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第三話「生きているのが不思議なくらいだ」


「ゴーフ、ゴーフ」

 俊作は里奈のおかげでライオンの脅威から逃れることができたが、前方から更にヒョウが現れたので、どのように回避するか迷っていた。周りを見回すと、近くに窓があるのが見えた。一階なので俊作は思い切って窓から脱出することにした。

「おら! あばよ。ヒョウ」

 俊作は窓枠に足をかけて飛び降りた。

「きゃあああ!」

「ぐお!」

 うまく着地ができると思ったら、何かとぶつかった。柔らかくてとてもいい匂いがする。手をまさぐると柔らかい感触が広がった。

「藤堂君……手を放してくれない」

見ると、俊作は里奈の胸を両手で握りしめていた。

「うお! すまん。つい……わざとではないんだ」

 俊作は名残惜しい手の感触を手放して、慌てて離れた。


☆ 特殊スキル「ラッキースケベ」を獲得


「ガオオオ」

「ゴーフ、ゴーフ」

 弁解している時間も無く、もうすぐ側まで、ライオンとヒョウが迫ってきていた。万事休す。さすがの俊作もライオンとヒョウ二匹では勝てる気がしなかった。俊作はこんなことなら里奈の胸をもっと揉んでおくんだったと後悔していた。


ドン。ドン。


「危なかったね。目を離した隙に檻から逃げてしまってね」

銃声が響き渡ったかと思うと、二人組の迷彩服を来た銃を持った髭面の男が俊作達の所までやってきた。話を聞くと、動物園への移動中にトラブルで檻の鍵が空いてしまってここまで迷い込んでしまったとのことだ。

 髭面の男は平謝りをしていたが、おそらく俊作の不幸体質のせいもあるので素直に怒れなかった。ただ、薄々感づいてはいたが嫌な予感がする。もしかして前より不幸になっていないだろうか。ライオンくらいはエンカウントすることはあってもヒョウまでエンカウントすることはなかった。

「私、こんなこと初めて……。藤堂君って本物だったんだ」

 里奈は腰が抜けたようで、立ち上がれないでいた。人を不幸に陥れることはあっても自分が不幸になることはなかったのだろう。俊作にとっては日常茶飯事であったが、里奈にとっては考えられない出来事なのだ。

 落ち着いた所で、俊作は里奈の手を取って起き上がらせ、学校へと戻った。

 それからは悲惨だった。上からバケツが落ちてきて、水は被るし、いつもは何とも無い椅子が突然壊れて尻を打つし、アンパンを買ったら、なぜか中身のあんが無いし、コーラを買ったらなぜかホットだった。絶対に里奈と協力体制をしたことによって不幸が加速している。俊作は頭が痛い想いだった。果たして今日無事に家まで帰れるのだろうか。


     ◇


 放課後、何かが起こらないうちに一目散に家に帰ろうとすると、里奈がなぜか俊作の教室までやってきていた。

「藤堂君。一緒に帰ろう」

学校の有名人の里奈が教室までやってきたことで、教室中がざわついた。しかも、尋ねる相手が不幸男として有名な藤堂俊作だ。家から出たら、カラスが家の前に百五十羽いるのを目撃した時のような衝撃が教室全体に走った。

「なんで小林里奈と藤堂君が……ひそひそ」

「もしかしたら、隕石でも降ってくるかも」

「いや、人類終了だよ。俺もうちょっと生きたかったのに」

「みんな落ち着け! 神に祈るんだ。絶対に神様は助けてくれるって。希望を捨てるな!」

「神なんて信じられるか。俺たちはもう終わりだー!」

 口々に絶望を叫んでいる。それほど、里奈とセットでいることがひどいことなのかと想い、俊作は絶望していた。

「行きましょ」

俊作は里奈に袖を引っ張られて、教室の外まで連れだされた。そのまま小走りで玄関まで行った。里奈は終始俯いていた。

玄関で立ち止まると、里奈は俊作の袖を離した。俊作は少し名残惜しい気がしたが、いつまでもそうしている訳にはいかないので、とりあえず感触だけ味わっていた。

「私。ちょっと安心してるの」

「なんで?」

「私ずっと一人だったから、あんな目にあっても藤堂君がいるって思うだけで、なぜか安心するの。変だよね」

「小林さん……言っておくがここから一歩出たら、生きて帰れないのかも知れないぞ。恐らく僕と小林さんは理由が分からないけども不幸を分け合ったかも知れない。僕は今まで不幸だったけども、これほどのことは無かった。これからもっとひどい目に合う。そんな気がする」

