第五話(襲撃者)
──それは突然だった。
兄が亡くなったと伝えられたのは一年前だ。
私はしばらくその事実を受け入れることが出来なかった。なぜなら兄の死体を見ていないからだ。
死んだという言葉だけで信じることが出来るだろうか?…少なくとも私はできない。
けれど、それから兄を見ることはなかった──
──そう、今日までは
「また…夢」
最近よく視る兄の夢。嬉しいはずなのにどうしてだろう…胸騒ぎがした。
「襲撃者?」
優奈が言った言葉に聞き返してしまう。
「そう、最近頻繁に出るらしいわよ。夜に魔法の特訓をする生徒は少なくないでしょ、その時に狙われるらしいわ。」
そう言って補足をしてくれる。
「あ、それ私も聞いたことあります。何人か被害者も出てるんですよね?」
未来も話題に入ってくる。そうなのか、俺達も特訓することはある(俺はほとんど見学だ)から少し注意しておいたほうがいいな。
「それに被害にあった生徒は皆さん【火】の属性を持つと聞いたことがございます。」
めずらしく雫も話題に入ってくる。(ちなみに今日は蒼空は欠席だ)
その言葉を聞き、俺は未来の方を見る。
「未来も気をつけろよ。」
そう言うと、未来は大丈夫と笑いながら言う。
ちょっと心配だが、どうしようもないか…
その夜、いつも通り優奈達が魔法の特訓に行こうとするが、俺は止めようとする。
「今日は俺も行けないんだから特訓はやめといたらどうだ?襲撃者のことも気になるし。」
蒼空が熱を出してしまい、俺がその看病をするため今日は女子組だけでの特訓となったが、妙に嫌な予感がする。そのため念のためということで言ってみたが、
「大丈夫ですよ。みんなで行きますし、雫さんもいるんですから。」
未来が心配ないとでもいうように言う。確かに雫の魔力量はすごいが雫はまだ戦い方を知らないから、やはり不安になる。
「それに最悪逃げればいいことだしね。」
優奈が簡単そうに言うが、実際に襲撃者の実力を知らないのにその考え方は危険すぎる。
「わかったよ。でも何かあったら絶対に逃げろよ、間違っても戦おうとか考えちゃダメだ」
一応承知はするが、注意だけはしておく。優奈と未来が行った後、俺は雫に伝える。
「雫も戦おうとはせずに二人を守ることだけを考えてくれ。あの二人を守れるのは雫だけだ。何かあったらすぐに電話をしてくれればいい、すぐに行くから。」
そう言うと雫は頼もしい顔で言ってくれる。
「任せてください、守るのは得意でございますから。」
俺はありがとうと伝えると、優しく頭をなでる。雫は顔を赤くしながら足早に行ってしまった。
三人が出て行ってから十分後、俺は蒼空のためにお粥を作っていた。
料理は昔からしていたため、粥ぐらいなら簡単に作れる。完成した粥を蒼空が寝ている部屋に持っていくと、蒼空はまだ眠っていた。悪いと思いながら、蒼空を起こして伝える。
「食欲はあまりないと思うけど、何か食べておこう。一応お粥を作ってきたけど食べれるか?」
蒼空は申し訳なさそうに言う。
「…ごめんね、迷惑掛けた上にお粥まで作ってもらっちゃって。」
俺は全然気にしなかったため、
「気にすんなって、友達だろ?それにお粥なんか簡単に作れるからな。」
そう言うと蒼空は少し泣きそうになりながらお礼を言ってくれる。
その後蒼空にお粥を食べさせて、もう一度寝かせてから部屋を出た。
それから食器を洗い、適当に時間をつぶしていると異変に気づいた。
「…遅い」
そう、いつもはもう終わっているはずの時間だがもう二十分ほど過ぎている。こんな時にいつもより長く特訓するというのも考えにくい。
考えれば考えるほど嫌な予感がするため、空間把握の魔法を発動する。
空間把握の魔法の範囲はかなり広範囲だ。魔力の消費量がかなり少ないため、この学園全体ぐらいなら容易く把握できる。
そうしてみんなの場所を確認すると同時に、
「…っ、やっぱりか!」
一人だけ別の存在を確認した。
その存在は優奈達にかなりの攻撃をしていたが、雫の魔法がそれを防いでいる。
-【光】魔法-
Lightness Circle
円の中にいる者を守る魔法、だが雫も限界が近そうだ。
そう考えた俺は靴を履くと即座に魔法を発動する。
-【空】魔法-
Movement
その瞬間、俺は部屋の中から消える。
「…っ」
どうすれば…、そんな考えばかりが頭の中に浮かんでくる。
魔力量もそろそろ限界に近い。
だが相手の黒いコートを着た男はそんなことはお構いなしに攻撃してくる。顔はよく見えないが、この男が噂されていた襲撃者と考えて間違いないだろう。
そしてこの男の属性は【火】だ。同じ属性の者を狙っているのだとすると、今一番危険なのは未来さんということになる。
零さんに頼まれたということは関係なしに、私は未来さんと優奈さんを守りたい。二人は…私の友達だから!
──パリンッ
私の考えとは逆に結界はもう限界が近い。
…その時だった、私達にとって最も頼りになる友達が現れたのは。
俺がグラウンドに着くと、雫の魔法はもう決壊しかけていた。
よく耐えた…そう思うと同時に俺は駆け出す。身体強化、属性は関係なしに魔法を使える者なら誰もが使える力だ。
基本的に魔具と身体強化を併用して使い、片をつける時に攻撃魔法を使うのが魔法での戦い方の基本だ。
俺は身体強化を使い、常人では考えられないスピードで駆けている。
襲撃者がこちらに気づくがもう遅い、俺は勢いを殺さないまま襲撃者を殴った。
その時コートが破れ、襲撃者の顔が見える。
未来が驚いたのも、その時だった。
「嘘…なんで、…お兄ちゃん!?」