表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚術偽刃(ホーカスポーカス)のレンジュアーリ  作者: クラゲ三太夫
第一部:サリア決戦 そして砂に埋めたもの
13/40

EP.12 天然モノの英傑(中年)って魚類に例えれば上サバ缶?

なんかようやく主人公っぽい。もっともっと中二!

 察知スキルレベル1では、満足な自己防衛など難しい。異変に気付けたのは、単純に幸運だったからだ。


「やべえ。何でだ。何か俺悪いことしたっけ? 確かにもう殺人者だけど俺まだハーレムという大罪は犯してません」

「落ち着いて下さい。英雄にとって後宮ハーレムは血の責務ですので逃れられません。ところでレンジュアーリ様。何か?」

「マジな話、敵だ。あと切羽詰った状況で聞き捨てならねえことサラッと言うのやめよう? な?」


 察知スキルで、何らかの敵が迫っているのが分かった。これは斥候を一名、敵が先行させたせいだろう。間違いなくロザントの盗賊団だ。

 こんなに早く、仕掛けてくるとは思わなかった。ローカルマップ上に赤いマーカーが出現しだす。この小屋に、二十近くの敵が近づこうと森の片隅で動き始めていた。


 時間は日没後。今日は終わりかけている。夕方にはいつもの膨らまないナンのようなパンをゼトが焼いてくれて、重い空気の中みんなで食事を摂った。

 そのあと順番に風呂に入ることにし、恐縮する老人と無表情なお嬢に俺の後なら入ることを飲ませたのだ。

 ローレラはもう、クッキーを欲しがらなかった。


 俺は湯上りだったが、ローレラは入浴中。すぐに護衛をしているゴレムントにお嬢を守る旨、命令する。なぜかロハでやってくれる、との回答を得た。

 ただしやり方は任せてもらうとも。了承だけ返して、目の前の敵に集中しようとしたら、アルマジロに忠告された。


「森の中は僕の罠で一杯。気をつけて。特に底無し沼」

「この大事な時期になんてことをお前! 実は敵だったのかよ!」

「フフフ。さすがのレンジュアーリ様も気付いていなかったろう」


 安牌だと思っていたコイツがマスコット枠ではなくラスボス枠だっただと? まさか……。


「メインヒロインは僕だった。そのまさかの事実に」

「さすがの俺もアルマジロルートがあるギャルゲーとか聞いたことねえよ! キスシーンとか動物の生態フィルムと変わんねーじゃねえか!」


 俺は近くにあった雑巾を床に叩き付けた。

 そんな暴挙はゼトが許さんぞ! いや、ゼトならアルマジロ面の俺のベイビーに「坊ちゃん」とか平然と言って可愛がりそうでそれはそれで怖い!

 ゼトが許してもカッパが許さんぞ! 直参の英雄がアルマジロ婚とかマジで許してもらえそうにない。地球とべべリアスク滅ぶ。

 ついでに俺も許さん。一番肝心な俺がついでなのもアレだが。


 どうも暇なときに、俺の夢をキラキラした少年の目で語りすぎたのが原因のようだ。ハーレムの夢を。要らん知識を吹き込みすぎた。

 バカめが……ハーレムに貴様を入れるくらいなら……しまった。残りの候補がゼトとお嬢とカッパしかいねえ! あとパルマとサハギン。確かに消去法でお前が一番マシだ! 俺の周りどうなってんの?


 真剣な話をすれば、ゴレムントは盗賊の存在を登場最初から知っており準備していたらしい。俺の安全から言うと危なすぎる配慮だが。ダメージリソース増やしてどうする。


 遊んでいる場合ではない。いま、勝算があるかを考える。

 お嬢に去られてからは、スキルに関する疑問を調べただけだ。しかしレベルこそ上がらなかったが、半端な成長以上の収穫はあった。

 なくは、ない。


 盗賊の襲撃理由についてゼトに目で問いかけるも、理由は分からないらしい。出て行って話をつける準備だけしているのだろう、皮袋に多すぎず少なすぎずの銀貨と銅貨をまとめている。嫌っている相手のカツアゲに応じても、俺を守るつもりのようだ。