「私、藤堂君と一緒なら大丈夫だよ」

「小林さん……」

ちょっと感動したが、それも俺たちが生きて帰ることができればだ。これから先、何が待ち受けているか分からない。俊作はヘルメットをきっちりと被り直した。

「いくぞ。小林さん……全力で駆け抜けるんだ」

「うん」

「レディー……ゴー!」

俊作達は駆けた。全力で駆けている姿は恐らく異様に見えるのだろう周りは何事かと思ってこちらに視線をよこした。

「来たぞ。右舷前方。野球ボールが二発。左舷前方、槍だ。僕が合図したら転がるんだ」

「うん」

「今だ!」

俊作達はボールと槍を避けるためにゴロゴロと転がった。俊作の装備は万全だったが、里奈は素人なので隙だらけだった。俊作は思わず、見てしまった。小林さん今日は白だ。何がって言わせるなよ。分かっているだろ。

「よし、回避だ」

「やった」


☆称号「男なら見逃せない」を獲得。


何とか校門から脱出した。だが、そこにいかにも柄の悪そうな不良とエンカウントしてしまった。

「おい。兄ちゃん。俺、財布落としたんだよ。貸してくれないか。グヘヘへ」

 ガムをくちゃくちゃと噛みながら、バカそうな金髪に染めた不良は俊作達に絡んできた。俊作は今までは逃走していたが、今は里奈という守るべきものがある。俊作は今までに百五十三回ほどカツアゲされていた。これ以上カツアゲされないために強くなろうと決心し、俊作は見よう見まねで少林寺拳法を身につけた。決して、人様に向けて使わないと決心していたが、今はそれどころでない。守るべきもののためには己の信念など捨ててしまわなくてはならない。

「なあ。兄ちゃんよおー。五百円でもいいんだよ。貸してくれよー。グベボボボ」

「は!」

俊作は隙だらけの不良の金髪の後頭部に回し蹴りを食らわした。不良はきりもみしながら回転し、地面にドッキングした。

「お前。何しとんじゃー」

「うぬらああ!」

「ほげええええ!」

 どこから出てきたのか、不良がどんどん沸いてきた。俊作は一人一人、的確に攻撃し倒していった。ただ、倒しても、倒しても不良が沸いて来た。百人ほど倒したところで俊作は飽きてきた。

結局、俊作は戦術的撤退をすることにした。里奈の手を引いて逃げた。しばらく逃げたところで里奈が急に止まった。

「私、ここで」

「じゃあな。生きていたら会おう」

「私、朝迎えにいくから」

「じゃあな」

「うん。また明日ね」

 手を振って里奈と別れた。ただ気になることを里奈は言っていた。

(ん? 迎えに行く? どういうことだ。まあいいか。とにかく先は長い。気を抜かないようにして、何とか家まで向かおう)


☆称号「百人斬り」を獲得


「はあ。はあ。なんとか辿りついたぞ」

 俊作は犬の糞を踏むこと二回、自転車に轢かれそうになること三回を何とか回避して命からがら自分の家まで帰ることができた。俊作は戦地から戻ってきた兵隊は恐らくこのような想いをしたんだろうなと実感していた。重い体を何とか奮い立たせて玄関のドアを開けて、玄関に倒れこんだ。

「お兄! やっと帰ってきた。今まで何してたの」

帰ったら、帰ったらで妹の恵梨がなぜか不機嫌だった。

「な……なんだ。悪いけど。水をくれないか。兄さん波乱万丈すぎて喉が渇いたんだ」

「無いよ……」

「なんだって?」

「お兄にあげる水は無いって言ったの。それよりもお兄、恵梨のパンツ盗んだでしょ」

「はあああああああああ!! 何言ってんだよ」

何が悲しくて妹のパンツなど盗まにゃいかんのだ。冗談にも程があるし、俊作という人物の品性を疑われる発言だった。

「お前が何がどうなったらそうなるんだよ。完結に五文字で言ってくれ」

「問答無用! たああああああ!」


ビターン


俊作は簡潔に五文字で説明されて、右頬にビンタを思い切り食らって玄関のドアを突き破り庭まで出た。

「お兄のド変態。恵梨、友達の家に泊まるから」

「おい。待て。ぐほ……どこ……行く……んだ」

恵梨は俊作をわざと踏みつけて荷物を持って出ていった。訳が分からなかった。

(なんで恵梨のパンツが無くなると、僕のせいになるんだ)

