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別々

それから、150年近く経過した。

二人は確かに大きくなり、人言うと高校生ぐらいではないだろうかという大きさにまでなっていた。

まだ、変わらず部屋は同じで寝るのも同じ寝台の上だったが、碧黎や陽蘭にはそもそも人や神の感覚がわからなかったので、そのままだった。

そんなある日、夜、休む挨拶を終えたあと、碧黎が十六夜に用を思い出して部屋を覗くと、そこで二人は口づけていた。寝台で共に眠っているのは知っていたが、まだ子供だと思っていた二人は、まるで恋人同士のように、しっかりと抱き合って唇を合わせている。それが初めてではないことは、その様子から見て取れた。碧黎はどうしようかと思ったが、それを見たとも言えず、しばらく佇んでいた。

そのうちに、二人はそのまま寝台の上で、抱き合ったまま眠り始めた。まだ、あれ以上のことはないようだ。

碧黎は考え直して、踵を返してその部屋を後にした。


次の日、碧黎は二人に言った。

「我ら考えたのであるが、主らはもう、大きくなった。成人まではあと少しあるが、これから部屋を別に与えることにするゆえ、今日より別に休むが良いぞ。」

維月が驚いた顔をした。

「…お父様。でも、私達は婚姻をするのでしょう?では、大きくなったのなら、このまま正式に婚姻にすれば良いのでは…。」

碧黎は首を振った。

「まだ子供ぞ。精神的にも大人になってから、婚姻を執り行う方が良いであろう。維月、主はいつまでも十六夜に頼り過ぎておるぞ。少し離れて暮らして自立せねばならぬ。それでこそ、大人になったというのだろう。」と、侍女に頷き掛けた。「十六夜はそのままの部屋を使って、維月の部屋は、案内させるゆえ。行って参るがよい。」

維月はためらいながらも、侍女に連れられて、十六夜を振り返り振り返り、そこを出て行った。

碧黎が十六夜に向き直った。

「主は、分かっておるようだの。何も言わんとは。」

「わかってる。」十六夜は言った。「オレも子供じゃねぇ。むしろオレらは、遅かったぐらいだろう。他の神の兄弟達は、とっくに部屋は別だったもんな。」

十六夜には、学校で知り合ったたくさんの人の世界から来た神の友達がいる。碧黎は頷いた。

「維月はまだ子供だ。あれが成人するのを待つが良い。それで、そう言えば我は教えて来なかったが、婚姻が何たるか知っておるのか?」

十六夜は眉を寄せて頷いた。

「知ってるよ。オレには人の世から来た友達が多い。そこから知ったんでぇ。初めはびっくりしたが、確かに婚姻が一緒に寝て唇くっつけるだけってはずはねぇはな。だが、維月は知らねぇ。未だにあれが婚姻だと思ってやがる。だから、オレもあれで良かったんだが。」

碧黎は眉を上げた。

「なんだ、主、知っておったのか。」

十六夜はますます眉を寄せた。

「父上の気ぐらいわからぁな。昨日見たんだろうが。でなきゃ急にこんなこと言い出すはずはねぇもんな。」

碧黎は頷いた。

「では、待つが良い。維月が大人になるまではの。」

十六夜は頷くと、その部屋を後にした。


夜、一人にで寝台に横になっていると、維月の気が窓側からした。驚いた十六夜は、起き上がって見た。

「維月!」と、窓を開けて中に入れる。「どうした?お前、北の対の部屋へ移されたんだろう。」

維月は涙ぐんだ。

「一人で寝た事なんて、ないんだもの。」維月は十六夜を見上げた。今や、身長は20センチぐらい差がある。「十六夜と一緒でなきゃ、嫌。でも、お父様は私が大人でないからだっていうの…十六夜はもう、心も大人だからって。どうしたら大人になれるの?十六夜と離れたくない。」

