第六話「天使ちゃん捕獲作戦その二」
次の日、俊作と里奈は天使ちゃんのいる教室に直接突入することにした。俊作は一年Z組に天使ちゃんがいるという情報をある筋から掴んでいた。
「小林さん、この先は天使ちゃんの住処です。僕から離れないでくださいね」
「うん……」
俊作はこの先、何が出てくるのか分からないので異常に緊張して、一年Z組のドアを開いた。開いた先には十人程の男子生徒がドアの前に立っていた。
「む。なんだ。君たちは」
「ここから先に進みたければ、我らを倒したまえ」
そう言って彼は一様にファイティングポーズを取った。その向こう側では天使ちゃんが可愛らしく小銭を数えている姿が見える。
「望む所だ……先手必勝おおおおおお! 回し蹴りいいいいいうりりりりりいいいい!」
俊作は台詞を言い終わる前に相手の隙をついて先制攻撃を食らわせた。いつぞやの不良たちに比べれば赤子同然だった。2分後には俊作以外には誰も立ってはいなかった。
「藤堂君、後ろ!」
「くそ。バックアタックか」
いつの間にかに廊下中に四、五十人数の男子生徒が集まってきていた。ガタイのいい空手部のようなやつから忍者のようなものまでいた。
(まさか、こいつらみんなガードナーか)
「小林さん。いつものミサイルを頼む」
「そんなのないです」
「しからばてりいいいいいやあああああ!」
俊作は蹴って蹴って次々と倒した。ばたばと人が一人ずつ倒れ、地獄絵図のようだった。
「たあああああ!」
「とおおおおおおお!」
「ふおおおおお!」
「ぬおおおおお!」
◇
五分後。
「ふう、ふう、さすがにしんどいです」
「藤堂くん。あなたすごいね……」
「いつのもの不幸に比べればなんでもないですよ」
俊作はあれほどの人数を一人残らず倒した。その姿を見て、里奈はかなり引いていたが、俊作は自分に酔っていて気づいていなかった。
そして、ついに教室の中へ侵入した。そこに何人かの女子生徒が地面に這いつくばって何かをしていた。
「動かないで!」
「なぜですか」
「なぜなら……私コンタクト落としたのよ。探してちょうだい。踏んだら弁償してもらうわよ」
「仕方が無いな。探します」
「私も探します」
女子生徒のあまりの気迫に負けて、俊作と里奈はコンタクトを探すことにした。先ほど倒した男子生徒をどかしながらの作業だったので、思ったよりも手間取った。
一時間程、探した所で急にその女子生徒が顔面蒼白で立ち上がった。
「あ……」
「どうした?」
「ごめん。今日メガネだった」
「ふざけるなああああ。てりいいいやああああああ!」
「痛あああああ。何すんのよ」
俊作は怒り狂ったが、女子生徒であったのでデコピンで勘弁してやった。
「それよりも天使ちゃんはどこだ?」
「もういないわ」
「ちくしょうおおお!」
俊作は腹いせに気絶している男子生徒を一人ずつ、平手打ちを食らわして回った。
◇
次の日。
「直接挑むからだめなんだ。手紙を出そう」
「手紙なんて書けるの?」
「僕はカンケンジュン二級(※誤字ではありません)だぞ。舐めないでください」
「関係ないと思うけど」
「いいから。とにかく書くぞ」
俊作は自分の教室に戻ると、ロッカーから習字の道具を持ってきて、墨をするところから始めだした。
「そこから始めるんだ……」
「当たりまえです。気持ちを込めて書かないと相手に伝わりませんから」
墨をすり終わると、一時間ほど墨に気持ちを込めるために座禅を組んだ。
「ねえ。これっていつ終わるのかな……」
◇
「よし。書きます」
「やっとですか。はあ」
俊作は筆に墨をいっぱいつけるとダイナミックに紙に書いた。男らしい字で書いたので、手紙というよりは果たし状のようだった。
「果たし状みたいですね」
「そんなことはない。この手紙を見れば、感涙咽び泣き、私この方と友達になりたいわ。セバスチャン、連れてきなさいとなるはずだ。確認してみてください」
俊作はできあがったばかりの手紙を里奈に渡した。
『親愛なる天使ちゃん。拝啓、如何がお過ごしでしょうか。僕は元気です。ぶっちゃけ言いますと、明日の放課後、学校裏の一本桜にてお待ちしております。来なければ、あなたに不幸が訪れるでしょう。悪いことは言いません。来たほうがいいでしょう。このことを警察や親や知人に言ってはいけません。それと来るときには必ず一人で来ること。約束を破ったならばあなたの妹の命は無いと思った方がいい。お待ちしております。天使ちゃん様。僕はあなた様を心よりお慕い申し上げております。
PS 先着一名様に小銭を差し上げます。皆様お誘い合わせの上、お越しください』
「どうですか?」
「まるで意味が分からないですけども、とりあえず悪意だけは感じ取れました」
「これなら来るだろう」
「私でしたら、即刻、警察に届けますよ」
◇
天使ちゃんの下駄箱に先ほどの手紙を入れて、俊作は下駄箱の前で祈った。
「きっと来ますように」
「来るといいですね……」
里奈の冷たい視線はスルーして、俊作は明日を心待ちにして待つことにした。俊作はあまりのワクワク感でその日は寝ることができずに、パズルゲームを朝までやった。