「いったい。どうなってるんだー!!」

 俊作の叫びが辺りにこだました。近所の人からうるさいと怒鳴られたのは言うまでもない。


☆称号「妹のパンツを盗む容疑」を獲得した。



     ◇


 深夜。さびしく一人、カップラーメンで夕食を済ませて、俊作は早々に就寝することにした。起きていても碌なことが起きないからだ。

「まさか、火事になるとか泥棒に入られるとかはしないだろうな」

俊作は用心して居間で寝ることにした。枕元にはバットと懐中電灯、通販で買った煙幕、消化器を置いた。

「羊が池袋駅に一匹、羊が大塚駅に一匹、羊が巣鴨駅に一匹、羊が駒込駅に一匹」

 俊作は中々寝付けずに羊を永遠と数えていた。山手線を五周ほどしたところでようやく眠気がやってきた。

 何か変な感じがして、目を開けた。しかし、体が動かない。声も出ない。もしかしてこれは金縛りというやつなのか。何とか試行錯誤して声だけは出るようになった。

「う……動かねえ」

そこに、いつも大人しいとなりの犬が狂ったように吠えている。俊作は金縛りにもかかるし、犬は吠えるわで眠れないでいた。

「ど……どうしたの? ケルベロスちゃん。お腹が痛いの?」

「とんでもねえ。名前つけんなよ。ばばあ。……え」

俊作が見ると、目の前に鎌を持った死神がいた。その死神がニヤリと笑った。

「ヒ」

俊作は小さく悲鳴をあげて気絶した。


       ◇


翌朝、ものすごい勢いで目が覚めた。体中は汗だらけだった。首に何か切られたような傷があったが気にしないことにした。

「僕、生きてる。生きてるよおおおおおお!」

 俊作は生きていることを噛み締めて、起き上がろうとしたが、中々体が起きられない。心身ともにぼろぼろなのか。体が尋常でないほど重い。体はきついし、ちょっと昨日の不幸はひどすぎる。しばらく外出は控えた方がいいかもしれない。落ち着いたら、行きつけの神社でお祓いをしてもらおう。とりあえず学校は今日は休もう。


ピンポーン


家の呼び鈴が鳴った。家には俊作しか居ないので永遠と呼び鈴が鳴り続いた。仕方がなく玄関のドアを開けると、小林里奈がいた。今日も巨乳だった。一度気になると気になってしょうがない。失礼だとは思うが、視線は胸にいってしまう。

「藤島君……迎えに来たよ。頑張って一緒に生き抜こう」

「悪い。何か今日は嫌な予感がするから休むよ。じゃあな」

 俊作は即答してドアを閉めようとしたが、里奈が素早くドアに右足を挟み込んでドアをしまらないようにした。

(あんたはどこかの刑事かなんかか)

「だめ。助けあおうって言ったじゃないの」

無理やり引っ張られ、家の外まで出てしまった。

「小林さん。本当に悪いけど、僕まだ生きていたいんだよ。今日家の外に出たらぜーーーーーーーーーたいに大変なことになる」

「藤堂君は冗談がうまいな。はははは。あー、おかしい」

 昨日あんなことがあったのに、小林さんは笑っていた。俊作にとってはまるで笑えなかった。

「大丈夫。何とかなるよ」

 その脳天気さが俊作は羨ましかった。俊作は今まで生きてこられたのが奇跡としか言えない生活を送っていたので、何とかなるではなくて、何とかしてきたのだ。

 だが、里奈に押し切られて結局学校に行くことになった。

「父さん。母さん。もしかしたら僕、そっちに行くかもしらないからよろしくね」

俊作は亡くなった父さんと母さんに挨拶をして、装備を厳重に装着して、玄関のドアの前で十字を切った。

「ぐ……」

俊作は中々ドアを開けられないでいた。

(今日は本当にまずい気がする。僕の何かがそう告げている。ただ、僕の横で柄にも無く、ニコニコしている小林さんを裏切るわけには行かない)

意を決し、玄関を開けようとすると、いきなりドアが開いた。勢い余って俊作は頭から玄関前のコンクリートの地面に頭からダイブしてしまった。

「お兄大変だよ!」

「ぐああああ! 痛てええええええ!」

「藤島君! しっかりして」

 俊作はあまりの痛みに玄関の前で転げ回った。意識は朦朧として見えなくていいものまで見える。

「お兄。なんでドアの前にいるの! しっかりして。お兄!」

気がつくと、俊作は里奈に抱きかかえられていた。失われる意識の途中で僕は、三途の川の向こう岸で両親が手を振っている姿が見えた。

(父さん、母さん僕、もうすぐそこまで行くよ。でも、小林さん柔らかいな。なんか不幸だけど幸せかも……)

「お兄なんかにやけてるように見える」

「そ……そうね」

「というかあなた、どなたですか?」

果たして、藤堂俊作はこれから生きていけるのだろうか。



☆本話の獲得称号とスキル

「ラッキースケベ」

「男なら見逃せない」

「百人斬り」

「妹のパンツを盗む容疑」

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