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その日の放課後−
賢一は水泳部の練習に出るべく、
更衣室で水着に着替えていた。
賢一はインターハイで記録更新を期待されている
水泳部のエースだ。
真夏に比べればいくらかましだが、
練習はまだ続いている。
今日も気合いを入れて泳ぐぞ、と
賢一が意気込んだ
そのときだった。
数人の意地の悪そうな男子生徒がわらわらと更衣室に入ってきたのだ。
「ケンちゃあん〜。いい体してるね〜。さっすが水泳部のエース。」
「え?あ、あの…」
賢一にはわけがわからなかった。
なんなんだろう、この人たちは。
一人の男子生徒が賢一に擦り寄り、彼の首に腕をまわしてきた。
「!?」
彼は賢一の耳元に口をよせ、
「岡咲和也とできてんだろ?」
と嘲笑を含んだ声でささやいた。
賢一は泡を食った。
彼にとってはとんでもない疑いだ。
「なっ!和也とは親友だよ!」
慌てて首を振った。
すると男子生徒たちは馬鹿にしたように笑った。
「お前ら今朝、見つめ合って『面倒かけた』だの、『眠れなかった』だの言ってたろ?
眠れなくなるようなこと何かしたんだろ?はははっ」
こじつけも甚だしい。
だからなんだというのか。
「あれは…っ。和也に勉強教えてもらってただけだよ!…じゃあ、俺練習だから…」
賢一は彼らを振り切ると
逃げるようにプールへ向かった。
突然のことに、心臓が早鐘のようになっていた。
その後
「岡咲和也と斎藤賢一はできている」
という噂はあっという間に学校中に広まった。
今まで、賢一にいじめの矛先が向くことはほとんどなかったが、
今回はそうでなかった。
「昇降口であんなこと言うなんてダイターン〜」
「どっちがやる方なのぉ〜?ヒューヒュー」
意地悪な男子生徒たちが一日中賢一に付き纏い、彼にえげつない言葉を浴びせる。
賢一の友人たちも少しずつ彼を避けるようになってきた。
目も合わせることもためらうほど。
「知ってる?岡咲先輩と斎藤先輩って……」
一年の女子にまで噂が広がっていた。
もっとも、女子達は少し嬉しそうであったが…。
自分がこんな状況なのだから、和也はさぞ…
と、賢一は和也が心配になった。
最近、和也まで自分を避けだしてる。
数日後
賢一はいつもの連中が来る前にさっさと部室に行ってしまおうと
体育館への渡り廊下をこそこそと急いでいた。
あの日と同じ激しい雨の日だった。
ふと、外を見ると、傘をさして帰宅しようとしている和也がいる。
ここ数日和也と口を利いてない。
話すチャンスだと、賢一は思い、
「和也ー!」
と上履きのまま駆け出した。
和也は賢一に気がついて
振り返った
そのとき
「寄るな!!」
「!?…和也!?」
和也は賢一の胸に傘の先端を突き付けたのだ。
「今日から俺の半径5メートル以内に近づくな。」
無機質な声でそう言うと
和也は傘をさし
雨の中を帰っていった。
つづく