第九話「不幸男街に出るその二」
藤堂家から最寄り駅のとんぬら駅まで歩いた。そこで二駅目がさまるとりあだ。
「ねえ。電車ってどう乗るのですか?」
「小林さん電車乗ったことないのかよ」
「私基本、この町から出たことないから」
「どんな生活してるんだよ」
俊作は里奈に切符の買い方を教えてやることにした。
「ここにお金を入れてだな……ん」
「どうしたのよ?」
「あれ……恵梨切符を買うボタンが無いぞ」
「あのね。画面の中の数字を押すのよ」
「タッチパネルなのか。僕が前に乗った時には無かったぞ」
「いつの話してるのよ。もー。ここを押してこうするのよ」
結局、俊作は妹に切符を買ってもらっていた。俊作は最後に電車に乗ったのは十年以上前だった。
「藤堂君。切符買えましたよ」
「天使ちゃんはなんでそんなに時間がかかってるんだ」
「あたし、こぜにしかもってないの」
天使ちゃんは一生懸命十円玉を入れ続けていた。
(天使ちゃんはなんで小銭しか持っていないんだ。謎だ)
切符を買って自動改札を通ろうとすると、俊作がなぜか自動改札の扉に挟まれた。
「あだ」
「お兄、なんで改札に挟まれるのよ」
「知るかよ」
俊作は駅員さんに扉を開けてもらって通ろうとするが、なぜか扉は何度もしまってしまう。
「お客さん。すいませんが脇から出ていただけますか」
「はい……すいません」
「いちえんみつけたの」
天使ちゃんは天使ちゃんで小銭を拾い続けていた。
◇
自動改札を通り抜けて、俊作達はホームまで来た。俊作は久しぶりの電車に震えていた。
「大丈夫だよな。脱線とかしないよな」
「お兄縁起でもないこと言わないでよ」
「押すなよ。押すなよ。絶対に押すなよ」
「押さないわよ!」
『一番線に快速電車が通ります』
俊作達の目の前を電車がものすごい勢いで通りすぎていった。
「おい。通り過ぎたぞ。電車」
「さっきのは快速列車よ。もう黙ってて!」
「さまるとりあ」行の電車がホームに到着し、俊作達は乗り込んだ。運良く四人が乗れる席を見つけることができ、四人は一緒に座ることになった。電車内では俊作は恐怖でぷるぷる震えていた。
「あの。お友達顔色悪いですよ」
「え。えと大丈夫ですよ。さっきなんか拾い食いしたみたいで大丈夫ですから気にしないでください」
俊作は知らないおばさんに心配されていた。恵梨はひどいフォローをしたが、俊作はそれどころではなかった。
◇
十分ほど乗って、何とか「さまるとりあ駅」に到着した。俊作にとってはまた難関があった。さきほど通り抜けられなかった。自動改札だ。俊作は自動改札の前で腕を組んで考え込んだ。他の一般客は何事かとちらりと俊作をチラ見していた。
(また……挟まれるのか……挟まれるくらいならいっそのこと)
「とお!」
俊作はホームぎりぎりまで下がり、自動改札の前で思い切り踏み切って扉を飛びこえようとした。きれいな弧を描いて俊作は見事に自動改札を飛び越えた。
「やったぞ。恵梨。飛び越えたぞ」
「お客さん。飛び越えるのは禁止ですよ。ちょっと来なさい」
「お、おい。どこに連れていくんですか? え、恵梨……たすけてくれ~」
あたりまえだが、俊作は近くで見ていた駅員に連行された。
「はあ~。恵梨行ってきますね」
◇
三十分ほどして、駅員にこってりと絞られた俊作と恵梨が出てきた。恵梨は今日田舎から出てきた原始人だと説明して、何とか駅員に納得してもらった。初老の駅員は三十年、駅員をやってきたが、自動改札を飛び越えた人はあんたが初めてだと笑っていた。
「ああ。疲れた。一時はどうなるかと思ったよ」
「お兄のせいで恵梨も疲れたわよ」
「恵梨さんお疲れ様です。藤堂君あまりありえないことしないで……」
「ごえんみつけたの」
恵梨と里奈は呆れていた。天使ちゃんは相変わらず小銭を拾っていた。
◇
駅から出て、「ドリーム・シアターさまるとりあ」で映画を観ることになった。天使ちゃんたっての希望で「魔王VS勇者~仁義なき三本勝負~」「地球かけた将棋バトル太陽vs月」「愛しています。聖徳太子」の中で「魔王VS勇者~仁義なき三本勝負~」観ることになった。
天使ちゃんは俊作と手を繋がないといけないので、隣に座るので恵梨は里奈とどちらが俊作の隣に座るかで揉めていた。
「あっちむいてホイで勝負よ」
「私負けませんから」
「「じゃんーけんーほい」」
「「ほい」」
「「ほい」」
「「ほい」」
「あっちむいてほい」
「「じゃんーけんーほい」」
「「ほい」」
「あっちむいてほい」
「「じゃんーけんーほい」」
「「ほい」」
「あっちむいてほい」
一向に勝負がつかない。呆れて俊作は天使ちゃんを連れて中に入った。
「天使ちゃん。馬鹿は放っておいて先に座ろう」
「はいなの」
結局、離れて俊作と天使ちゃん、恵梨と里奈の二人ずつ座ることになった。開始十分した所で、俊作は昨日テンションが上がりすぎて寝られなかったので、気持よさそうによだれを垂らしながら熟睡していた。
◇
「まさかあそこであんなに綱を引っ張るとは思わなかったわ」
「それよりもあんなに魔王が、食べるとは思いませんでしたよ」
「じゅうえんひろったの」
「……」
みんな一名を除いて口々に映画の感想を言っていたが、俊作は映画の殆どを寝ていたので内容は全く分からなかった。冒頭の勇者の村に魔王軍団が攻めてきて、勇者が隠し部屋に隠された所までしか見ていなかった。
「お兄はどこがよかった?」
「えーとだな」
「うん。うん」
(分からないから適当に言ってしまえ)
「魔王がもちを喉につまらせて死んだ所……かな?」
「恵梨もそこが一番よかったよ」
「あったの!?」
いったいどんな映画だったのだろうか……。