第一話 フェンリル
俺はどうやら転生者ってやつらしい。
剣と魔法のファンタジーな世界で生まれたけど、何故だか現代の記憶がある。
道でスマホを弄ってたら、車にはね飛ばされて死んだはずなんだが何故かここに生まれ変わってた。
さっぱり意味がわからん。
俺が生まれたのは冒険者の家系だった。
何代か前の祖先は凄かったらしいが、最近はパッとしないらしい。
そのせいか、俺とロック兄ちゃんは親父に期待されまくり、しごかれまくりだった。
おかげで兄ちゃんはくっそ成長したんだけど俺は……orz
この世界の人間はスキルと魔力ってやつを持っている。
だけど俺は、魔力はそこそこあった癖にスキルがなかった。
十四歳になってもスキルがないとか、ありえねーぐらいありえないらしい。
ちなみに兄ちゃんは<棒術>というスキルを持っている。
俺に似ず、かなりレアなスキルらしい。
「さっさと行くぞ! オーガはこの奥だぜ」
ギルドに登録した俺は、ロック兄ちゃんに連れられてギルドの依頼をこなしに来ていた。
十四歳になってギルドに登録したばっかりなので、これが俺の初依頼だ。
内容は薬草採取……のはずだったんだけど、兄ちゃんの思いつきで何故かオーガの討伐までついでにやろうとしている。
近くにオーガが居るとわかって、Bランク冒険者の腕が鳴ったらしい。
俺にとっては迷惑がマッハすぎるんだけど。
「兄ちゃん、やっぱ俺やめとくよ」
「大丈夫だって、Bランクの俺が付いてるんだぜ?」
ドヤ顔をかますロック兄ちゃん。
正直、暑苦しいぞ。
俺は思わずでっかいため息をついた。
するとその時、兄ちゃんの奥から赤い巨体が現れた……!
「グアアァ!!」
でかッ!!!!
ちょ、これやばいよやばいよ!
オーガの身体はゴリマッチョな兄ちゃんの三倍ぐらいはある。
「うわああァ!!」
俺は一気に駆けだした。
森の中を無我夢中で突っ走っていく。
はっきりいって、もうなにがなんだか分かんない状態だ。
兄ちゃんが叫んでたような気がするけど、もう気にしていられない。
「はあはあ……」
たっぷり三分は走っただろうか。
いつの間にか、森の奥の方まで来てしまったようだ。
この<癒しの森>の深部には、フォレストウルフというかなり凶暴なモンスターが生息している。
見つかったら大変だ、さっさと帰らなくちゃ。
現在地はさっぱりわからないが、とりあえず勘で歩き始める。
そうしてしばらく歩くと、白い山が目の前にあった。
おかしいな、雪なんて降ってないんだけど。
俺がその山に触ってみると、その山は馬鹿に柔らかかった。
「ん? ……わァ!!」
白い山はあろうことかフェンリルだった。
ここ数十年間、目撃すらされていなかった超激レアモンスターである。
ランクは驚きのSSランク、心中レベルだ。
まさかこんな所にいたとは……信じられない。
「おい小僧」
「は、はい!?」
ヤバい、存在が気付かれた!
俺が慌てて背中を向けて逃げようとすると、ガシッと白い腕が押さえつけてくる。
「まて。そなたに用がある」
「な、なんでしょう! 俺なんて、食っても美味くないっすよ!」
「そうじゃない。ちと、泉の水を持って来てはくれぬか? 足を怪我して動けないのだ」
そう言われてみれば、フェンリルの足は血まみれだ。
動けないのも無理はない。
「は、はあ……」
「持ってくれば相応の礼はやる」
「わかりました」
「泉はわしから見てまっすぐに進んだ方だ。なるべく早く頼むぞ」
俺は言われるがままに突き進んだ。
すると、前方に青い泉が見えてくる。
コバルトブルーの、すっごく神秘的な泉だ。
そういえば、癒しの森の泉には癒しの力があるとか言われてたな。
泉の水を持っていた水筒に投入すると、俺はフェンリルの居た場所まで戻った。
そして早く早くと急かすフェンリルに、さっそく水を飲ませてやる。
「ふう、生き返った! 礼を言う!」
「ありがとうございます」
「うむ。黒竜と戦って怪我をしてしまってな。それで癒しに来たのだが、途中で動けなくなってしまっていたのだ。本当に助かったぞ。さて、約束の礼をしなければな」
フェンリルは俺の頭をぽんぽんと叩いた。
すると何だか、力が湧いてきたような気がする。
「お主の潜在的な力を少し引き出してやった。街へ戻ったら確認するがよい、ではさらばだ」
フェンリルはそう言うと居なくなってしまった。
俺はさっそく、ギルドカードを確認する。
すると何も書かれてなかったはずのスキル欄に<万物模写>という何だか凄そうなスキルがあった。
「これは……!」
スキルの内容を確認すると、そこには<眼で見たあらゆるスキルをコピーし、俺のものとする>と書かれていた――。