第十九話〜別れ〜
いきなりの急展開ですが、そこはご愛嬌って事で目を瞑ってください。
清則一行は新たに堀尾茂助を配下に加えて稲葉山を後にし、陣所に帰還した。
そして藤吉郎はありのままを信長に報告した、富田勢源に清則が敗北した事・斎藤龍興が稲葉山城を捨てて逃亡した事の二つを、仔細ありのまま報告した。
「猿、ご苦労であった・・・下がってよいぞ」
信長がその報告を知っていたと言わんばかりの表情をして呟いた。
「はっ・・・これより稲葉山総攻撃にかかります」
藤吉郎が疲れを見せないように立ち上がって陣所を後にした。
今、陣所には須藤清則と織田信長の二人だけであった。
どちらも口を開かず黙したまま一言も語らなかった。
「清則・・・よくぞ生きて戻った」
最初に言葉を発したのは信長であった、そしてそのまま立ち上がると清則の前に腰をすえた。
「大殿・・・面目次第もございません・・・」
清則が深々と頭を下げて詫びた、詫びる相手は信長と織田家そのものであった。
「清則、クヨクヨするでない・・・『敗北を知らない者に勝利は無い』と言う、そもそも戦いの勝敗は兵家の常じゃ」
信長がポンポンと清則の肩を叩いて励ました。名門今川家を滅ぼし、そして今斎藤家を滅ぼし天下に飛翔しようとする信長らしからぬ言葉であった。
「は、はぁ・・・」
清則がどこか腑に落ちない顔をして相槌を打った。
「ふむ・・・数ヶ月前まではただの足軽だった主が今や織田家一の猛将・・・数奇な運命とは思わないか?」
信長が腕を組んで昔を思い語り始めた。
確かにこの数ヶ月で清則の人生はがらりと変わった。
本多忠勝との一騎打ちで名を轟かし、三河衆と共に今川家を滅ぼし『織田家に須藤清則あり』とまで言われるほどにまで成長していた。
「そう言われるとそうですな・・・まことに数奇な運命でございますな」
清則が考え込むような顔をして呟いた。
この時代の足軽など斬られ・撃たれ・突かれ・踏み潰されて散り行く存在であった。
その足軽が今や織田家の重臣となっていたのだ。
「ワシは天下を取る以外にもう一つ夢がある・・・清則、お主がどこまで成長するか見届けてみたいのだ・・・」
信長が戦国大名としての夢と戦国武将としての夢を語った。
その目は我が子の成長を見届けたいと願う父親の目であった。
「わ、ワシがですか・・・?」
清則は呆気に取られてポカンと口を開けていた。
「うむ・・・お主とは一度でいいから戦場で思いっきり戦ってみたい」
信長が真面目な顔で清則の目を見つめて、己の望みを明らかにした。
「・・・」
主たる信長の率直な言葉に清則は困惑した。
「だが、今じゃ満足に戦えぬ・・・清則、今日限りで主を織田家家臣の任を解く」
信長が思い切ったことを口にした。斎藤家を滅ぼした後各地で戦わなければならないのに織田家一の猛将を解雇すると言ったのだ。
「え?・・・」
清則が愕然とした表情で返事をした。
「日本は広い・・・そして各地で名だたる大名どもがしのぎを削っておる、それを検分し、より強くなって戻ってまいれ!!」
信長はそう言い放つと立ち上がり稲葉山攻めの指揮を執る為に陣所を後にした。
清則はその足で藤吉郎に信長から伝えられたことをありのまま報告した。
「そうか・・・信長様がそのようなことを・・・いかにワシと言えども殿の命令には逆らえまい・・・清則、いままでご苦労であった」
藤吉郎は悲しそうな表情を浮かべて清則の肩を軽く叩いてすれ違うように立ち去った。
かくして主従関係は終わりを告げ、清則の新たな日々が始まろうとしていた・・・。