第九話 奴隷に教育を!
今回の話が一番ゲス……というか、くずな話かもしれませんのでご注意を。
<火焔回廊>を踏破した俺は、特に疑われることもなくAランク冒険者になれる運びとなった。
さすがにFランクからBランクまで一気にランクをかっ飛ばした時とは違う。
ただし、Aランク以上専用のギルドカード、通称<ブラックカード>を用意するのに時間がかかるので、正式にAランクになれるのはやはり二週間後だそうだ。
なので今の俺はAランク(仮)状態である。
火竜やダンジョン深部の素材が高値で売れたので、懐には余裕があった。
なのでこの二週間は、まったりと依頼をこなしたり町で時間を潰すことにする。
武道会も近いし、無理をして身体に何かあったりしたら大変だ。
万が一出場できないなんてことになったら目も当てられない。
そう思って宿代をまとめて二週間分払い、優雅なニートライフを始めた俺だったが、三日で精神的にきつくなった。
同居人であるフェルナの視線が身体に突き刺さってくるのだ。
最初のうちは美女の冷ややかな視線に悪くない気分だったのだが……すぐに心が折れた。
血走った目ですんごい殺気をぶつけてくるものだから、どちらかと言えばMの俺でも耐えるのには無理があったのだ。
こうして宿にいられなくなった俺は、町をぶらぶらするようになり、最終的に娼館に出入りするようになった。
この世界はここと酒場と闘技場ぐらいしかまともな娯楽施設がないのだから仕方ない。
しかも冒険者が多いせいか、この町には娼館がたくさんあるうえに相場がかなり安いのだ。
あらぶる童貞魂と十四歳の性力に任せて一日中お姉さんに相手してもらっても、宿代三日分ぐらいで済んでしまう。
十四歳で小柄な俺は、自分で言うのもなんだが結構ショタっぽい。
さらに仮とはいえ将来有望なAランク冒険者なので、面白いようにモテる。
その結果、良い気分になった俺は性欲の赴くままに娼館へ毎日入り浸って……一週間でほとんどすってんてんになった。
安いからと言って限度があったのだ。
それに最初のうちは安い微妙な感じのお姉さんでも我慢していたのが、それでは我慢できなくなり、値段の高いお姉さんに手を出すようになったのが決定的だった。
「さて、どうしたものか……」
魔物を狩れば金は入る。
けれどそれでは怪我をしないために武道会まで町に居ると決めたのに、本末転倒だ。
かといってこれ以上金を使い込むと、交通費にまで苦労することになる。
でも、猿になった俺はHをしないと気が済まない。
俺はこの複雑なジレンマに悩んだが……すぐに答えを導き出した。
「……フェルナをどうにかすればいいんだよな」
俺は相変わらず恐ろしく無愛想な我が奴隷を見やった。
ポテンシャルだけならフェルナは娼婦のお姉さんたちをはるかに超えている。
町一番と自信満々だったお姉さんより一回り大きい、まさにスイカ級のおっぱい。
思いっきりくびれた腰、むちっとしたお尻と太もも。
ルックスももちろん元武闘派の姫にふさわしいきりりとした最上級のものだ。
容姿だけならほんと、ドストライクなんだけどな。
今のままでもHすることはたぶんできる。
けど、さすがにそれは俺でも怖い。
奴隷になっているから主人に手出しはできなくなっているはずなのだが、それでも殺意全開のAランク冒険者を前に無防備になんてなれそうにない。
というか、十四歳の俺でもあれだけの殺気に晒されたら興奮できないぞ。
フェルナを何とかして従順にしなければ。
これは単純にHしてえというだけの問題ではない。
フェルナが積極的に行動しなかったせいで、ダンジョン内で命を落とすなんてことも十分考えられる。
<火焔回廊>の時にも、フェルナは自分の判断で攻撃をはずしてしまった。
それがもう一度、致命的な場面で起きたらと思うと改めてぞっとする。
「良いスキルとかないのかな?」
資格があれば何でもできるのが現代日本なら、スキルがあれば何でもできるのがこの世界だ。
考えてみれば、奴隷商人のもとで買う奴隷は最初から主人に忠実だ。
教育用の何らかのスキルがあってもおかしくはない。
むしろ、スキルなしで奴隷をあれだけ忠実にするとしたら大したものである。
そう思った俺は、街の裏手にある闇市へと向かった。
王都に比べて風紀の緩いこの町では、闇市という形ではあるものの奴隷が露店売りされている。
たくさんの奴隷が檻に入れて並べられているので、運が良ければ奴隷を「教育」する瞬間が拝めるかもしれない。
そう思った俺が露店を冷やかしつつ奴隷商人の店を見張っていると……来た。
運がいいことに、すぐにその瞬間がやってきたのだ!
「このクソ奴隷、いちいち反抗しやがって! 我が心に寄り添え!」
ビュンビュン!
自分を睨みつける奴隷に向かって、商人は鞭を振るった。
するとその時、鞭がわずかに発光しているように見えた。
その後、鞭でぶたれた屈強な男の奴隷は、先ほどまでの反抗的な態度が嘘のように商人の指示に従う。
これがもしや……スキルなのか?
俺は急いでギルドカードを確認した。
すると……
「おおっ!」
ギルドカードにははっきりと<奴隷教育術>という文字が浮かび上がっていた。
やった、これで従順な奴隷をゲットできるぜ!
俺は急いで宿に戻ると、さっそくフェルナに向かって試してみる。
「フェルナ、その反抗的な眼をやめろ」
「ふん、これは元々だよ。仕方あるまい」
相変わらずな物言いである。
しかし、これでこそ試し甲斐があるというものだ。
「やめろって言ってるだろ。我が心に寄り添え!」
ボカッ!
フェルナの身体を軽く叩いた。
しかし、特に変化は見られない。
あれ、おかしいな……スキルの効きが悪いのだろうか?
もうちょっとやってみるか。
ボカボカッ!
「な、何をする!?」
「いや、フェルナが言うことを聞いてくれないから」
「そ、そんなこと仕方あるまい! 私はお前のことを嫌いなのだからな。………………ところで、その手は大丈夫か?」
フェルナは部屋の中でも鉄の鎧を着ていた。
それを叩いたせいで、俺の手は少し赤くなっている……って、フェルナが俺のことを心配したぞ!
「これはいける、いけるぞ!」
俺は思わず、そう叫んだのであった――。