 俺は首を横に振った。不満そうに小声で質問される。


「なぜですか。ロザントは最低の男ですが、状況を弁えないほどの無能ではありませんぞ。私が話し合いを望んでいるのです。私と揉めれば、反撃で部下の三、四人は死ぬ危険があるのですから、労せずカネを得られるなら無駄な戦闘は避けようと……」

「そんな場合じゃないからだ。なぜかあいつら、『ゼトのところにいる誰か』が仲間を殺したことに勘付いてる。かなりの確率で殺しにくるぞ」

「なんと!」


 ローカルマップの中で迫りくる敵たち。例外なく状態が『高揚』となっている。戦意剥き出しだ。老人をカツアゲにくるときの態度ではない。

 十中八九、これから戦闘になるだろう。まだ距離があるが、直に小屋から出るのも難しくなる。


「お嬢がここにいるのって、盗賊団にはバレてないよな?」

「ローレラお嬢様が別の一族との婚姻のために、町から動こうとされていたことは奴らも把握しておりましょう。しかし、お嬢様の所在の情報は隠しております。また町から移動した際も、見られてはおりますまい。今日まで仕掛けてはこなかったのですから」

「唯一の目撃者は殺したしな。なら、仲間の死体から殺した奴を見分ける魔術や道具でもあるのか? いや、そもそも埋まった死体を当たりをつけるのが無理だ。そして掘り出せるものなのか?」

「申し訳ありません。レンジュアーリ様。私は魔術に関しては知識が……」

「すまん、ゼト。そうだったな」

「しかし、お嬢様が町を出てもう二日目の夜です。そろそろ奴らもしらみつぶしに疑いのある場所を探している頃でしょう。候補の大半が空振りだった以上、私を疑い始めるのは時間の問題だったようですな」


 確かに。この流れは必然か。

 ゼトはそれだけ言うと手早く完全武装を行なって、盗賊を迎え撃つ準備をし始めた。以前と比べて装備が断然よくなっているのだ、疑われるかもしれないし、殺される可能性もある。

 しかし、本気で俺を守るつもりのようで、まずは自分がロザントと交渉すると言い張った。自分を盗賊団の管理係として味方に引き込もうとしていたから、俺よりは殺される確率が低いだろうと。

 俺は一応了承し、最悪のときはともに戦うことだけ伝えた。相手の得意技だけ聞いておく。


「ロザントの持つ力で一番警戒すべきものはなんだ?」

「集団戦の指揮能力も、いざという時の頭の切れも侮れません。しかしながら奴の本領、純粋な剣技こそ強力かつ危険かと。魔術については若い頃学びたがっておりました。しかし素質に恵まれていなかったように思います」


 それはまずい。戦い慣れてて搦め手は通じにくいタイプか。


 最後に、戦いに参加しない盗賊は小屋を漁りにくるだろうと予想した。行商から買った現物の内、食料、衣類などで低品質のものを数点、適当に配置する。

 初心者用アイテムからも失くしてもいいアイテム、鉄の短剣(+3)やポーション、銀貨数枚、銅貨数十などを数点机に置くか、棚に隠す。

 俺の存在を知られている場合、英雄のそばにいる老人から丸っきり収穫がないとなれば怪しまれるだろう。逆に盗賊団が俺の存在を知らない場合は、サリアント家からのお嬢様を預かった報酬とでも思い込ませればいい。


 そうしてゼトとともに小屋を出て、別れて森の夜陰に身を隠す。ゼトとは違う方向からロザントとの交渉の場に向かうのだ。必要なら、身を隠さねばなるまい。

 そして、最悪の事態では奇襲隊だ。


 森は暗く、夜目でもない限りはほんの数十メートル向こうさえよく見えない。ざわざわと擦れた枝が鳴いていた。

 最悪の事態になるような、予感がした。










 やはりゼトの目論見は甘かった。深い深い黒の森に、肉を打つ音がする。


「この裏切り者が! 手前ぇは馬鹿なのか! これが最後の機会だと言ってんだろうが!」


 あのあと森を迷いながらマップと自分の位置を照合して何とか目的地へ着いた。小屋から離れた森の広場にようやくたどり着いたころ、老人は半殺しにされていた。

 俺は森の木々の影に伏せ、『隠密』を発動。『夜目』で敵を見通した。


 ゼトは盗賊団に取り囲まれて倒れ、顔を蹴り上げられていた。蹴ったのは背が高く、髭を伸ばし放題にした中年の男。

 つばの広い帽子と上等だが古びた外套を身にまとい、小剣を腰に吊っている姿は、中世の騎士小説に出てくる悪漢のようだった。腹が出始めているが、立ち居振る舞いにまるで隙がない。

