Last
その日を境に和也は変わっていった。
まず、以前のようなピリピリした感じがなくなった。
相変わらず、ひねくれてるし、素直じゃないし、頑固だが、
それは個性程度になっていた。
人を見下し、突き放すような高慢さも大分緩和され、
周りの見る目も変わっていった。
「おい、俺昨日ウサギ小屋のウサギにイチョウやったら、岡咲に飛び蹴りされたぜ。」
「そりゃあ、おめーがわりーよ。つうか、最近岡咲のやつ炸裂してきてねえ?まるで別人だ。今までお高くとまってるだけだったのに。」
また女子も…
「ねえねえ、さっきの数学の授業でね、岡咲君が先生のギャグに笑ってたのよ!今まで絶対笑うことはなかったのに!」
「本当に何があったのかしら。でも私今の岡咲君の方が好きだわ。話しかけやすいし。」
今まで賢一と二人だけのときにしか見せなかった面を
他人にも見せられるようになったのだ。
最初は皆とまどった。
しかし次第に生まれ変わった和也を受け入れ、
和也も周囲の人間とうち解けていった。
「最近大人びたわね。」
勿論彼方も感じていた。
「………吹っ切れたから。」
和也の彼方に対する態度も以前より穏やかになった。
「最近のお兄ちゃん、すっごく輝いてるっ!」
美月も和也の変化に気づいていた。
「美月…。」
和也は美月の細い肩に手を置いた。
単心室の患者の多くは乳児のうちに死んでしまう。
美月も無事育つかどうかと言われていたが、
そんな彼女も今年15歳を迎えた。
そんな妹に恥じないように、と
自分も強くなることを和也は誓った。
「お前の病気は絶対兄ちゃんが治してやるから。」
和也は妹の目線に合わせて言った。
「お兄ちゃん…。」
傍らにいる彼方はほほえましく思うと同時に切なくなった。
何が和也を変えたか知っていたからだ。
和也が急に大人びたのは
彼が誰かのために
何かを諦め、
乗り越え、
受け入れたからだと。
(父さん、和也がまた成長したよ。褒めてやって。)
彼方は心の中で亡き父に呼び掛けた。
「いってきます。」
きりりとした声で和也は言った。
「いってらっしゃい。」
彼方と美月は声を揃えて返した。
「お姉ちゃん。」
和也が出ていった後
美月が意味深に彼方に呼び掛けた。
「ん?」
「今のお兄ちゃんならきっと、本当に好きになってくれる人が現れるわ。」
実は美月は彼方より鋭い。
「ね…。」
彼方は窓から弟の姿を見送ると
さっとカーテンをしめ
防音室で作曲に取り掛かった。
…
和也がいつもの交差点に差し掛かると
いつものように「親友」が待っていた。
「おはよう、和也。」
賢一が和也に微笑みかける。
「賢一、おはよう。」
和也も微笑み返す。
こうしてまた一日が始まる。
「今日は彼女と帰ってやれよ。」
「え?」
「彼女寂しがるだろ。」
「ん……そ、そうだな……。ありがとう、和也。」
賢一は顔を赤らめた。
和也はそんな賢一の肩をポンと叩いた。
やせ我慢でも何でもなく本気の言葉だった。
そこにはもう、
以前の虚勢ばかり張る幼い和也はいなかった。
これからは賢一にふさわしい親友でありたい。
賢一を支え、彼を大切にして行きたい。
和也はそう思った。
同時に
消えることのない、強い想いを
一生引き連れて行くことを
誓いながら。
…Fin.†