第六話
「お兄ちゃん?」
未来に聞き返す。
「はい、でも兄は一年前に…」
そこで黙ってしまうが、言わなくてもわかる。おそらく亡くなったのだろう。
だが一年前に亡くなったのなら今目の前にいる男は一体…
「お兄ちゃん、どうしてここにいるの?どうしてこんなことをするの?」
未来が必死に訴えるが、男は応えない。
どうするか、そう考えていると突然相手の男が攻撃を仕掛けてくる。
-【火】魔法-
Flame Arrow
炎の矢がすさまじい勢いで向かってくる。
「…っ!」
-【空】魔法-
Mirror Force
俺のもつ魔法で、唯一にして絶対の防御魔法。指定した円の天地すべてを防ぐ魔法、向かってくる攻撃に対して反対側から全く同じ威力の攻撃を行い相殺する。
魔法破壊を使わなかったのはみんながいるからだ。突然みんなに攻撃された時のために、ずっと展開しておける防御魔法の方がいい。
「さてと、あんたは何者なんだ?」
炎の矢を防ぎ、尋ねてみる。
「……」
やはり相手の男は応えない。
「お兄ちゃんっ、何か言ってよ!」
未来がもう一度言う。
その時、男が突然苦しみ出した。
「お兄ちゃん!?」
未来が駆け出そうとするが、
「待て!まだ結界から出るな」
俺はすぐにそれを制した。何が起こるかわからないからだ。
「でも…」
未来は何か言いたそうだったが、とりあえずは納得してくれる。
未来の問いかけに反応したってことは、あの人は未来の兄と考えて間違いないだろう。だが普通の状態ではなさそうだ。
男は再び黙り込み、右手に魔力を集め始める。集まった魔力は形を変え、槍に変化する。
魔力の具現化か、魔力量が少ないときから使えるため、最初はみんなが使う魔法だ。だからといって弱いということはなく、第一学園や大人で使っている人もたくさんいる。
-【空】魔法-
Magic Destruction
とはいっても、俺が相手になるとそれは無駄だ。
男が持っていた魔法の槍は一瞬で砕け散った。
相変わらず無表情だったが、少しだけ驚いた表情を見せた。
「何度槍を作っても無駄だよ」
俺はそう告げる。
「もう一度聞く、あんたは何者なんだ?未来の兄なのか?」
そしてもう一度尋ねてみる。
男にもう戦う意思はないと勝手に思い込んだことが、俺の失敗だった。
-【火】魔法-
Flame Laser
「…っ!」
さっきの攻撃とは比べ物にならない威力とスピードで俺に攻撃がくる。
俺は身体強化を使いなんとかかわすが、とっさに行ったため左足に直撃してしまう。しばらくは使い物にならないだろう。
そんなことを考えるが、攻撃はまだ終わらない。
-【火】魔法-
Burst
指定した場所を爆発させるだけの簡単な魔法で範囲もそれほど広くないが、今の俺じゃかわすことも難しい。発動したときには爆発しているため、魔法破壊も無理だ。
相手の男は連続で攻撃を仕掛け続ける。
仕方ないか…
-【空】魔法-
Crush Space
空間を圧迫する魔法、地面に地割れができるほどの力で圧迫する。
相手の男は倒れこんだが、意識を失うことはなく、なお抗おうとしている。
「未来、頼む」
俺は未来を呼び、語りかけるように頼む。正気に戻る可能性があるのはもうそれだけだろう。
未来は兄に近づき語る、
「お兄ちゃん、私ね…最初にお兄ちゃんが死んだって言われたとき、信じられなかったの。
死んだお兄ちゃんの顔も見てないのに、死んだって言われただけだから。でも、それからお兄ちゃんは家に帰ってこなくて、本当に死んじゃったんだって思った。
それからしばらくは、何も考えられなかった。でもなんとか立ち直って、お兄ちゃんが見てきた景色を見ようとしてこの学園に入学したんだ。
そこで今日、お兄ちゃんに会えた。なのに何も話せないなんて嫌、だからお願い、元に戻って。」
未来の必死の言葉だった。
男を見てみると涙を流しながら苦しんでいる。俺の魔法はもう必要無さそうだな。
そう考え魔法を解除する。
「…未来、ありがとう。でも俺はもうダメだ。
一年前、俺は奴らに改造されたんだ。」
未来の兄から語られたのは驚くことばかりだった