食い込んだ盾はミスリル製。金属が頭蓋を割る音がした。即死だ。
押し戻された無惨な死体は、サハギンたちをおののかせた。戦列が一瞬乱れる。
すげえこのジジイ。いい歳してまだ成長中。現在、レベルが28まで上がっていた。
それでも消耗はいかんともし難く、今ので疲労骨折でもしたらしい。
盾を掲げていた左手がだらりと落ちた。ゼトは苦しげに笑顔を作って俺を鼓舞する。
「我々は強いですなあレンジュアーリ様! たった四人で三百弱の敵を翻弄しておりますぞ!」
「折れてる折れてる強がんな! お嬢! ゼトにポーションをぶっかけろ!」
ゼトが一時離脱した瞬間に、俺が前へ出る。三匹が猪突してきていた。
全員の鉤爪に、水とマナが集まり始めている。水魔術だ。
「やべえ来た! 多分噂の術兵だ! ゼト!」
「あれは『水弾』です! 先手で出足を潰すのです! レンジュアーリ様!」
集団となったサハギンの危険度はゼトから学んだ。
サハギンは強靭な筋骨、大柄な体格、意外と高い知能に旺盛な繁殖力を持つ生き物。
特性からゴブリンに次ぐ人類の身近な敵とみなされている。
しかしながら海の男たちから魚面どもが異常に恐れられているのは、それらの能力だけからではない。
個体差はあるものの、サハギンは全員が水魔術の使い手なのだ。
海上で魔術を行使されれば通常人では打つ手がない。
戦闘に耐える能力の持ち主など、せいぜい二十に一匹しかいないらしいが、肉体面で既に相手が遥か上。
魔術まで使えるならば、それは力に隔絶した開きがあることを意味する。
ましてや戦争用のこの軍団には十に一匹の割合で、それなりの使い手がいてもおかしくはない。
だが専門職めいた奴らまでいるとは。
俺たちの中で水魔術の適性を持つのは、ゼト一人だ。対策はジジイに聞いた内容を信じるしかない。
本人の現能力/潜在能力は0/0というひどい数字で、半永久的に素人止まり。
『呪文をいくつか知っているだけで、まともにはどれも使えない』と謙遜していたが、それでも青年時には水魔術の修練をしているのだ。
実用レベルでは魔術を使えないのは嘘ではないようだが、開戦前に披露してくれた知識は大したものだった。
高等な個体を除けば、サハギンが備える呪文などせいぜい多く見積もって稚拙な四種類のみ。
それでも脅威だ。
物体を水で包み守り保管する『水籠』。
傷と疲労を緩やかに同時に癒す『休息霧』。
対となる二つの泡を電話のように連絡に使える『話泡』。
そして、水圧で水を飛ばす『水弾』。
『水弾』は単純に直進する水の弾丸を放つだけの呪文。
前面に味方がいれば撃てないから、柔軟性もない。せいぜい貧弱な弓ぐらいの威力と射程しかない技だ。
だがこの立ち位置が固定された戦場では最悪の能力。発射されたが最後、こちらは逃げ場がないのだ。
滅多撃ちにされる。
俺はメイスを構えたまま突貫し、狙い撃とうと襲い来る三匹をまとめて払い打つ。肉にめり込む鈍器。
相手が俺の脚を読み違え、紙一重で先制できたのだ。
使用済みの『超越の宝珠』二つ分、強化された筋力。
加えてここまでの道を切り開くため放った、初撃の自滅技によるレベル34への成長。
相乗された力によって、内臓が破裂する感覚がメイスの先から伝わる。
三匹が衝撃で絶命するのを感じるがその勢いのまま、メイスを押し込み振り切った。
死骸は敵に向かって投げぶつける。直撃した後続が転んで一息つけた。今必要なのは時間だ。
背後を確認する際に首筋に痛み。深くはないが、最後っ屁の水弾が掠めていたようだ。敵も強い。
「ぶっか……いくら高価なポーションでも、飲み薬を肌にかけてどうなるのです! 大体さっきから立て続けに使いすぎです! 魔法の薬は連続しては効果が、あったぁ!? 何でですの!?」
