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第十五話「恵梨の秘密」

 今、俊作は人生最大のピンチに陥っていた。せっかく当てた百万円が(本当は恵梨が当てた)妹の恵梨によって奪われてしまったのだ。初めての札束の感触は一瞬にして消え失せた。今は恵梨を追って走っている。恵梨のほうが俊作より早いようで段々とその差は広がっている。俊作はこんなことなら、もっと体を鍛えておくのだったと後悔していた。

「こらー。待てー」

「待たないよー」

「待てよー」

「待たないよー」

 いくら俊作が呼びかけても、恵梨は止まる様子が無かった。俊作は恵梨が欲しい物があると言っていたがいったいなんだろうか。走りながら恵梨が何を欲しがっていたか考えてみた。服、食事、バック、それとも家だろうか。そういえば何が欲しいとかそういったことは聞いたことが無いかも知れない。そんなことを考えているとますます恵梨との距離が開いていた。

俊作は先回りしてもらっている里奈に電話することにした。走りながら携帯を操作した。携帯の登録一覧から妹、天使ちゃん、ハバネロとスクロールしてハバネロを選択した。何回か応答音が聞こえてようやく出た。

「……もしもし誰ですか?」

「今どこですか?」

「だから誰ですか?」

「え? そこからなの? 俊作だよ」

「藤島君ですか? 何の用ですか?」

「いや。そこを説明しないといけないの? とにかく今どこにいるの?」

「家ですよ」

「ええ! な、なんで?」

「なんでって? それは私の自由じゃないですか?」

「いや。たしかにそれはそうだけど」

「私忙しいの。じゃあね」

ガチャ。

一方的に電話を切られた俊作は思わず呆然としてしまった。俊作は里奈という人は何という型にはまらない自由人なのだろかと思った。とにかく一人で確保するしかない。俊作は最後の力を振り絞ってさらに加速した。明日は筋肉痛だなと思いながらも、唸り声をあげながら前を走る恵梨に迫った。

「くぉららあああらああああ。恵梨ぃぃぃ。うりぃぃぃ。待てええええ!」

「お兄。恥ずかしいから。追ってこないでよ!」

「兄が恥ずかしいとは何事だああああ!」

 俊作が我を忘れて走ったおかげで、大分、恵梨との差が詰まってきた。もう少しで追い付くことができそうだ。恵梨は手を挙げてタクシーを止めた。止まったタクシーに恵梨は乗り込んだ。

「おい。おい。マジですか」

 俊作が追い付く寸前の所で恵梨の乗ったタクシーは出発した。

「ばいばーい」

「おい。おい。おい。おい。ちょっとそれ……反則だろ」

 恵梨は窓を開けて俊作に向けて笑顔で手を振った。しばらく残った気力と体力を総動員して恵梨の乗ったタクシーを追ったが、さすがにタクシーに追いつけるはずもなく、タクシーに乗るお金はなかった俊作は恵梨を追うことを諦めた。

「はあ。はあ。はあ。嘘だろ……」

俊作は文字通りORZのポーズを取って崩れ落ちた。携帯にもかけて見たが、出る様子は無かった。仕方が無いので俊作は家で待ち構えることにした。



夕方恵梨が大量の荷物を持ってタクシーで帰ってきた。俊作はかつて無いほど怒ってやろうと玄関前に仁王立ちして待ち構えていた(三時間前から)。 

「恵梨! このやろうが!」

「お兄。牛肉買ってきたよ。今日はすき焼きだよ。食べるでしょ」

「まじで! 食う。食う。食うよ」

「ほら、そんなところに立ってないで家に入って」

「恵梨、僕はすき焼きは玉子につける派だからな」

「分かってるよ。玉子も買ってきたから」

「わーい」

あっさりすき焼きに撃沈してしまった俊作は、大喜びで家の中に駆け込んだ。

俊作は恵梨を怒ることも忘れてすき焼きに夢中だった。恵梨が作ってくれたすき焼きを食べている時に俊作は気づいた。

「そういえば……もぐもぐ……お金は?」

「あるよ。はい」

封筒を渡される。持ってみるとやけに軽かった。開けてみると中には小銭しか入ってなかった。しかも三百二十五円。何度数えても三百二十五円だった。

「おい! 三百二十五円しかないぞ! 百万円はどこにいったんだよ! もぐもぐ」

「それだよ」

「それって? もぐもぐ」

「すきやき」

「すきやきって……もぐもぐ……これだけじゃ……もぐもぐ……百万円にならないでしょ」

「デザートもあるんだよ。ケーキにアイスにジュースにチョコレート……」

「恵梨どうした……もぐもぐ」

「どうしたって?」

「もぐもぐ……何かおかしいぞ」

「おかしくないよ。ほらお兄のためにシャツを買ってきたよ」

無理矢理に派手なレインボー柄のシャツを着させられる。俊作の趣味ではなかったが一応喜んでおいた。

「おい。恵梨……それよりも百万は! もぐもぐ」

「なんか、疲れちゃった。おやすみ」

そのまま大量のお菓子とデザートを持って恵梨は自分の部屋に行ってしまった。俊作は肉を食べながら呆然としていた。

「なんなんだ。いったい……もぐもぐ……くそ……もぐもぐ……まあすき焼きうまいからいいか」

 すっかりすき焼きの魅力に取り憑かれた俊作は、最後にすき焼きの汁でおじやを作って食べた。



その夜、先ほどのすき焼きの残り汁を啜ろうと、台所に降りようとしたら恵梨の部屋から話し声が聞こえてきた。

「……の……パパ……帰……」

 以前から気になっていたが、深夜の恵梨の部屋の中から話し声が聞こえることがあった。前までは電話でもしているだろうと思っていたが、今日はなぜか妙に気になって恵梨の部屋をノックした。

「ねえ。恵梨まだ起きてるの?」

 部屋の話し声がぴたりと止まり、しばらくして部屋の中から恵梨が出てきた。

「起きてるけど……何?」

 いつもと違う異様な雰囲気に俊作は戸惑ってしまった。実は俊作には恵梨に対する一つの疑惑があった。恵梨が寝ていないんじゃないかということだ。以前、深夜に悪ふざけで恵梨の部屋に突入した時も恵梨は本を読んで起きていた。その前にも部屋を間違えた振りをして夜、部屋に入った時にも恵梨は起きていた。恵梨はたまたまだよとその時は誤魔化していたが、俊作は恵梨が寝ている時を今まで一度も見たことはなかった。部屋の前を通ると一定の周期で話し声が聞こえていた。恵梨が寝ていないんじゃという事実を本人に確認することを俊作は今までためらっていた。でもいつかは聞かなくてはならないそう思いつつも、俊作は先延ばしにしていた。

「恵……恵梨? あのな」

「何? ……」

 なぜか躊躇った。踏み込むべきではないと俊作の中の何かが告げているようだった。


一、聞く

二、聞かない


聞くべきか聞かないべきかの決断が迫られていた。


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