 盗賊が多すぎて、青のマーカーが誰を示すのか分からない状態だ。しかし間違いなく達人の気配。この男が恐らくロザントに相違ないだろう。


 使わねばならないのは当然『鑑定』。『対人鑑定』の力で、ロザントを計る。

 結果は最悪だった。


 レベルは43。能力値は物理系が大半10強。スキルレベルは刀剣が4、察知が3、野営が3、指揮が2、統率が2、乗馬が2。『共有術:レベル3』などのよく分からないものも所有している。

 戦うな、というゼトの警告は当然だ。この中年男は、単独でサハギン二百匹にも匹敵するかもしれない英傑だった。地方の盗賊団にいるような人材ではない。下手をすれば王国最強級だ。

 ここまで強いとは正直予想外だった。


 加えて『悪くとも、ゼトが殺されることはない』、その大前提が崩れた。


 確かに盗賊団に殺す気はないだろう。しかし、大仕事であるお嬢の誘拐が控えている。殴った結果「やりすぎました」は普通にあり得る状況だった。

 万一に備えポーションを持たせてあるが、装備と合わせて確実に取り上げられるだろう。このまま基地に連れて行かれたら、恐らく治療のチャンスはない。

 放置されるにしても、盗賊が去り俺が治療できるまで生きている保証はない。現状を見る限り生存率は低そうだった。


 助け出さねば。


 その判断は誤りだった。音も立てていない。光も出していない。

 だがなぜかロザントは、俺の存在を看破した。スキルレベルでは、俺の『隠密』補正は5、ロザントの『察知』3では無理のはず。そう俺が焦る中、中年の英傑はこちらを凝視し、大音声を響かせた。

 福々しい造型をしてはいる頬の肉が、怒りの感情とともに震えていた。


「そこにいる奴! 今から行くから動いたら殺すぞ!」


 最悪だ。それも自分で事態を悪くしてしまった。

 せめて俺は警告を無視し、反射神経の命じるまま飛び上がり全力で走って逃げた。

 森で大口を開ける、闇の中へ。


 まずは距離を取り分断しなければ、ゼトが人質にされるからだ。まだ俺が仲間だと気付かれているかは半々だろう。

 それだけではない。


 怖かったのだ。

 あの巨漢は今まで戦ってきたようなどうしようもない連中ではない。本当の強者からいきなり敵意をぶつけられ、俺は完全に萎縮していた。首と腕の産毛が全て逆立っているのが自分で分かる。


「どこへ行った、ガキ!」

「逃げ隠れしても無意味だ! 殺してやるぞ!」


 この見通しの悪い場を全速力で追ってくる気配。加えてひどい悪路だ。マップも察知スキルも敵の足の力がバラバラで、速度と土地勘に優れる少数のみが俺に追随できることを教えてくる。