ローレラがレベル2生命ポーション・バニラをジジイに掛けると同時に、あっという間に盾を持つ手首が持ち上がる。骨が、無理やりに正しい形へと治っているのだ。
痛みに表情を歪めながらも即座に俺とスイッチし、戦闘復帰するジジイ。またもや元気にサハギンを盾で殴り飛ばしている。
「飲んでもいないのに……」
「そういう薬なんだ! 俺の家の秘伝だよ、みなまで言わせんな!」
無論、嘘である。俺が作った薬、俺が近くにいる状況だからこそ、『プレイヤー性能』によってポーションの性質が強化されているだけだ。
飲み薬が塗ったり掛けたりで効くなんて、よっぽどでもない限りありえない。
ポーションの連続使用を可能としているのも同じこと。
俺が純化したポーションは、含まれている薬効成分が同じでなければ『異種』と判定される。
つまり、同一種類の使用不可期間、クールタイムが干渉し合わないのだ。
だから弱い低レベルポーションにも存在価値はある。
強力なポーションを使ってしまったあとの、隙間となるクールタイム中を埋めるのならば。
俺たちは持ちうる全てのスキルと可能性を全開にして戦っていた。
そうでなければたちまちなぶり殺しだっただろう。
サハギン型の巨大石像がサハギン二匹をまとめて握り潰しながら、俺に進言する。
最終手段の発動を。
「予想外に我ら敢闘。されど限界点近し。さあ踊れ、歌え、叫べ我が英雄。決戦の覚悟を」
このサハギン像がゴレムントだ。全身殴られ打たれ噛み付かれ、水弾を受け引き裂かれて穴やヒビだらけ。
精霊の本体は霊体のような存在でダメージはないとは言え、マナは消耗する一方。
新しい依代を作るよりはマナを消費しないので、全身を補修しながら戦っている。
サハギンは大半の個体が習性的に、自分より体の大きい個体には逆らう気を起こしにくい(というゲーム設定だった。変異種の灰色は知らん)。
だからこの姿は心理作戦だ。本能なのか、それとも『プレイヤー性能』の影響か、実際にサハギンたちは攻め難そうだった。
我が精霊がこの姿になってから、若干波状攻撃のテンポが悪くなっているのだ。
確かに、この待ちの戦術で一番苦しいのはゴレムントだろう。
死なないとは言え、依代を操縦しての物理攻撃も時たま放つ魔術も、精霊は全ての行動がマナ消費だ。
そして精霊のマナは時間経過の自然回復のみ、ポーションなどでは回復不可。
このままでは最初に戦闘不能になり脱落する。
「お嬢!」
俺はレベル2マナポーション・リジェネをお嬢に掛けてもらうと、ウィンドウを呼び出す。
そして『マナ譲渡』のアイコンをクリックした。
「まだだ! これでまだいけるはず!」
「原因不明。我が霊に突如としてマナ充填。不可解」
『マナ譲渡』は、精霊が仲間枠で友好度が高い場合にのみ、一戦闘に一回のみ可能なマナ回復手段。
プレイヤーのマナ多量消費。代わりに精霊のマナが大幅回復。
現実にはやはりありえない現象らしい。異常な速度でゴレムントのマナが回復していく。
それも驚いたがあっさり成功とは。アルマジロの好感度がそんなに高かったのが意外だ。
そして俺は凄く疲れた。やばいこれ寿命削りそう。
「この奇跡。やはり正ヒロインが僕だからか」
「違う! いいから右の奴を殴れ!」
「ならば正ヒロインとやらの重責、私めが背負いましょう。レンジュアーリ様」
「結婚式より先に葬儀が来るだろそれじゃ香典が集まらない! 正面だ弾け!」
寝言の応酬をしている間にも各自、正面の魚人を殴り、斬り付け、抉る。
殺しすぎて傷つけすぎて、足元の砂が血でぬかるんでいた。
踏みしめると剥がれた鱗が落ちていたのか割れてジャリジャリ鳴った。
打ち寄せる波は既に流れ込んだ鉄の色。これだけは人間と同じ魚の血の色。