十六夜は困った。確かにそうかもしれないが、何も本人に言わなくていいだろうが、父上は。

「維月、婚姻まで我慢だぞ。」十六夜は言った。「すぐに慣れる。それが大人なんだからな。お前、こんな所に来てしまったら、大人になれねぇじゃねぇか。」

維月は十六夜に抱きついた。

「嫌。ここに居るの。」と必死に十六夜に訴えた。「ねぇ、私達がもう婚姻関係にあるってお父様に言って。そしたら、離れずに済むもの。」

十六夜は維月を見つめた。本当は婚姻関係にはないんだが。十六夜は維月に言った。

「あのな維月、オレ、わかったんだけどよ、一緒に寝て唇くっつけるだけじゃ婚姻関係じゃねぇらしい。」

維月は驚いた顔をした。

「え、他に何かあるの?」

十六夜はそんなことを言ってしまって維月がショックで寝込まないか心配になって、迷った。すると維月は、キッと十六夜を見上げて言った。

「じゃあ、それをしよう?そしたら婚姻でしょ?一緒に居られるでしょ?」

十六夜は、一瞬迷ったが、意を決して維月を抱き上げると、寝台へ運んだ。そして言った。

「お前、びっくりするぞ。それでもいいのか?」

維月は一瞬戸惑った顔をしたが、頷いた。

「うん。十六夜は私に酷いことはしないもの。信じてる。」

十六夜は、見聞きしたことを思い出しながら、維月を抱き締めて唇を寄せた。そして首筋に唇を落とすと、維月が小さく震えているのを感じた…何も知らないのだ。確かに怖いだろう。しかも、それがあんなことだと知ったら…。

十六夜は、維月を抱き締めた。

「やっぱり、待とう。父上もそのうち分かってくれるから。維月、今夜はいいが、明日からはきちんと自分の部屋で寝て、しっかり大人になるんだぞ。そしたら一緒に居られるようになるからな。」

維月は少し不満そうに十六夜を見上げたが、頷いた。そして、そのまま二人は抱き合って眠った。


そして、またそれから30年が経過した。

やっと維月は人で言う二十歳ぐらいになり、十六夜も同じくだった。

二人は相変わらず昼は一緒に居る事が多かったが、夜は別に寝るのにすっかり慣れていた。それでも、維月はたまに十六夜の部屋に出掛けて行っては共に寝た。十六夜も仕方なく部屋に入れて、それでも婚姻までは行かなかった。

そんなある日、父と母が珍しく出掛けるという。しかも、自分達二人を連れて行くと言うのだ。

行き先は、月の宮と親交が深いという龍の宮だった。

初めての遠出に維月ははしゃぎ、眠れないと言うのでまたその日は十六夜と共に眠った。

当日、はしゃぎまくる維月をなだめながら、維月を腕に抱いて十六夜は飛んで行った。

道すがら、初めて見る景色に維月は大喜びだった。既に何度も月に戻り、地上を見ていた十六夜は特にはしゃぐこともなく、落ち着いていた。

龍の宮に到着して奥にある王の居間へ通された四人は、そこで龍王、将維と対面した。

そして、その皇子である維心を見た時、十六夜の頭の中で何かが弾けた気がした。

こいつは…もしかして、維月のもう一人の夫か?

十六夜は警戒した。表情は崩さず何も反応がないように見えるが、相手が動揺しているのは気で感じ取れた。

しかし、父は違うようなことを言う。

十六夜は警戒しながらも、宮に残るという維月を置いて、龍の宮を飛び立った。


特に何もないようだったので安心していた頃、そろそろ帰って来ても良い頃だと、王の蒼が龍の宮へ打診した。一か月も離れているのは初めてのことだったので、十六夜も早く維月に会いたいと思っていた。

