第七話 火焔回廊
俺たちが住んでるラーシュ王国。
その王都から南方に行ったクーランの街に火焔回廊はある。
火山地帯にある街で、くっそ暑いのが特徴の街だ。
日本みたいにじめじめしてないからまだマシではあるんだけどな。
「着いたぞ!」
王都から馬車で丸一日。
ようやくクーランの街へ着いた。
俺はまだ大丈夫だが、身バレを防ぐためにごついの鉄の鎧を着込んだフェルナはかなり暑そうである。
馬車から下りる時、少しふらついていた。
「大丈夫か?」
「ふん……」
「水飲めよ、倒れられちゃ困るから」
フェルナは勢いよく首を横に振った。
鉄仮面の奥から冷ややかな視線が覗く。
「お前の役に立つぐらいなら、このまま渇いて死んだ方がマシだ」
「それじゃ俺が困る。飲め」
俺は水筒の口を鉄仮面に突っ込むと、無理やり飲ませた。
フェルナはうんざりしたような顔をしつつも、本当は喉が渇いていたらしく途中からは抵抗することなく飲む。
「さ、さっさと宿に行くぞ。Aランクは認定に時間がかかるらしいから、急がないと武皇決定戦に間に合わなくなっちまう」
「貴様、本当にやるつもりなんだな……」
「当たり前だ。お前にも働いてもらうぞ」
「クソ、舐めおって……!」
一体何のために奴隷にしたと思っているんだ。
働かせないんだったら、わざわざAランク冒険者なんて奴隷にしないぞ。
俺はやれやれと息をつくと、強引にフェルナの手を引っ張って宿屋まで移動する。
翌日、俺とフェルナはさっそく火焔回廊へと潜ることにした。
この火焔回廊は、この間俺が潜ったBランクの<悪霊の墓場>などに比べてはるかに深い。
全十階層もあり、一つ一つのフロアが町一つ分に匹敵するほど広いのだ。
これまで踏破したパーティーの平均所要時間は約三日。
俺がダンジョンに慣れていないことやフェルナが反抗的なことを考えると、五日はかかるだろう。
長旅の準備をしっかり済ませた俺たちは、荷物で満タンになったカバンを片手にダンジョンの門をくぐる。
「暑いな……」
ダンジョンの中は灼熱地獄だった。
歩くだけで汗がだらだらと出てくる。
俺は思わず暑い暑いとうだっていた。
するとその時、天井から赤い液体のようなものが落ちてきた。
スライム系の上位モンスター、<ヒートスライム>の登場だ!
「そりゃッ!」
ビュンビュン!!
俺とフェルナはそれぞれヒートスライムの核を叩き斬っていった。
連携は取れていないが、さすがに王都最強と言われた冒険者。
的確に俺が倒し損ねたスライムを倒してくれる。
「ありがと!」
「……仕方なくやっておるだけだ!」
こうして反抗的ではあるものの、フェルナは仕事はきっちりこなした。
彼女曰く「身体が勝手に動く」らしい。
奴隷って本当に素晴らしいな。
俺がなったらと思うと実にぞっとするけれど。
この後もドンドン俺たちは階層を潜っていき、四階層目の安全部屋で初日を終えた。
思った以上に順調なペースである。
これから魔物はパワーアップしていくだろうが、この分なら三日ぐらいで探索を終えられそうだ。
帰りは転送魔法陣が設置されているので、考えなくても大丈夫だし。
……と思っていたのだが、二日目、予想外のことが起きた。
水の消費量が多く、二日目にして水が尽きてしまったのである。
俺が魔術である程度は補給することができるが、俺の魔力はそれほど多いわけではない。
このままでは戦闘に使うための魔力がなくなり、支障が出てしまう。
「くそ、どうすればいいんだろ……?」
「ここはゆっくり進むしかないだろうよ。武皇決定戦には出られなくなるかも知れんがな?」
そう言ったフェルナの顔は笑っていた。
まったく、奴隷のくせに反抗的な奴である。
俺が忌々しくそう思っていると、視界の端を三人組の冒険者が通って行った。
踏破を目的としていない連中らしく、装備はあまり整っていない。
「そうだ、無いなら奪えばいいじゃないか。あいつのものは俺のもの、俺のものは俺のものって言うし」
「おい、貴様……!」
「大丈夫。ダンジョンの中で無名の冒険者が死んでも、原因なんて調べやしないよ」
この世界のギルドカードは勝手に犯罪歴を証明したりしないからな。
冒険者は自己防衛が何よりも大事なのだ。
それができない、もしくはそれを知らない奴は死あるのみ。
この世は弱肉強食なのだ……!
俺はフェルナを引き連れて、いっきに冒険者たちの背後へとつけた。
冒険者たちもすぐに俺たちの気配を察知して応戦するが、遅い――!
「グハッ!」
「アボシ!」
ビュンッ!
俺の片手剣が、冒険者たち二人の首をまとめて切り飛ばした。
しかし一方で、フェルナの方は仕留め損なってしまったようである。
どうやら奴隷の本能で首を狙って攻撃したが、本人の意思によって狙いを捻じ曲げてしまったらしい。
「うああっ! た、助けてくれ! 欲しい物なら何でもやるから!」
「じゃあ命をくれ」
「は、はい……へ?」
ザッシュ!
俺は男の首を切り飛ばした。
そして持っていた水袋を奪う。
その様子を、フェルナは唖然とした顔で見ていた。
「お前……何も殺すことはなかっただろう!?」
「目撃者はきちんと始末しておかないと。絶対しゃべらないなんて言っても、信用できないんだぞ」
「そうじゃなくてなァ……!」
「はいはい、さっさと行くよ」
俺はフェルナの手を引っ張り、またダンジョンの最深部を目指して潜り始めたのであった。