 ならば、安全な移動こそが肝要。俺は速度を緩めた。まだ追いつかれないだけの距離は稼いでいるからだ。

 足にぬかるみを感じたら安全な地面に足を逃がす。ゆっくりでいい。弓矢は使えないほど障害物だらけ。


「あぎゃ!」

「がッ!」


 そして周囲はアルマジロ製のデストラップだらけ。背後からの声は、二、三人は戦うまでもなく勝手に脱落していることを知らせてくれた。


 俺は、少しだけ落ち着きを取り戻した。そして走りながら全力で、上がりそうな息を無理やり吐き出す。


 親父から習った。緊張と長時間の連続運動で、素人が陥りやすいのは酸素欠乏ではない。逆に呼吸のしすぎによる酸素過剰。

 俺がやったのは空手の息吹、初心者マラソンランナーが焦ったときにやるといい呼吸法。原理はそんな感じのものだ。

 まず息が上がっているときに無理やり息を搾り出す。すると、次は体が勝手に吸おうとする。

 これで呼吸のリズムが整い、かつ酸素過剰をある程度緩和してくれるのだ。


 多少、冷静になれた。


 戦うぞ。


 ゼトから十分に距離を取れたことは確認した。俺は先行する敵を一撃で殴り飛ばすべく、『隠密』と『夜目』に『行軍』を追加発動する。

 振り返り、突出した敵に向け走り出す。














「待て、やめてくれ!」

「やだね」

「俺が悪かったから……」

「そうだお前が悪い。もう殴るしかない」


 俺の肩の皮鎧に敵のナイフが突き立っていた。軽装備のスキル補正のおかげでそれ以上は刺さりはしないが。

 殺されかけたし、元々盗賊の命乞いを聞いてやったためしはない。俺はミスリルメイスを相手の頭にフルスイングした。


 ごとん、という快音とともに、頭蓋にかなりのダメージが入ったのが分かった。白目を剥いた六人目が気絶して崩れ落ちる。

 沼にはまった奴を含めて先に五人も同様に片付けている。運が良ければ死なないだろう。

 俺のレベルは22になっていた。


 作戦は単純だ。突出し連携を取れなくなっている馬鹿から順に殴り倒す。走り疲れたところを隠密の一撃。

 こんなスカスカな作戦でも、そこそこ効果はあった。盗賊のレベルは全員20~25だ。能力値は大きくて8、スキルレベルは5~6種類が各1~2。


 これが人類のレベルなのだろうか? この盗賊団は、恐らく強者の集合体だ。ロザントが選抜したのだろう。レベルは全員がゼト並。刀剣や格闘に覚えがないものはいない。

 なのに実力は知れている。昨日殺した奴が一番手強かったが、何よりスキルの種類が少ない。盗賊になるような奴らだから、とも言えるが、そもそも通常人の強さはこんなものの可能性が高い。


