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虚術偽刃(ホーカスポーカス)のレンジュアーリ  作者: クラゲ三太夫
第一部:サリア決戦 そして砂に埋めたもの
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EP.14 にんぎょひめの たからもの

 目を覚ますと、そこには汚い天井があった。ロウソクの光。

 全身が痛く、首を動かすだけで肉体が悲鳴を上げた。おまけに皮膚が冷たい。今まで水か泥でも被されていたかのようだ。

 何とか起き上がり、椅子に掛ける。周囲を見回すように努力した。


「相変わらずの汚い小屋だなあ」

「申し訳ありません。レンジュアーリ様。ここ以外拠点などございませんので」

「汚い小屋だなあ。本当に本当に汚い小屋だなあ。お前の尻のように、心のように汚い小屋だ。なあゼト」

「……お元気になられたようでまことに結構です。レンジュアーリ様」


 嫌味に対する回答。暗がりから聞こえてきた声は老人のもの。そして見上げる姿も老人のもの。

 負傷しているのか苦しそうだったが、ゼトだった。肩が下がり、左腕を押さえている。

 袋叩きが効いている。死にはしなかったまでもダメージは深刻そうだ。


「奴らにポーションを、奪われましてな」


 ついでに装備とカネもだろ。本当に使えない、いや、仕えすぎる・・・・・ジジイだ。


 くそっ。寝起きが美少女じゃねえなんて。

 このジジイは実は美少女が化けてるだけとかいう結論にはならないだろうか。

 ならないだろうな。仮に美少女でも中身は狂人だし。


 俺はボケるのをやめてゼトにポーションを渡した。自分も飲んで体を癒す。

 ウィンドウを開き時間を見ると、期限最終日の午前一時だった。


 思い出す。無様に負けた。敗北だった。

 本気でロザントは強すぎた。真の使い手だった。及ばなかった。

 だが死にもしなかったのだ。急いで、状況確認と準備をしなければ。


「何でお前は生きている? 何で俺も生きている? 何で生きてんのお前?」

「なぜ二度も? ……私は何とか殺されずに済みました。奴らもどうでもよかったのでしょうな。あのあとゴレムント殿がレンジュアーリ様を探してくださりまして。協力して底なし沼から引き上げ、この小屋に戻ったのです」

「おお。礼を言わないとな。ゴレムントは?」

「お嬢様を探して、基地の方へと」


 ほほう。やはりコイツは危険人物のようだ。

 平然とこんなこと抜かしやがるとは、本格的にやばい精神構造だ。

 まあどう見てもおぞましい男なのだが、俺も心底甘かったらしい。こんなに黒すぎる妖怪ヒヒジジイを信じていたなんて。

 異世界での不安で見る目が曇っていたようだ。


「ローレラお嬢様はロザントたちに連れ去られてしまいました。どうなさいますか」

「どうするってどういう意味よ。ここで二人で盆踊りの練習でもしてれば解決すんのかよ。もちろん助けに行くさ」

「ありがとうございます。本来サリアの町やお嬢様の安否はレンジュアーリ様とは関係の無いこと。そう仰って頂けるだけでまことにありがたく。ではロザントの住まう森の基――」


 俺は横槍を入れた。この茶番を聞いていられなかったのだ。


「助けに行くさ。サハギン浜・・・・・にな」


 さすがのゼトも、目を伏せた。コイツは悪魔そのものなので羞恥心とか無い可能性もあるので、演技かもしれないが。

 噛み締めるように、呟いた。


「謀ったな、ゼト」

「……おさすがです。レンジュアーリ様」

「どこがだよ。疑わしすぎるだろ。馬鹿が」


 ウィンドウのマップには、離れたメンバーのマーカーが映ったままだ。仲間の青と中立の黄マーカー。ゴレムントとローレラ。

 マップの中でゴレムントはロザントの基地に、ローレラはサハギン浜にいた。


 どうしてこうなっているのか。全てゼトのせいだ。

 恐らくゼトは、まずはゴレムントにお嬢に化けるように依頼した。そしてわざとロザントに捕らえさせ、本物の方はサハギンに引き渡したのだ。


 真相の一部に気付けたのは別に俺が優秀なわけではない。マップと、状況証拠のおかげだ。


 どうやって夜の森で何百もある底なし沼に落ちた俺を探し出すんだよ。どうやって一人で引き上げるんだよ。

 ゴレムントがやってくれるとして、そもそも負傷してて、ロザントがうろついてる可能性が高いのに探すのか? 

 冷静に考えればあり得ないことだらけだ。負傷していて混乱していれば、容易に信じてしまう程度の怪しさだろうが。


「で、いい年こいて陰謀をめぐらせてたのはなんでなんだよ。そんなにロザントが嫌いか」

「最初からになると、長いですぞ」

「年寄りは嫌なもんだぜ。いやお前は若い頃から嫌な奴だったっぽいけど。嫌な話の二乗だな」

「私は、死ぬつもり、だったのですよ」


 結論から言うと、ゼトは極悪だった。まあそれは俺も知ってたが更なる、想像以上の悪だった。

 蛆が湧いた腐った死体を想像して欲しい。それを悪とするとゼトはゾンビだった。それも生き生きとフリーランニング技術で走り回るし、銃弾が頭に当たっても効かないタイプのゾンビ。そのクラスの悪だ。何で人間に生まれてきてしまったのだコイツは。


