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第十八話〜四面楚歌の危機・後編〜

前の話は幕間ってことにしてくださいw


斎藤龍興、父は土岐氏の流れを組む猛将・斎藤義龍、そして祖父は戦国の梟雄にして信長の義父でもある・斎藤道三。


史実において彼の前半生は竹中半兵衛によって僅か十数名の兵で稲葉山城を奪われたり、安藤守就・稲葉一鉄・氏家ト全の西美濃三人衆に裏切られたりと散々な目にあってきた。


だが後半生は祖父・斎藤道三に見劣りしない程の知恵者ぶりを見せた、足利義昭を擁立して本願寺・浅井・朝倉・武田・毛利と言った強大な大名に対して反信長同盟を結成し日本を一個の戦場に見立てた戦略を立てた程であった。


「斎藤・・・龍興・・・」

茂助が思わず息を飲んだ、彼はかつて幼い頃に斎藤家の始祖・斎藤道三と面会したことがあった。


その時の威圧感、相手に畏怖の念を抱かさせる目付き・・・その全てが似ていた。


かつて酒色に溺れ『戦国の暗君』と言われていた男ではなかった。


「堀尾茂助・・・否、堀尾吉晴か」

龍興がまるで虫けらを見るかのように冷たい目で茂助をチラリと見て、すぐに顔を背けた。


後にその場に居合わせた小六はこう語る『信長公に初めてお会いしたとき、魔王と呼ばれる所以が分かった・・・されど龍興公には遥かに及ばなかった』と。


「龍興様、こやつ等の始末は私めが・・・」

富田が杖の柄に手を掛けてソレを一気に引き抜いた、杖は仕込み杖であったのだ。


「ふむ・・・興味が沸いた、そやつらは生かしておけ」

龍興が地面に蹲ってる清則をチラリと見て背を向けた。


「はっ?で、ですが・・・こやつ等を生かしたままでは計画が・・・」

富田がオロオロと龍興に進言した、だが龍興は振り返らなかった。


「良い、虫けらを幾つ踏み潰そうとも・・・天の高みには届きはしまい」

龍興がクックククと笑いながらそのまま歩きだした。


「・・・御意・・・清則、信長に伝えよ『我等は城を捨てる、拾うなり焼き払うなり好きにしろ』とな」

富田が複雑な顔をして吐き捨てるように呟いて立ち去った。


「はぁ・・・ったく・・・生きた心地がしなかったぜ・・・」

小六が二人が立ち去った後にその場に腰を抜かしたように座り込んだ。


「畜生・・・畜生・・・」

清則が両手で土を掴み、その拳で何度も地面を叩きつけた。


「清則殿・・・命が助かっただけ良かったではありませぬか」

茂助が肩を貸そうと清則に歩み寄ったが、清則は手を振り回してそれを拒絶した。


「何が戦国一じゃ・・・たかが老人1人に膝を突かされ土に塗れるとは・・・なんたる屈辱じゃああ!!」

清則が顔を上げ月に向かって咆哮した、その叫びはまさに孤狼が月に向かって吠えてるようなものであった。


「旦那・・・」

小六が思わず異様な光景に言葉を無くしていた。


「かくなる上はこの腹割いて死ぬまでじゃ!!」

清則が脇差を抜いて結い上げた髪を振りほどいて叫んだ。


「き、清則殿!!(だ、旦那!!)」

茂助と小六が慌てて清則の腕を押さえつけて脇差を取り上げようとした。


「えぇい!!放せ!!放せぃ!!」

清則がガアアアアと吠えて二人を振りほどこうとした、その時突如拳が清則の頬を打った。


「と、藤吉郎・・・」

小六が怒りの表情を浮かべて拳を握り締めてる藤吉郎を見上げた。


「藤吉郎様・・・・」

清則が頬を押さえて驚いた表情で藤吉郎を見た、生まれて初めて本気で殴られたのだ。


「こんのたわけ者が!!死んで何になる!!悔しかったらがむしゃらに生きて強くなりゃええじゃろ!!死ぬなんざな、ただの逃げじゃ!!お前は武士もののふじゃろうが!!戦わずして逃げるのがお前の生き様か!?」

藤吉郎が清則の襟首を掴んで一気にまくし立てた、その言葉に清則は涙を流して地面に蹲った・・・。


その頃、闇に包まれた山の中を疾走する二人の騎馬武者の姿があった。


斎藤龍興と富田勢源の二人であった・・・。


「勢源、腕の傷は痛むのか?」

龍興が馬を飛ばしながら後ろをピタリと離れずに疾走する勢源に話しかけた。


「はっ・・・」

勢源が血が流れる腕を抑えてながら呻くように呟いた、最初に清則に切り付けられた時に彼の太刀を捌ききれなかったのだ。


「それと、その杖は捨てろ・・・使い物にならん」

龍興が小枝を避けながらかすかに呟いた、その意図を汲み取れず勢源がスッと杖を抜いて触って調べて見ると、刀身に亀裂が入っていたのだ。


「最初に捌いた時・・・ですかね?」

勢源が杖をポイッと崖の下に向かって放り投げて聞いた。


「さぁ?だが・・・あの須藤清則とか言う男、もしかすると我が策を成就させる最大の障害やもしれぬな」

龍興が楽しそうに笑いながら言った、この男は幾つもの修羅場を潜り抜けてきた、故に既に精神に異常をきたしていた・・・。



四面楚歌の危機は去った、だが清則にとっての戦国疾走はこれから始まったばかりである。

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