16
すっかり日が暮れてしまった。
和也と賢一は砂浜に寝そべり、
星を眺めていた。
広い夜空や海を眺めていると
何故か大きな気持ちになれる。
「なあ、賢一。」
「ん?」
暗闇と静寂の中、二人の声だけが響いていた。
「内海とは上手くいってんのか?」
和也はあまり力の入ってない声で言った。
「ああ、彼女は優しいし、引っ張ってくれるし、料理も上手いんだ。
俺にはできすぎた彼女だよ!」
暗くて表情はわからない。
しかし、声からして嬉しそうだ。
和也は込み上げてくる何かをこらえた。
「そうか………。
今幸せか?」
「勿論。最高の彼女と親友がいて俺は幸せ者だよ。」
また賢一は嬉しそうに答えた。
和也は立ち上がって水平線を眺めた。
気持ちはまだ波のように揺れ動いていた。
そのとき
雲に隠れていた月が姿を現した。
白い光があたり一面に広がった。
和也は決心した。
乗り越えれば、きっと
この大海原に出ていける。
そう確信した。
「賢一。」
凛とした声で名前を呼ばれ、
賢一も体を起こした。
太陽の光に照らされた和也は
神々しいまでに美しかった。
しかし、月光の下に佇む彼は………
賢一はとっさに和也の腕を掴んでいた。
「ん?」
和也は冷静だった。
また賢一に触れられたところが熱くなったが、
以前のような狂おしい衝動は消えていた。
「い、いや、なんかお前が消えそうな気がして……。」
賢一は少し動揺していた。
和也は賢一に微笑みかけると
また海に視線を戻し、
大きく深呼吸をした。
「賢一、俺は……」
「和也?」
和也は自分の気持ちを、
どのような言葉で
どう表現すべきか
どう賢一に伝えるべきか
思いを巡らせていた。
残念ながら、文才や表現力はあまり豊かな方ではない。
賢一は和也の謎めいた態度に動揺を隠せない。
和也は向き直って賢一と目を合わせた。
「賢一、俺は……」
今の自分の想いを表現するのに、これ以上ふさわしい言葉はない。
「お前が特別なんだ。」
和也の透き通るような声が
賢一の耳に届いた。
「和也………」
「言いたいことはそれだけだ。」
和也はそう言うと、
何か大きな仕事を成し遂げたようにふっと息を吐いた。
賢一はしばらく、雷に打たれたようになっていた。
しかし、和也の言葉の意味が読めると
「俺もだよ。」
と和也に微笑みかけた。
「賢一……。」
同じ辱めを受け、
お互いを失いかけて
二人はさらに絆を深めることができたのかもしれない。
既に親友以上の関係なのだ。
「ああ、よかったー!」
賢一が突然和也をきつく抱きしめた。
「!?」
今度は和也が動揺した。
「俺お前に嫌われてんのかと思ってたよ!」
賢一は脱力したように言った。
「ばーか。俺がお前を嫌うわけないだろ。」
和也は賢一を抱きしめ返した。
わかっている。
これは友情。
だけど今だけは自分の腕の中に……。
そう思いながら。
次の瞬間、賢一は和也の手を掴んで
くるくる回りだした。
まるであの日のように。
「イエーイ!」
和也は焦った。
「お、おい!何やってんだよ!もう小学生じゃねえ!やめろよ!」
いつもの彼に戻っていた。
「いいじゃんか!」
最後のやりおさめなのか、
親子づれが花火を持ってやってきた。
「ねえ、パパ、あのお兄ちゃん達何やってんの?」
「ああ、夏も終わりだから、ちょっと興奮しすぎちゃったんだよ。」
周りの人間にはそう思えたのだろうが、
当の本人達は自分たちだけの世界に入り込み
お互い目が回って歩けなくなるくらいまで
はしゃぎ続けていた。
二人は大の仲良しなのだ。
(今もやっぱり、コイツが好きだ。)
和也は心の奥でそう思った。
しかし、以前に比べて優しい気持ちになっていた。
和也の中で大きな変化が起きていたのだ。