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その十五、「文化人シスターズの内紛」

 帝都に冷たい風が吹き抜ける。ひどく沈鬱な闇に乗じ、盗賊の類がひしめく。

 この日もそうだった。家々に火をつけ火事場泥棒を行なう盗賊団・赤犬は、闇から闇に飛び移るようにして駆けていく。遠くで追手の声が聞こえる。

「捕まるか。馬鹿が!」

 盗賊の世界では飛びっくらの赤犬とあだ名される男だ。そう簡単に捕まるはずもない。

 と--。

「待ちなさい赤犬」

 女の伸びやかな声が赤犬の頭の上から降ってきた。

 赤犬が顔を上げると、屋根の上に立つ人影を一つ認めた。

 重そうな十二単を翻し、見下すように赤犬を見やる若い女――。

「誰だお前は!」

 すると、女は声を上げた。

「わたしは紫式部!」

 や、やべえ!

 その名を聞いた途端、刀の柄を握っているはずの赤犬は逃げの手を打った。紫式部の名前、逃げたとしても何の恥にもならない。

 だが、紫式部のほうが早かった。

 胸の前で印を結び、気力を集中させていく。式部の周りに青いオーラが渦を巻き始める。その渦がやがてぐるぐるととぐろを巻き始めたあたりで、式部は最後の印を結んだ。

「来来! “六条御息所”!」

 と、赤犬の前に立ちはだかるかのように、青いオーラをまとった女が現れた。美人だが、その表情には一抹の魔が見え隠れしている。思わず赤犬は足を止めた。が、考え直し、腰の刀を引き抜いて目の前に現れた青い女に向かって斬りつけた。

 手ごたえあり。

 しかし、赤犬の刀は青い女の首元に当たったものの、一ミリたりともめり込まなかった。

 噂通り……!

「この奇術使いが!」

「奇術ではないわ。これがわたしの能力。わたしが想像した人間を具現化させる能力、名を『記述者の憂鬱』!」

 そして。式部は続けた。

「六条御息所はね、相手を呪う、っていうチート設定なのよ!」

「えー!」

 赤犬の目の前にいる青い女の表情がみるみるうちに変わっていく。さっきまでは氷のようでありながら目の覚めるような美人だったものが、やがて口が裂け始め、牙が伸び、髪を振り乱し、さながら狐のような顔貌に変わっていった。そうして人の形を失った青い女が、その牙を突き立てんと迫ってきた。

 が。

 そんな赤犬の絶体絶命の危機を、闇夜に響いた一閃が救った。

「春はあけぼの!」

 それは、言葉の形をした固形物だった。人の大きさほどもある大文字が飛んできて、青い女に飛んできたのだ。青い女は昏倒し、やがて氷が解けるように青いオーラごと消えた。

 ちっ。

 式部が鼻を鳴らした。

「邪魔する気?」

 式部はその大文字が飛んできた方に向いた。五重塔ほどもある背の高い木が立っていて、その上の方の枝に、やはり十二単姿の女の影があった。厚化粧で隠しているが、式部よりもはるかに年上。髪の毛のつやの衰えは隠しようがない。

 すると、木の上に立つ女は眉をしかめた。

「ええ。あなたのやり口が気に食わないのよ」

「へえ、ロートルの“文化人シスターズ”がしゃしゃってこないでよ」

「あなたは“文化人シスターズ”の恥よ。正義の味方たる者、常に素手ゴロ! 自分の意になる何かを使役するなんて、いかにも悪役の手口じゃないの」

「そんなの古いわよ。某ロボットアニメのファンネルはどうするのよ」

「あのロボットだって最後は肉弾戦だったでしょうが!」

「わたしはエルメスを目指してるのよ」

「だったら額を貫かれて死ぬがいいわ」

「なんですって」

「わたしとやるっての? この清少納言と?」木の上の女、清少納言は鼻で笑った。「わたしの能力、知ってるわよね? わたしの能力、それは、自分の言葉を固形化して敵に投げつける能力、『戦女神の頭上注意』よ」

「そんな子供だましにわたしの『記述者の憂鬱』が負けるはずはないわ。――来来、“末摘花”!」

「フン、やろうっての? 『かたはらいたきもの』!」

 式部と清少納言の大技が激突した。盗賊・赤犬なんてそっちのけにして。


 言いそびれたことがある。

 平安時代の京は、極めて治安の悪い都市である。というわけで、治安の回復が急務とされていた。本当は検非違使などの治安組織があったのだけれども今一つ活躍出来ていなかった。

 というわけで、ここに特殊部隊“文化人シスターズ”が誕生したのであった。

 しかし、隊長の清少納言と隊員の紫式部の中が悪いので、逆に治安の悪化が叫ばれて困っている。

 ということで。

 次回から、恋する乙女、和泉式部のエンジェリックボイス、始まるよ★


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