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和也から絶交を言い渡されてからというもの
賢一はみんなが練習を終えて帰宅したあとも一人プールに残って練習していた。
コーチに叱られて
「このままじゃいけない」と思ったのもあるが、
何かを一生懸命やっていないと
どうにかなりそうだったからだ。
一人になると和也の顔がちらついて落ち着かなかった。
賢一にとって和也はかけがえのない存在だ。
勉強ができるからではない。
勉強なら先生に教えてもらえばいい。
けれど賢一は和也に教えてもらいたかった。
「全くお前はしょうがねえ」と文句を言いながらも
丁寧に教えてくれる和也が好きだったのだ。
他の友人にはない何かが和也にはあった。
もう二度と和也と仲直りができないのなら。
もう「親友」なんて持ちたくない。
どんなに優しい人でも
どんなに賢い人でも
和也にはなれない。
和也ほど愛せない。
そう思った。
もう既に二人は親友以上の関係なのかもしれない。
賢一が水面から顔を出すと
大きな青いビーチボールが
顔を直撃した。
「ぶっ……!」
「ケンちゃん偉いね〜。こんなおそくまで練習しちゃってー。」
また例の奴らだ。
「そんなにがむしゃらになってどうしちゃったのかな〜?和也キュンにふられちゃったのぉ?最近一緒にいないもんねー。」
「…………。」
当たらずとも遠からずである。
賢一の心は悲しみに沈んだ。
「きゃっ図星ぃ?」
彼らは賢一の腕を掴むとプールから引きずりだした。
「ちょっ……何するつもりなんだっ!?」
「こうするんだよ!」
彼らは賢一の手足を抑えつけると、
口、腕、脚をガムテープで拘束した。
「ケンちゃん、水泳部のエースなんだっけ?まあ、その格好じゃあオリンピック選手だって泳げないよな。はははっ」
「!?」
次の瞬間、彼らは手足が不自由になった賢一をプールに蹴落とした。
「ざまーみろ!はははははっ」
賢一の視界に青い世界が広がった。
彼らの笑い声が遠くなる。
(こんなふうに…和也も…)
浮かんできたら、沈め、
浮かんできたら、沈め、を
何十回、いや何百回されただろう。
「やべえ、このままじゃ死んじまうぜ。」
賢一が引き上げられた瞬間、
「ちょっとあなたたち!何やってんの!」
女子生徒の凛とした声が響いた。
「やべえっ」
奴らはそっこうで逃げていった。
賢一に女子生徒が駆け寄ってくる。
「斎藤君、大丈夫!?」
彼女は賢一の手足や口のガムテープを剥がし始めた。
賢一はだるそうに目を開けた。
最初は視界がぼやけてて誰かわからなかった。
しかし、だんだん目の前がはっきりしてくると…見慣れた顔であることがわかった。
ヘアピンで止めた長い髪。
小柄だが、しっかりした身体つき。
「内海さん…」
つづく。