吐き気がするような死臭が潮風に混じっているのだろうが、もう嗅覚など麻痺している。
腕が熱い、重い。背中が痺れる。首筋の傷が深く響いた。
苦しい。しかし、堪えねばならない。
洞窟から次々と新手が登場する。沖合いから、凄まじい速度で遊兵が集まってくる。
何よりも、敵の『休息霧』が響いた。
サハギン軍の後方では、一度深手を負わせ下がらせた奴が、術兵に治療を受けているのが見えた。
戦場の術兵だけに腕が良いのか、止めをしくじると数分もすれば戦線に戻ってきてしまうのだ。
一撃で殺さない限りキリがない。
だがもう少し。もう少し粘らねば。
あと約百匹弱。土魔術発動の瞬間までに、敵四百匹のほぼ全てを集め切らねばならない。
敵をまとめて一撃で叩き潰す道具は、崖崩れしかないのだから。
外せばどの道、数と回復力の差で押し切られる。
即死か最低でも行動不能に足りない攻撃は意味を持たない。
奇しくも、この惨めに追い込まれた陣形は、策の観点からは理想形でもあった。
敵は浜に密集し、しかも逃げない。俺たちの居場所である崖の窪みを目標に、殺到してくる以上は。
これが策だ。俺たち自身を撒き餌とし、一度限りの決戦魔術の発動に賭ける。
群青が精霊を警戒し逃げる可能性はあった。
灰色が英雄の影を恐れ、洞窟に隠れてしまう危険もあった。
しかしなんとか漕ぎ着けた。勝利一歩手前まで。
だが、このままではジリ貧なのはゴレムントの言うとおりだ。発動前にガス欠が来る。
今も打たれ、抉られ、切り裂かれる感覚が絶えない。
泥の中に沈んでいくような疲労感と焦燥感。
敗北が、限界が、死が近い。
そう思ったとき、ようやく掛けておいた保険が機能したことが視界の端で確認できた。
サハギンの軍勢を見据える。
もう何度目の波状攻撃なのか分からないが、今度こそこちらを殲滅する気だ。
前衛となる魚面どもの体格が、今までと比べ露骨に大きい。
灰色は戦功を立てられるポジションから干されているのか、群青のみが前衛だ。
敵の不仲が幸いした。全体的に精強な灰色と最初に戦っていたらもう詰んでいた。
この一撃のみを越えれば。
俺はメイスを掲げ叫ぶ。
「成功だ、従士団諸君! いま少しの、勇気ある、継戦を!」
声に、皆が応じてくれた。
ゼトが前進、片手の盾で一匹殴り殺し、一匹をもう片方の剣で刺し殺す。
ゴレムントが石の腕を振るい、五匹を薙ぎ払って突撃寸前だった戦列を乱す。
俺は『フィード』で敵の第一波を転ばせて、敵の時間を空費させる。
お嬢も俺たちが負傷する度に必死にポーションをレベルごとに使い分けて投げていた。
それでも敵も諦めない。第二波がすぐに放たれた。
全員で突撃の圧を受け止める。爪に肉を抉られ蹴りをもらい、それでも押し返し、死を各自二回は覚悟する七秒ほどを越えて。
ようやくウィンドウに映っていた戦力が到着した。怖気を震う叫び声とともに。
サハギンたちが全員静止。坂を降りてくる者たちを見やった。一気に警戒心が強まる。
「ジュアンカーリ!」
「おひさ。夜見たとき、俺はお前を中堅どころの標準型ブサイクだと思ってたが間違ってたよ。朝日の中こうして見るとな……お前はひどく高品質のブサイクだよ!」
「ジュアンカーリィィ!」
森へ続く坂から登場した巨漢、ロザントは、完全にもう悪鬼と化していた。
表情筋のいくつかが断裂してしまっているような歪んだ面相。
寝ていないのか目の隈は深く、顔面の脂が粘着質に光る。
そして吹き出物が顔面の髭のない場所全てを覆っていた。
左手で新しい小剣を抜刀し、宙を睨みつけている。目の焦点が合っていない。
理性は便所にでも置き忘れてきたようだ。あるいは便と一緒に捨て去ったのか。
距離がまだ相当あるのに、俺のことだけは見間違いもせずに、大音声を上げて笑った。
