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第四話「人には譲れない想いがある」

「というかあなた、どなたですか?」

 俊作の妹、恵梨は見たことがない人物が自分の家にいることに、それとその人物が馴れ馴れしく気絶している俊作を抱き抱えているのを疑問に思って思わず質問した。

「わ、私ですか。私は……藤堂君のお、お友達です。小林里奈と言います」

 俊作と里奈は昨日知り合ったばかりの微妙な関係だったので、友達というのはどうかと思ったのだが、無難に友達と応えておいたほうが、いいだろうと思いとりあえず友達と答えた。

「へー。里奈さんですか。恵梨は藤堂恵梨です。お兄の妹です。しかし、へー」

 恵梨はじろじろと里奈の体を舐め回すように見つめた。

「本当に友達ですか?」

「ほ……本当です……たぶん」

「そんな訳ありません! お兄に友達なんている訳ないじゃありませんか!」

「……それはそれでひどい……」

 思わぬ所を突っ込まれたので、里奈はかなり狼狽した。里奈と同じく、俊作も友達と言える友達は居ないのだ。

「いったいいくらもらっているんですか?」

恵梨の眼の色が変わって、じりじりと里奈に近寄って玄関の側にある靴箱まで追い詰めた。

「そんな……私お金なんて」

「恵梨、お兄のことならなんだって知っているんですから、通帳の残高からうふふ本の隠し場所まで……恵梨に知らないことなんてないんですから」

「……」

 里奈はこの娘ちょっと怖いと思い、思わず黙ってしまった。

「分かりました。その胸で誘惑したんですね……そうじゃなかったらあなたがお兄に近づける訳がありません。お兄巨乳好きだから」

恥ずかしそうに恵梨は自分の胸を見つめていた。恵梨はお世辞にも胸があるとは言えなかった。

「あなたも大きくなれば自然と大きくなる……と思うよ」

「そんな同情いりません!」

恵梨は唐突にスカートのポケットからカッターを取り出した。

「何する気なの?」

「何もしません。ただ恵梨に約束して欲しいだけですよ。お兄に二度と近づかないって。恵梨は亡くなったパパとママにお兄のこと頼まれているんですから」

 ゆっくりとした歩調で恵梨は里奈に近づいていく。

「私がそんな脅しに乗ると思うの?」

そう言って里奈は家の中に駈け出した。とりあえず玄関の近くにあった居間に入り込んだ。

「逃げる気! え!」

居間にいったら家のありとあらゆるものが恵梨に向かって崩れた。その中の父親のお土産の実物大一分の一モアイ像に恵梨は下敷きになった。

「私はね。今まで私に近づく人はみんな不幸になるから嫌われてたのよ。そんな私に藤堂君は一緒にいようって言ってくれたの(※言ってません)あなたが口を挟む余地なんて少しもないのよ」

「お兄は誰にも渡さない! ぐぬぬぬぬううう!」

恵梨はモアイの像の鼻を持ち上げて、モアイ像から抜け出した。抜けだした瞬間、カッターで里奈に迫った。それを里奈は近くにあった菜箸で受け止めた。

「里奈さんでしたか。中々やりますね。恵梨のカッターを受け止めるなんて」

「そういうあなたこそ」

しばらく鍔迫り合い? が続いた。

「だけど、恵梨には勝てません」

恵梨は里奈の腹部に左膝蹴りを食らわせて、菜箸を奪い、首筋にカッターを突きつけた。

「恵梨に約束してください。二度とお兄に近づかないって」

「……そんな約束できません」

 恵梨は里奈に馬乗りになって、脅したが里奈は屈しなかった。そこに居間の外から声がかかった。

「おい。何やってんだ」

気絶から立ち直った俊作だった。オデコは腫れ上がりふらふらしていたが、大丈夫のようだった。

「え。お兄」

「恵梨、お前何やってんだ。小林さんに馬乗りになってそんなうらやま……いや、事と次第によっては妹でも許さねえぞ」

「え、えとですね。里奈さんが目にゴミが入ったというので取っていたんですよ。ね。ねえ里奈さん?」

「ええ、危なくゴミだけではなく、命まで取られる所でしたよ」

 慌てて恵梨は里奈から離れた。里奈は乱れた着衣を整えて、まるで何事もなかったように立ち上がった。

「命?」

「ぐぬぬ」

 恵梨は里奈の言葉にぎりぎりと歯ぎしりをしていた。

「まあいい。そんなことよりなんでこんなに家の中が散らばってるんだ。まるで泥棒に入られたみたいじゃないか」

居間の中はところどころものが散らばってぐしゃぐしゃだった。モアイ像もスフィンクスも狛犬も全てなぎ倒されていた。

「それは……泥棒猫が入り込んで大変だったんだから。その泥棒猫がね。ぐわーとそこらへんの物を次々になぎ倒していったの。ぐわーって」

 恵梨はあまりにも慌てて、身振り手振りで説明を始めた。その様子が滑稽でとても笑えた。

「ぐわーってか」

「うん」

「くす。ぐわーって子供じゃあるまいし」

「そこ笑わない!」

「ごめん。あんまりにも可愛くてつい」

 里奈はそんな恵梨をみて思わず笑っていた。しかし、こいつはなんでこんなに慌てているのだろうか。

「そういえば大変ってなんだ?」

「大変といいますと」

「お前が大変だー。ウホウホウホって言いながら玄関のドア開けて入ってきたんだろうが。お陰で僕は頭をぶつけたんだぞ」

「ウホウホウホとは言ってません!」

「くす。ウホウホって」

「そこ笑わない!」

「そうです。大変なんです。お兄外にでてください

 恵梨に手を引っ張り、俊作は家の外に出た。

「なんじゃこりゃー」

家の外に出てみると家の塀に車が突っ込んでいた。しかも赤い車が三台もだ。思わず俊作の頭の中に連鎖という単語が浮かんだ。

「恵梨が家に帰ってきたら、車がうちに突っ込んでたの。なんでお兄は気づかなかったの?」

俊作は外の様子を見て寒気を感じた。

(やはり里奈と出会って不幸が加速しているようだ。何か一歩間違えれば僕は確実に死んでいた。このままではいけない。何か手をうたなければいけない。そうだ。あの娘に会いに行こう。小林さんと一緒なら何とかなるかも知れない)

「小林さんちょっと相談があるんだけど」

俊作は手招きで里奈を呼び寄せた。

「何?」

「小林さん。いや里奈ちゃん。僕と一緒に天使ちゃんに会いに行こう」

「天使ちゃん?」

「このままじゃ。二人ともただでは済まない。もしかしたら死ぬかもしれない。だから僕と一緒に天使ちゃんに会いに行こう」

俊作は思わずどさくさに紛れて里奈の手を握った。小さな温かくてすべすべとした手だった。俊作はずっと握りしめていたいと思った。

「あの女、お兄の手を握るなんて。悔しいー!」

恵梨はハンカチを噛み締めて悔しがっていた

「なんだか分かりませんが、藤堂くんがそういうのでしたら行きましょう」

「ありがとう。じゃあ明日にでも会いに行こう」

「はい……あのそろそろ手を放してくれませんか?」

「……はい」

名残惜しい手の温もりを手放した俊作は里奈と一緒に天使ちゃんに会いに行くことになった。俊作はしばらく手を洗わないと決意したのは言うまでもない。


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