第二話「加速する不幸」
9月10日第二話の文のつながりの不自然な所を修正しました。
「君が藤堂俊作?」
「そうだけど」
俊作が運び込まれたベッドの上で周りの人間を不幸に陥れる小林里奈に出会った。里奈は長すぎる前髪を右手でかき上げてベッドに寝ている俊作をじっと見つめている。
「私、君に会いたかった。もう君しか居ないの。 あなたなら多少不幸になっても大丈夫だと思うの? ねえ。私たち助けあいましょう」
藤堂俊作が呆気に取られている間に、小林里奈は勝手に話を進めている。
「ちょ、ちょっと待てよ。勝手に話を進めるなよだいたいなんで俺なんだよ」
「君しかいないのよ。私知ってるのよ。私達の町が十七年連続、全国で一番交通事故が多いのが君のせいだってこと、私調べたんだから、去年一年間で君がこの町の全交通事故の七割を占めているってことをね」
「そんな……ことは……ないだろ」
嫌な汗をかいた。
(うすうすは思っていたがやはりそうか。どうりで結構な確率で警察官に出会うわけだ。恐らく、ここの警察署の交通課の人はよっぽど肩身の狭い想いをしているだろう)
「もしかしたら、私たち二人が助け合うことで、幸せになれるかもしれない。ほら、マイナス掛けるマイナスはプラスになるじゃない」
(この子は俺と同じことを考えているようだ)
「でももしかしたらもっと不幸になるかもよ」
「……まあそう……かもね」
「お願い! 私を助けると思って」
小林里奈は藤堂俊作の手をぎゅっと握ってじっと目を見つめた。
(よく見ると、可愛い。しかも胸がとても大きいです。胸が手に当たっている。それはとても柔らかい。僕は負けないぞ。負けない。負けない。負けない。負けない)
「分かった。協力しよう」
藤堂俊作は負けてしまった。小林里奈の豊満な胸にだ。誰かが言っていたおっぱいは正義だと、誰だって勝てはしない。藤堂俊作も同様だった。
☆称号「おっぱいは正義」を獲得
「ありがとう。藤堂君」
小林里奈は藤堂俊作に思わず抱きついた。こういうことに慣れていない藤堂俊作はとても、どぎまぎして思わず赤面してしまった。当たってはいけないものが直に当たってしまっているのも藤堂俊作が赤面している原因の一つだ。
(どうやら小林さんは喜ぶと抱きつく癖があるようだ。僕はいいことを覚えてしまった。これからはどんどん小林さんを喜ばすことにしよう。僕もうれしい気持ちになるし、小林さんもうれしい気持ちになるんだし、一石二鳥ではないか)
「よろしくね。藤堂君。これからは何があっても一蓮托生だよ。絶対に裏切らないでね」
「任せろ!」
藤堂俊作と小林里奈はがっちりと握手を交わした。その瞬間藤堂俊作の中でカチリと世界が変わる音が聞こえたような気がした。
「きゃあああ!」
「なんだ!」
保健室の外から女生徒の叫び声が聞こえたかと思ったら、ライオンが保健室のドアを突き破って保健室の中に入ってきた。
「ええええええ!」
「なによ。これ」
「とにかく、逃げよう」
いつも危機に直面することが多い藤堂俊作は、すぐに逃げるという選択肢を選んだ。昔、犬に追いかけられたことがある俊作にとっては、この辺りの切り替えは普通の人間よりも素早かった。里奈の手を引いて、ライオンの脇を抜けて廊下に出た。すぐその後にライオンは逃げ出した俊作達を追いかけてきた。
「なんで追いかけて来るんだよ!」
ものすごい速さで追いかけてくるライオンに、俊作はたまたま持っていた。骨付き肉を放り投げる。だが、ライオンは骨付き肉にはまったく興味が無いようで、むしろ踏みつけて俊作を追いかけてくる。
「なぜに!」
(このままじゃ。二人とも食われちまう。仕方がない)
「小林さん。悪いが二手に別れよう。たぶんあのライオンは僕を追ってくるはずだからその間に助けを呼んできてくれ」
「そうね。分かった。気をつけてね」
ちょうど廊下が右と左に分かれていたので、俊作と里奈は右と左に別れた。
「きゃあああああ。なんでー」
「え?」
ライオンはなぜか、里奈の方を追いかけていった。不幸の量はむしろ里奈の方が多かったようだ。それとも里奈の方がおいしそうに見えたのだろうか。
「すまん。小林さん。あんたのことは忘れないよ」
里奈の向かった方向に向けて、一礼する。
「ゴーフ、ゴーフ」
と思ったら、前からヒョウが現れた。
「うぎゃああああ!」
俊作の不幸は里奈との出会いによって、更に不幸が加速していこうとしていた。