第七話「天使ちゃん捕獲作戦その三」
次の日の放課後。俊作と里奈は学校裏の一本桜の前で乙女の気持ちで待っていた。今は夏なので桜は咲いてはいないが、ここは学校で告白のベストポイントとして有名な場所だ。
「来ないね」
「来ると思いますか、あれで」
と思ったら来た。天使ちゃんだ。茶色のツインテールをふわふわと揺らした小さな女の子がこちらへとやってきた。周りにはガードナーはいないようで一人のようだった。
「おい。来たぞ」
「まさか……そんな。あんな手紙で」
天使ちゃんはこちらまで来ると、俊作を見上げて立ち止まった。近くで見ると、余程小さく感じられる。本当に高校生なのだろうか。
「おてがみのひと?」
「そうだ」
「ん……」
「なんだ」
天使ちゃんは小さな手をこちらに向けて黙っている。いったい何のサインなのだろうか。
「ん……」
「どうした?」
「……こぜにほしいの。ちょうだいなの」
どうやら小銭が欲しいようだ。僕は財布から小銭を取り出して、天使ちゃんの小さな手のひらの載せてあげた。天使ちゃんは小銭を抱きしめるように抱えて頬ずりをして、大喜びをしていた。
「こぜになの。ありがとうなの」
「僕からもいいか」
「こぜにくれるひとにわるいひとはいないの。どうぞなの」
俊作は小銭のおかげで天使ちゃんのハートを掴んだようだ。何とも安い女の子だった。
「頭をもふもふさせてくれ! この通りだ。頼む!」
「変態……発見しました」
ここに一人の変態が誕生した瞬間を目撃した里奈は、じっとりとした目で俊作を見つめて、三メートル程距離を取った。
「うるせえ!」
「いいの。どうぞなの」
俊作は天使ちゃんのツインテールをもふもふする権利を獲得した。緊張のあまり俊作はごくりとつばを飲み込んだ。
(よし……いくぞ)
「変態……ぼそ」
里奈のつぶやきを無視して、俊作は天使ちゃんのツインテールをもふもふした。天使ちゃんの髪の毛はまるで上質な絹のような手ざわりで気持ちが良かった。
「ん……気持ちいいの」
髪の毛を触られている天使ちゃんは気持ちよさそうに至福の顔をしていた。まるで子猫のようだ。この瞬間俊作はあることを決心した。
「お願いだ。もっと小銭あげるから友達になってください」
「よろこんでなの」
「いよっしゃああああ。これでなでなでし放題だー!!」
俊作は今までしたことのないガッツポーズをした。
「それは何か違うような気が……」
「あたしこれからないしょくがあるの。だからかえるの」
「ああ。またあしたな」
俊作は天使ちゃんを手を振って見送った。ペンギンのようによたよたと歩く天使ちゃんはとっても可愛らしかった。
「やったぞ。小林さんあのもふもふ加減はお金を払う価値がある」
「それも何か違うと思う」
里奈は俊作の醜態を見て、腕組みをしてため息をついていた。
「これで僕は幸福だああああ」
俊作は一本桜の下を周りながら小躍りした。どんどはれ。
◇
天使ちゃんと友達になって数日経ったが、相変わらず俊作には不幸が舞い込んでいた。
(もっともふもふしなければいけなかったのかな……明日にでも天使ちゃんと会わないとな)
そんなことを考えている俊作の元に妹の恵梨が何か細長い小包のようなものを持ってきた。
「お兄何か来てるよ」
「僕にか」
「うん……何だろうね」
開けてみると筒状に巻かれているポスターのようなものと小さな紙が入っていた。
「なんだろう」
小さな紙を見るとこのように書かれてあった。
『厳選の抽選の結果、ペンギンの一生カレンダーが当たりました。おめでとうございます』
「この程度かよ! ふざけるな!」
思わずカレンダーを放り投げた。どうやら天使ちゃんのご利益はその程度のようだった。
「いらないなら、恵梨にちょうだい」
「勝手にしてくれ」
「わーい」
俊作は質の悪い詐欺にあったような気持ちだった。今すぐにでもジャロに電話をかけたかった。
「もう寝よう……泣けてきた」
「ねえ。お兄これどこに飾ったらいいと思う?」
「僕が知るか……ぐすぐす」
俊作は泣きながら走って、階段を駆け上がった。
「あ……ああああああああ!」
俊作はたまたま階段に置いてあったバナナの皮を踏んでしまって、階段落ちしてしまった。
「お……お兄、大……丈夫、ぷぷ」
「恵梨、それ以上何も言うな」
「バナナの皮で本当に滑った人、始めた見た、あはははは、動画に撮って置けば良かった。ははははは、ははははは、あはははは、ああ。苦しい」
「もう……どうにでもしてくれ」
恵梨が腹を抱えて笑っている姿を見て、俊作は真っ白になった。できるならこのまま消えてしまいたいと俊作は心から思った。