 この世界では、人類では突出した少数のみが何とかモンスターと戦えるだけ。

 これじゃ、魔王軍どころかサハギンの群れに怯えるのも自然か。

 俺は落ち着くために、関係ないことを考えようとしていた。


「なんだぁガキ。逃げなかったのかよ?」


 先方からやってくる巨大な影。間違いなくこの世界でも偉丈夫だ。童話のロビンフッドの敵役を思わせる外見。

 そう、雑魚退治はこれで終わり。いよいよ本命だ。先ほどから青いマーカーが、俺に迫ってきていた。

 俺は首領ロザントが、必ずここへ来ると知っていた。


 指示を飛ばしたのだろう。他の赤いマーカーは、小屋へ向かっている。マップや『察知』の範囲からどんどん出て行っているのことから分かる。


 落ち着くために考えていた内容は捨てる。本番が来たからだ。

 どの道、ゴレムントが守り切ってくれなければお嬢は終わりなのだ。彼女は思考から外す。

 なぜゼトがローレラを匿っていると発覚したのか。なぜ俺が盗賊を殺したと分かったのか。そんなものもどうでもいい。頭から追い出した。


 俺は逃げられないのだ。ならばこの男、ロザントを殺すしかない。


 殺さなければ俺はゼトと、ローレラを失うだろう。レベルが違いすぎるが、スキルと装備を計算に入れれば、十分に逆転可能圏内。そう信じる。

 さすがに他の連中とはものが違う。立っているだけで圧倒的な殺意と力を感じた。


「ガキ、お前が昨日殺してくれたのはな、俺の下で副首領をやってた奴だ。子分を殺ってくれた礼だ。楽に死ねると……ん? お前、その顔」

「イケメンでごめん。いとブサイクな中年よ」


 やはり気付くか。冗談というか挑発で返してやったが、森の空気が凍えた。春の夜とは思えない。危険度が分かるのか、小動物が逃げ惑う気配がした。

 半笑いで余裕を見せていたロザントの表情が、一変する。


「そうかそうか、そうだったのか。ゼトの糞老いぼれが、俺に会いたがらんし、小屋を訪ねるのを嫌がるわけだよ」

「元からゼトに嫌われてたからじゃねえの? あと顔がキモくて脇臭が酷いからとか」

「言ってくれるな、糞ガキ」


 笑っているのか、怒っているのか。歪んでいく表情。もはや流れ者の中年騎士と言うよりは、悪鬼の顔だった。その口角には興奮のためか、泡を少し吹いている。

 人間の声には思えない咆哮に変わっていく。唸りのような声が森に響き渡った。


「お前はヨキアの子か!」

「銀風の英雄ジュアンカーリと結界の姫ヨキアの子、我が名はレンジュアーリ・ハルフィネン・ミスレライン!」


 気圧されるわけにはいかない。己を鼓舞しソウルネームで名乗りを上げて、鈍器スキルを発動する。


「薄汚い裏切り者ロザント・バルカニル! その首級クビもらうぞ!」


 敵は左利きだ。走ってくる。鋼の小剣を音もなく抜刀し斬り付けて来るのを、俺はメイスで迎え撃った。








「なぁああんだぁああ! マシだったのも威勢がいいのも一合目だけかよ! ジュアンカーリ・・・・・・・!」


 腕を狙ってくる横殴りの銀線が、視界を割った。必死で喰らいついて武器を突き出し弾くが、衝撃に押される。

 指が激突の衝撃を抑え切れず、圧力で捻じられ激痛を発する。攻防の肩への振動はひどく、筋肉が熱を持っていくのが自分で分かった。

 剣の重さは、靴を地面にかみ締めさせて堪える。態勢を崩されても、転ぶことだけは避けられた。


「多少はできるみたいだがな! 何か空っぽなんだよなぁあ! 自分でそう思わねえか? 糞ガキのジュアンカーリ・・・・・・・ちゃあん!」


 風の流れなど届かない。届くとしても殺気のあと。

 勘の是非を判断する前に、目にチラついた線をメイスで叩き防ぐ。


 次は脇腹だ。いや跳ね返して肩。と見せかけて手足。反撃しようと払った青銀色のメイスは容易にかわされ、逆に隙を突かれる。

 剣の動きは払い、袈裟、掬い上げ、手足を狙う突き。どれもが首筋、内股、手首、脇腹、爪先を狙う合理的な一撃。

 辛うじて全て弾き飛ばした。


 ロザントは錯乱したのか俺を親父の名で呼んでいる。ふざけた口調とは裏腹に、全てが遊びのない戦場の技だ。どれを貰っても致命打。

 何よりこの斬舞は乱れない。休まない。


 俺は死ぬ気で斬撃をかわし、逸らし、メイスで防いだ。最後の突きの一撃。これも逸らす。


「残念無念! フェイントでした!」


 いや、一撃ではない。最後の突きを弾かれる衝撃すら利用した連撃、二撃目の払いに、左の上腕を切りつけられる。

 深くはない。だが浅手でもない。

 こっそり手に染み込ませていたレベル3ポーション・リジェネを、傷に触れる振りをしながら擦り込んで癒す。


 剣を基本姿勢に戻し巨漢は笑っていた。表情とは裏腹に油断はない。侮ってこないのは一撃目の交錯で手首を傷めかけたからだろう。

 悪意と凶気に塗れ、落ち窪んだ目に狂熱が宿ろうとも、ロザントの強さは本物だった。その発言どおり、スキルによる補正で無理やり力を上乗せしている空っぽの俺とは違う。