そんな矢先、蒼から呼ばれて、維月があの維心と婚姻が成ったのだと聞かされた。

十六夜は憤って言った。

「…なんでぇ、結局あいつじゃねぇか。そんなことになりそうだとは、父上も全くオレに知らせずによ。」

蒼はため息を付いた。

「あっちがどう思うかわからなかったじゃないか。だからだろう。」

十六夜はフンと横を向いた。

「維月を要らねぇなんて言うやつが居る訳ねぇだろう。そうと分かっていれば、何が何でもあっちに残ったのによ。あいつ…どれだけびっくりしたか。」

蒼は、それは婚姻の夜のことを言っているのだと思って、確認しておこうと思った。

「十六夜は、知ってるのか?婚姻がどんなものかっていうのを。」

十六夜は頷いた。

「知ってるよ。オレの友達は人の世から来た神が多いからな。知らねぇで居るほうが難しい。だが、維月は何も知らなかった…だから、オレだって共に寝ることがあっても何もしなかったんだしな。だが、あいつはそれをしやがったんだろう。」と眉を寄せた。「だからわかっててもムカつくんでぇ。」

十六夜は、震えていた維月を思うと居た堪れなかった。何も知らずに、オレならまだしも全く知らずに会ったばかりのヤツにされたなんて。どれほど驚いて、怖かったことか。

そう思っていると、頭の中から何かが湧きあがって来るような感覚がした。とても大きい。御しきれない…。

十六夜が立ち上がったかと思うと、ふらふらと膝を付いた。蒼はびっくりして十六夜に手を差し出した。

「十六夜!どうした?」

十六夜は必死に意識の喪失と戦った。

「なんだ…?なんかが浮き上がって来やがる…奥の方から…!」

「十六夜!」蒼は叫んだ。「碧黎様!十六夜が!」

碧黎には、その名を呼ぶだけでどこに居ても繋がる。蒼は倒れた十六夜を抱き留め、瞬間的に現れた碧黎と共に寝台へ運んだ。


十六夜は、夢を見た。長い長い夢だった。

自分は、月で一人だった。それが、ツクヨミが現れ、それに繋がって、維月という自分にとってかけがえのない命が誕生した。

そして、必死に守って生きて来た。亡くした時には身を切られるかのようにつらかった…自分も死ねるなら死んで、後を追おうと思った。

だが、維月は維心によって黄泉から帰って来た。月の命をその身に宿して…。

その後、どれほどに愛し合っただろう。維心が割り込んで来ても、それは変わらなかった。愛していた。維月も愛してくれていた。だからこそ、共に逝くことを選び、そして維心を迎えに来て、共に黄泉で暮らしていた…。

碧黎が訪ねて来て、転生することになった時、自分達はこの記憶を無くさずにおくことを模索した。そして、その記憶を守るために自らそれを封じ、その封が解けるのは、維心の指輪を見た時だと定めた…。


十六夜は、飛び起きた。そこは月の宮の自分の部屋で、蒼と碧黎が顔を覗き込んでいる。十六夜は回りを見回した…ここは、前の維月とオレの部屋。蒼は、転生しても、この部屋をオレ達の部屋として使わせてくれていたのだ。

「十六夜?」蒼が言った。「大丈夫か?急に倒れて、びっくりしたぞ…気は乱れてないな。」

十六夜は、まじまじと蒼を見た。何も変わらねぇ。転生してからの記憶では、毎日この顔を見ていたのに、なぜかとても懐かしい気がした。

「心配掛けたな、蒼。」十六夜は言った。「もう大丈夫だ。ところで、オレは龍の宮へ行く。」

蒼はびっくりして言った。

「おい、維月はもうあっちの妃なんだ。何を言おうと返してもらう訳には行かないぞ。」

十六夜は首を振った。

「そうじゃねぇ。話したいことがあるんだ。」と碧黎を見た。「…親父。オレ達はやり切ったぞ。今頃、あいつらもそうだろう。」

碧黎はじっと十六夜を見ていたが、頷いた。

「そうか。してやられたの。」

十六夜はニッと笑うと寝台から降りた。

「じゃあな。すぐ戻るよ。」

十六夜は窓から空へと飛び立って行った。蒼は碧黎に言った。

「なんのことです?何をしてやられたのですか。」

碧黎はため息を付いた。

「記憶が戻ったのよ。」碧黎は言った。「前世のな。」


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