 俺がこの世界に来る前にもう、サハギンはサリア近辺に押し寄せていた。そしてフェインダル騎士団に、サリアへ回せる戦力は無い。

 町の人間にも戦闘になれば勝ち目は無いことは分かっていたようだ。気が早い者は避難を始めていた。

 だから、町長のサリアントは一人娘のローレラを、同盟を兼ねて他の土地の有力者と結ばせようとした。


 しかしサリアント夫人は、娘が英雄でもない男に嫁ぐのは、この期に及んでも不満だったらしい。

 夫が用意した輿入れのためのお付きは外し、森番関連で貸しがあるゼトを指名してこっそり自分の実家に送らせようとした。

 ただの一時避難にするつもりだったのだ。これが間違いだった。


 ゼトは人生に倦んでいた。森の中でも生きていくだけなら余裕だったろうが、従士だった記憶を忘れられなかったとのこと。

 森で作った薬は十分供給したつもりだった。社会貢献が済んだから最後のご奉公のつもりになった。人生を終わらせる覚悟で、英雄の従士として一働きがしてみたくなった。

 そこでローレラの避難を奇貨とした。英雄の敵である旧知の二者、ロザントとサハギンを殺し合わせることにしたのだ。


 カネに困っているロザントには、人質としての身代金要求を提案。派閥抗争で負けて、サリア戦参加自体が部族にマイナスの灰色サハギンには、撤退の口実として使える旨提案した。

 そして引渡し日と場所を調整して食い合わせる。激突直前でローレラは母親の実家に逃がす予定だったそうだ。それで丸くおさめるつもりだったと。


 そんなもん言い訳にしか聞こえない。ひとまずの感想としては。


「お前の人脈と策略すげえな。ぜったいどこかを病んでるよねお前」

「それほどでもございません。年の功というものでしょう」


 コイツは荒野の用心棒かなにかか。自然体で他人を謀殺しようとするとは。呼吸するように周囲に悪を撒き散らし、しかも自覚が無いぞこの老いぼれは。


 そしてこの味方にさえ見る目の厳しそうな中世社会。そこで敵ともチャンネル持ってる庶民とか、はっきり言って悪魔の類だと思う。

 漁村を追い出されたのは多分この狡知を疎んじられてだな。俺も近所にこのジジイ住んでたら嫌だもん……。


「でもそこに突然俺が来た、と」

「……はい」


 いきなり現れた俺。

 しかしゼトは馬鹿ではなかった。すぐに紛れもなく旧主の息子と認めて、急遽予定を変更。俺の実力が盗賊団とサハギンの始末を付けられるだけのものかを考えていた。


 ゼトは俺を泳がせて、いちいち俺の能力を測っていたようだ。昨日のロザント戦でさえ、仕組まれていた。

 盗賊団の急襲こそ、いつまでもお嬢を引き渡さないゼトの態度に焦れてのものだった。だが想定外はそれくらいだろう。


 俺が不慮の事故以外で死ぬ確率はほとんどゼロ。ゼトはゴレムントから罠の存在をいち早く聞きだし、俺をいざとなればそこへ格納するよう話をつけていたようだ。

 数百の底無し沼は土魔術で作られた、俺以外へのデストラップ。そして俺だけには底に空気溜まりまで準備された、シェルターとして機能するようになっていた。

 あの必死の戦いが出来レースだったとか。怒りを通り越して笑える。


 そして答えは出た。

 俺は強力な敵たちに勝てる力を持っているか。


 ゼトの結論は否。

 レンジュアーリ・ハルフィネン・ミスレラインでは、ロザントにもサハギンにも及ばない。

 だから忠臣は魂を売った。


「ロザントのとこにアルマジロ置いてんのは、本筋と関係ないとこ俺に攻めさせて、俺の時間と体力を奪うためか」

「左様です」

「お前はサハギンに彼女を差し出して、俺が戦わなくとも済むようにしようとしたのか」

「……その通りです。十七年前に、ジュアンカーリ様やヨキア様が快進撃を続けました。そのうち魔王軍では撤退を糊塗する口実を求めるようになりましてな。やがて敵の貴人少数を確保した上での処刑が、一般的な手法となったのです。功績と強弁して撤退するには、形を要しますからな」


 親父お袋の影響だからって、誇らしげに言わないで欲しい。だがその方法は、失敗した侵攻などを頭を下げずに取りやめたいときなどに、いまだに魔王軍で使われているそうだ。

 早い話が見え透いた人柱だな。政治的な。


 ゼトには『百の因果』については話していない。英雄の試練だとかテキトーこいてただけなのに。

 察していたのだ。俺がこれから逃げられないと。足りない力で挑むしかないと。

 つまり大方、死ぬのだと。


 二代に渡って仕える従士からすれば、許容できることではないのだろう。

 主君が死ぬくらいなら、他の者に皺寄せを回す。この世界ではそれは当たり前のことのようだ。俺だって、世の中がそうなっていることくらい日本時代から知っていた。

 ゼトからすれば、ローレラは優先順位が劣っていたのだ。


 実際のところ現状では、そこまで見込みが無いわけではない。サハギンに勝てるか負けて死ぬかは3:7くらいだろう。

 確かに、勝率は良くも無いしできればやめたいが。


 女神の依頼。それは『サハギンの撤退』を求めていた。つまり、撤退の口実さえ相手に立てば実は戦闘をしなくとも済む。

 実際、俺のウィンドウの中でのクエスト欄は、ちかちかと点滅していた。まるで自己解決してるから、もうすぐ勝手に終わると告げているようだった。

 ゲーム版でもクエストの解決法は一つではない。力ずくでの解決を行なう予定だったのに、選択肢によって会話だけで終わっていた、なんてことは当たり前にあった。

 今回の騒乱も、別フラグによって放置しても完結する。


 ロザントのところにいる偽お嬢はゴレムントだ。手は出されないし、どうなろうと即逃げられる。こっちはもはや主戦場でさえなくなっていた。


 ウィンドウの反応を信じるならば恐らく、このまま全てが解決する。

 ローレラさえ、見捨てれば。

大体読めていた主犯の正体がいま

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