 経験からくる読みの深さ。疲労や苦痛を抑え込む意志力。技も柔軟で無理がなく洗練されて卒がない。単純な肉体の力も相当のもの。心理的にも隙や死角が小さい。

 何より装備で劣るのに、鋼の小剣はまだまだ打ち合える状態だった。継戦能力が違う。

 殺し慣れて殺されかけ慣れている。その底は深かった。


 レベルこそ大幅に敵が高いが、スキル補正値では互角。装備は言わずもがな。そもそも術士である俺とは他のスキルの戦術の幅が違う狭さ。相手からすれば悪条件と言っていい。

 なのに一方的に押されているのは俺。

 このままでは勝てない。死の予感が重くのしかかってくる。


「ビビッちゃったか? ジュアンカーリ・・・・・・・ィ?」


 ああ、ビビッている。怯えた足が勝手に逃げそうだ。

 手紙に書かれた親父の言葉。それを思い出していなければ、もうパニックを起こして小屋へ逃げ込んで震えていただろう。たとえそれが悪手だろうと恐怖に勝てず。


 もし大事なものを害する相手と戦うのなら。もし勝てるか分からないものに立ち向かわねばならないのなら。もし罪を犯してでも果たさねばならないのなら。

 迷わないためだ。思いは埋めていきなさい。決して掘り起こしてはならない。

 そう、ミスリルのように。


 心を砂に、埋め去った。


 また横殴りの斬撃。しかしそれはもう一度見ている。

 一撃を受けた衝撃に押されたのを利用し、背を向けてひとまず森の密生方向へ引く。

 木々の間を駆ける。そうすれば敵の剣による攻撃を制限できる。

 無論メイスの攻防も制限されるが、俺には、奥の手がある。


 まだ使用していない力。魔術。これを人体急所に、叩き込む。


 ロザントは体格からは想像できないほど軽やかに追って来る。足音から考えて油断はしていない。

 いや、遊びはないが先ほどの、完全に殺す気になったときの凄まじさはない。このわずかな敵の弛緩を生かせなければ、俺は本当に死ぬだろう。


 左手側にやや太い木。道に張り出している。これだ。

 地形を利用すべく俺は思い切り振り返る。

 まだ距離のある敵へ魔術を詠唱。


ファイア・ボール(ダガー・ソイル!)!」


 発見の一つ、二重詠唱。

 もともと俺が口にする呪文と、この世界に響いている詠唱の発音は異なる。

 理由は『プレイヤー能力』がもたらしている翻訳効果が働いているため、だけではない。それならば日常生活も二ヶ国語放送になっていなければおかしい。

 魔術は通常、ある呪文を使うと意識し呪文を唱えると発動する。しかし俺の場合はフルートのような翻訳前の音は、実は意識に反応して響いている。

 普段は意識と言葉が同一だから気付かなかったに過ぎない。


 ならば、意識する呪文と発音する呪文を変えて声を出せばどうなるか。『プレイヤー能力』の誤作動か意識と言葉、二つに分けられた呪文が双方詠唱成立してしまう。

 結果、マナが二分されてしまうが魔術が二重発動する。


 突撃で背中から殺るつもりだったのだろう。

 巨体に似合わず俊敏に追ってきていたロザントは素早さが仇となり、振りかぶった攻撃態勢を取ってしまっている。

 それではかわせない。


 力が分散されて各々小規模とは言えかわせない。

 突如出現する、正面からの火球と右脇腹を狙う土刃の二つは。


「あはあははあはあぁぁ! 『レジスト・モノ』!」


 ロザントは、かわさなかった。まずは叫び。そしてただ滑らかに二つの魔術の射線上を通すように。その剣を静かにスイングするだけ。撫で斬りだ。

 それだけで火球と土刃をなんでもないように砕く。無力化された火の粉と土くれが舞った。


 やはり、『共有術』とはコモン魔術のことか。内心歯を噛み締めた。

 コモン魔術とは火魔術など、何か魔術系列を一つ取得すれば得られる簡易な基本術。共有魔術とも呼ばれている。通常それだけで一系列をなしていたりはしない。

 大した呪文は存在せず、明かりをつけるだの、ライター程度の火を点火するだの、マナの流れを操って物体を動かすだの単純なものしかない。生活用の魔術とも言える。それを専門にしている術士などいない。

 だがここは現実世界。『術士を目指したが、才能不足でコモンしかものにならなかった』『魔力が少なく、費用対効果を考えコモンだけ覚えた』人間もいるはずだ。


 ロザントが挫折した元術士志望者で、コモン魔術を使用できるのならば、いくつもの疑問に説明がつく。まず、俺が盗賊を殺したのが発覚したのや、さっきの隠密が破られたのは『タグ』という呪文による可能性が高い。

 これは一枚だけ、人やブツにマーカーを付ける魔術。あまり遠距離になると解除されるが、離れないならかなりの時間、継続する。

 例えばゲーム版では販売アイテムなどに使うものだ。店では他キャラが自分が狙っていたアイテムを先に買ってしまうこともある。しかしアイテムに事前に『タグ』をつけておけば、バザー会場内ならアイテムの現在位置を知ることができる。運が良ければ買った者から買い取れるだろう。その程度の呪文だ。

