第五話「天使ちゃん捕獲作戦その一」
「あれが天使ちゃんだ」
「あれですか。ただの女の子にしか見えないですけど」
学校のベンチに一人で座って居眠りしている女の子がいる。一見すると小学生にも見える外見。茶色がかったツインテールが気持ちよさそうにゆらゆらと揺れている。
「本当に知らないのか。有名なのに」
「ええ」
仕方が無いので、里奈に天使ちゃんの説明をしてあげることにした。町では超有名な天使ちゃんはわざわざ見に来る人もいるほどだ。天使ちゃんは周りの人を幸福にすることができる。話では頭をさすると更なる幸福が約束されるらしい。ある人は宝くじが当たったり不治の病がたちどころに治ったりするらしい。その分当人は死ぬほど貧乏。代償を払い続けているようだ。ほんわかとした雰囲気で自分が不幸になっているとは思っていない。それでも自分は幸せだと思っている。まさに天使ちゃん。父親がハードギャンブラーで母親は大麻を栽培していたようで国外退去処分中。今は住み込みで新聞配達と内職をしながら学校に通っている。
「そこまで知っていて今までなぜ、近づかないんですか」
「僕だって天使ちゃんの頭をもふもふしたいんだが……近づけないんだ」
俊作は今まで天使ちゃんと接触を試みていたが、必ず邪魔が入って近づけないでいた。ある時は落とし穴同好会の落とし穴。ある時は、空手部、陸上部のジョギングで行く手を阻まれる。一番の障害はガードナーと呼ばれる存在がいることだ。不埒な輩が天使ちゃんに近づかないように町をあげて保護しているのだ。まったく迷惑も甚だしい。
「たぶん、今もどこかで監視されているはずだ。さすがの僕も今まで突破できなかった」
周りを見回したがそれらしい人影は見当たらなかった。
(今日は休暇中かもしれない。そういった日もあるはずだ)
「小林さん。見ていてください。今日は突破してみせます」
「頑張ってください」
里奈の声援を受けて、行けるような気がしてきたが、その途端、腹部に違和感が生じた。
「なんか急に腹が痛くなってきた……これはとんでもない痛みだ……」
「大丈夫? 何食べたのよ」
「昼間の学食で食ったジャムバターラーメンがあたったのかも知れない。ぐぐぐ」
新しい学食の新メニュー、ジャムバターラーメンを俊作は食べた。あのひたすら甘いラーメンは夢に出そうな程だったが、俊作は汁まで残さずに平らげた。今、その代償が来ているようだ。
「これは……まずい」
俊作は痛みで地面にうずくまった。体から異常な量の汗が吹き出している。
「情けないね。私が行くよ」
「ごめん。お願い……」
俊作の代わりに里奈が天使ちゃんに接触を試みることになった。
「必ず、私が天使ちゃんの頭をもふもふしてくるから待っていて」
「不本意だけど……お願いするよ……ぐおおお」
「では行ってきます」
俊作を置いて里奈は駆けた。里奈なら行けるかも知れないと思ったのも一瞬だった。そこに狙いすましたようなタイミングで、大量の足音が近づいてきた。
「いかん。柔道部と野球部と空手部が……ジョギングに来た……ぞ」
「ファイオ。ファイオ。勇者記念―! ファイオ! ファイオ!」
あっという間に天使ちゃんと里奈の間に入り込み行く手を阻んでいる。
「邪魔だ。どけ。う……汗臭い。だめだ。これ以上は汗臭くて近づけない」
運動部特有の腐った干物のような匂いでさすがの里奈も近づけないでいた。
「負けるな……幸せになり……たく……ないのか」
「そうだ。私は……何のために藤堂君と協力しているんだ。幸せになるため……私は負けない! どいてええええ!」
里奈は幸せのために臭さを我慢して、運動部の中に飛び込んだ。もみくちゃにされながらも果敢に天使ちゃん目指して進んだ。
「やった……私やったよ。藤堂君」
「小林さん……よくやったよ」
里奈は汗まみれ、泥まみれになりながらも何とか運動部の鉄壁のガートを突破し、向こう岸に辿り着いた。
「後は天使ちゃんだけ……え、いない」
ただ向こう岸に行いた時には天使ちゃんの姿はなかった。
「シット!」
あまりのショックで里奈は天使ちゃんの座っていたベンチの前でうなだれた。
(なんで、臭さを耐えて頑張ったのか分からない……)
「小林さん悪いけど……正露○をもってきてください……死にそうです。ねえ。小林さーん!」
俊作はエリク○ー級の万能薬正露○を持ってきてもらうまでそこから一歩も動けなかった。