これが期待していた戦力。戦力は戦力でも第三勢力の戦力。つまり敵だが、今の時点では頼もしすぎる。
変則二重トレインは大成功したようだ。
盗賊団十数人も首領を追ってここへ来ていた。ロザント含め鉤爪で引き裂かれたのか、皆がボロボロだ。
「ゴレムント、ありがとな」
「お安い御用」
そう、ゴレムントはサハギンの死体を撒きながら浜へ来た。
サハギンの群れに襲撃された上に、お嬢と思っていた相手が消え失せた。
全部俺の仕業と一発で分かる親切なタイミングで。
子供に手玉に取られたことで、ロザントは最後の理性もなくしたのだろう。
目印の血肉を辿り浜へ追ってきたのだ。見え見えの罠なのに。
部下の手前、引けなかったのかもしれないが。
「さて、サハギン諸君」
呼びかける。こういうのは、断言するのが大事だ。堂々とするのが大事。
当然のような顔だけしているのが大事で、相手に考える時間を与えないのが大事だ。
「これで挟撃になったな」
無論こんなの大嘘だ。
ロザントは俺を殺すことしか考えていない。俺もあとでロザントを魚とまとめて確実に殺すつもりだ。
だが、下手に人語が分かるのと、ロザントが旧従士団の英傑だと知っている奴がいるのが相手の不幸だ。
どう見ても、サハギン側からは俺たちの増援にしか見えない。
狙い通り、灰色の首領が呻く。あっという間に魚人に動揺が広まった。連携が乱れる。
そして坂を下ってくる、歴戦の悪鬼がいる。
「ジュアンカーリィ!」
別口の敵、あるいは歩く障害物とでも見做したのだろう。
悪鬼は敵軍の心理的な隙を見逃さず、初撃から加速し、疾走する。そして滑らかに回転して一閃。
影とともに赤い弧がサリアの海に舞う。レベル30サハギンの首が一撃で、抵抗もなく十も飛んだ。
レベル54剣士の『反転闊歩』の魔技によって。
必死にレベル30盗賊団員たちが追いかけ、首領の背後を守る。
やはりラゼナの神罰は、剣の悪鬼と配下の盗賊団も強化していた。
危機を凌いだのは確かだが、同時に最悪の敵、誕生だ。
「ジュアンカーリ! 貴様はまたも俺から! その汚い首を今、沼に浮かべてやる!」
「誰の顔が汚えだとオイ! 歳食って脂マシマシになったヒップホッパー崩れみたいなナリの分際で! 俺は逃げねーよお前は殺す!」
そう、今度こそ、殺さねばならない。俺が、この道を歩いていくためにも。
当然、奴を的として囮として戦力として使い潰してからだが。
「ゼト! この裏切り者が! お前も死ね!」
「ロザント……裏切り者の腐れ豚は貴様の呼び名よ。豚に墓は要らぬ。自分こそ、ここで魚面どもにでも食われ死ね」
ロザントは腹黒いウチの参謀のことも嫌いらしい。怨嗟の声はそちらにも向いた。
反応はドライアイスの温度だったが。爺さん嫌いすぎ。経緯から見て恨みは当然の気もするが。ならもっと陰湿に攻めろ! 俺のルックスを侮辱した罪を償わせろ!
サハギンが新たな、そしてより手強そうな敵、盗賊団へ主力を向ける。
おかげで手薄になったとは言え、こちらにもまだ相当の圧力を残す敵。
魚人どもと打ち合いながら、俺たちは態勢を立て直す。
ゼトの防御と、俺の鈍器による牽制が完全に噛み合う。ゴレムントが策の要、詠唱を開始する。
盗賊の首領は、もはや人語でない叫びを上げながら突出。
振るう腕は肉眼では捉えがたい速度になっていた。
人魚の波状攻撃は斬り破られ、血煙が舞う。ロザントは手傷を負わされながらも、笑った。
その陣形の穴に盗賊団が突撃し前進を支え、群青の隊伍も殺到して押し返す。
思惑は各勢力異なれど、戦力上、ほんの数分は人魔均衡が成り立つだろう。
そして、サハギン軍団四百のほぼ全数が、もうすぐ浜に集うはずだ。
サリア決戦が、最終局面に突入する。