 だがこれがある人間に事前に付けられている場合、そいつを殺したら? 死体が近くにあれば死体の位置。また犯人が逃げていないなら死体の一部がこびりついている凶器の場所。そのくらいは術士の力量次第だが割れてしまうのではないだろうか。使い手が一流で、同じ森の中、の条件なら。


 また、コモンには『簡易抵抗』という魔術抵抗を気持ちだけ上げる魔術もある。まったく抵抗力が成長しない技なのでゲームでは死に技だが、現実では込めるマナ次第で強化できる可能性も高い。

 そして術士でない者にとっては、対魔術攻撃/防御手段として重宝するのではないだろうか。いま叫んだ男がそうしたように。


 一先ず、敵がただ一度くらい魔術を防ぎ得る可能性は予想済み。


 だから、一度策を破らせたここからが本番だ。

 右手側、ロザントから見て左側の木は意識しない。

 迎え撃つ。


 俺の本命の発見とは、俺のスキルが混ぜられるということだった。

 発見は偶然だ。メイスの可能性を引き出すべく、アクロバティックな鈍器技を使用しようとしていたとき。間違えて刀剣技を使用しようとしてしまったのだ。


 問題は『鈍器装備』状態で『刀剣技』が発動したこと。ゲーム版ではありえない現象だ。腕は死んだ。

 原因について考えていたが、最終的に鈍器の補正などの無茶な現実化から答えを得た。特定の武器を握るだけで筋骨への負担が軽くなったり、殴った相手への衝撃が増したり、正しい振り方が分かったりする。そんな習熟は現実にはありえない。

 これは俺のスキルが全て「魔術」扱いになっているせいではなかろうかと。


 だから刀剣ならいわば『刀剣魔術』、鈍器なら『鈍器魔術』とでも呼ぶべきものによって俺の補正は発生しているのではないかということだ。

 ならばイメージだけ火魔術にしておいて土魔術を放つくらいは普通に可能の範囲なのだ、スキル同士の誤作動はあり得る。

 最終的に自分の意識を集中、操作することでスキルを合成できるのではないかと結論した。


 二つないしは三つを合成することで、意表を突く。これが策だ。


 実際に技能を使用するときも、ゲーム版のように全ての技能がマナを消費したり使用不可時間を発生させたりしない。

 これも現実に沿っているせいだ。技能はおおざっぱに言って魔術はマナ、技は生命、場合によっては両方を食う、そしていずれにせよ疲れる。

 しかしスキルの『プレイヤー能力』内での分類そのものは『魔術』の為、組み合わせの融通自体は利くはずだ。実験では刀剣と鈍器でさえ、組み合わせるとマナや生命の消費量が無茶苦茶過大になったが。


 迫る敵。怒号している。まだだ。

 この状態からでも敵は一撃で俺を殺傷可能。間違えてはならない。劣勢の事実に変動無し。

 敵が左手を振りかぶる。振り下ろす。利き腕側からの袈裟。


 焦った振りでメイスを無造作に突き出す。伸びる速度は一流でも凡庸な一流。対する敵は超一流だ。

 油断はしないままロザントの目に狂気が光る。袈裟を止めようとしない。不用意な俺の一撃など斬撃そのもので受け流し押し潰せるから。止めを刺しに来るつもりだ。


 振り下ろされた流星のごとき一撃は、予想通り張り出した木に引っかかり。しかしあろうことか加速してくる。

 驚くべきことに僅かに剣速を落とす為に仕掛けた罠は看破され、木に固定された抵抗を逆用し加速させてきたようだ。


 しかしその優位こそが罠だ。

 ギリギリでのメイスの防御。弾かれた先端がロザントの頭部側に流れる。

 押し切れば勝ちであることを確信したロザントの顔面に。


 スキル合成《*術**》発動。


 《火魔術/鈍器 消えざる汚名リンガリング・スティグマ


 敵の面前で灼熱と閃光が炸裂した。烙印の炎が。罪人の絶叫が森を引き裂いた。

英雄譚に自分がでるとしたら、ロザントくらいの枠が一番楽だと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