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その八「藤原不比等レンジャイ」

 私の主人である藤原不比等様は、実にいい人だ。

 政治家っていうとたいていは脂ぎったいかにも利権屋、みたいなものを想像しがちだが、うちのご主人はまるで違う。あの藤原鎌足の息子だというのに、一時期はおうちが没落しかかり貧乏生活をなさっていたという。そのせいだろうか、下々のものに大変優しい。その上政治家としての手腕も格段なのだから、もはや言うことはない。これまで何十年も不比等様のもとで働かせてもらっているが、全く何の不満もないのである。

 ただ、うちの不比等様には変な癖がある。


「はー、つまらんなー」

 部屋の中で様々な竹簡に目を通してああでもないこうでもないと言いながら、我らが不比等様はため息をついた。こういうとき、不比等様は八十パーセントくらいの確率で肩を揉んでほしいと考えている。なので私は不比等様の肩を揉みにかかった。しかし、不比等様は「よい」と言って、私の手を止めさせた。

 こういうとき、わたしはいつも「しまった」と思うのである。

 残り二十パーセント。この時の不比等様は本当に恐ろしいのである。

 はたして、不比等様はおもむろに口を開いた。

「ところでさ、わし、もうこんな仕事を辞めたいんだけど。面白くないし、だれにも感謝されないし。はーあ、早く引退できねえかなあ」

「ちょっと待ってください。不比等様がいなくなったらこの国の政治は」

「んなもんどうでもいいじゃない、ってか、みんなどうしてわしにばっかり負担を負わせようとするわけ? それにわし、本当はやりたいことがあるんだからね」

 始まってしまった。

 そう。アレだ。不比等様の、若いころの夢の話だ。

「わし、本当はハイパーメディアクリエイターになりたかったんだよ」

 実は、本当は、の後に続く職業はいつも不定である。クルム伊達ががんばっている時分には「テニス選手」が入るし、R-1の時期には「ピン芸人」が入る。はたまた直木賞の発表の時には「小説家」とか言い出すのである。きっと、ご主人はテレビで某ハイパーメディアクリエイターの(正確にはその別居中の奥さんの)活動をなんとなく視聴したのだろう。

「あのう不比等様。ちょっとよろしいでしょうか」

「なんだ」

「そもそも、なんで不比等様は政治家になんてなられたんですか」

「親孝行だよ」

 不比等様のお父様はあの藤原鎌足だ。もっとも不比等様は鎌足の地盤を継ぐことができず、結局は自分で地盤固めをしたのである。でも、政治家だった自分の親に対する思いが多少あったんだろう。

「で、最初は何になりたかったんですか」

「最初?」

「そりゃあるでしょう、なりたかったものが」

「あー、そうだな。しいて言えば」

「言えば?」

「戦隊ヒーロー!」

「え?」

 そうやって面食らう私を尻目に、不比等様は指をぱっちんと鳴らした。すると、部屋の中に大の男が四人なだれ込んできた。四人はそれぞれ、黒、白、緑、青の全身タイツをはいている。

 しかし、どう見てもこれは……。

「何をしてらっしゃるのですか、武智麻呂さま、房前さま、宇合さま、麻呂さま! 藤原のこれからを支えるお方々が何をコスプレなんかやってるんですか!」

 すると、黒い全身タイツに身を包んだ武智麻呂さま(長年の経験で体型を見ただけで誰かわかるのだ)はくつくつと笑った。

「私は武智麻呂ではない、ブラックだ!」

「同じく、グリーン!」

「ブルー!」

「ホワイト!(裏声)」

 だめだ、こいつらもうだめだ。

 不比等様のお子様たちにしてこれからの藤原氏繁栄のカギ、四兄弟がこんなにも残念では。

 そしてさらに、不比等様がそんな私の絶望にとどめを刺した。

「そして、わしはレッドだ!」

「いやなんでもいいですけど」

 気づけば、不比等様+四兄弟がエグザイル回転を私に向けてやっている。小憎らしいくらいにぴったりとはまっているのがなんかむかつく。

 ああ……、私はため息をついた。

 こんな奴らが今、この国の政治を支えているのか……。

 エグザイル回転をしながら腕を回す五人を見やりながら、私はため息をついた。


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