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▼パールピンク▼

「うん大丈夫、マサヒコさんを煩わせたりしないわ」


携帯電話の電源ボタンを押して通話を終了した上野カズコは意気消沈していた。

真っ直ぐ切りそろえられた前髪にミディアムロングのボブカット。亜麻色に染められた髪の毛とぽってりとしたメイクはまるで流行のガーリースタイル。

背は低いが出るところは出ている女の子を象徴したような体型。流行に合わせて髪型やメイクを微妙に変えるのは彼女にとって当たり前の嗜みだ。

見た目とトークの華やかさで、彼女は誰とでも打ち解けることの出来る才能を持っている彼女は、『 colorful drops 』に営業として勤めている。

「はぁ~」とため息をこぼした時、専属カメラマンの梶間ユキコと桜庭リサが更衣室に入ってきた。


「あれ、お疲れ様です。カズコさんデートって言ってませんでした?」

「カズコがお洒落してこんな時間までいるなんてめずらしいね」

「お疲れさま~、残業が入ったとかでドタキャンされちゃった」

「え?…あの、なんか、すみません」

「今の彼氏って仕事なんだっけ?」

「証券会社の海外事業部」


彼女には、親子ほどにも年の離れた相手がいる。が、その事実を知っているのは親友のユキコだけだった。

結婚に並々ならぬ理想を掲げる彼女が付き合う男性は、必ずと言っていいほど年上のエリートだった。


「ふぅん」


ユキコはあまり興味なさそうに返事をして、自分のロッカーを空けて着替え始めた。

黒のベストと白いワイシャツの第3ボタンまで外すと、二つを一気に脱衣する。そのままハンガーにかけてしまう豪快な着替え方は後輩であるリサも一緒だ。

その姿をみて少々呆れ気味にカズコは言う。


「ねぇ、カメラマンて皆そんな風なの?」

「どうだろう?時間に追われてるからかも、ねぇリサ?」

「えぇ!?…まぁ、そうかもしれない…ですね」


キャミソールにパーカーを羽織って黒のスラックスを脱ぎ始めていた彼女が、片足を宙に上げたまま硬直する。

リサは背が高く細い上にボーイッシュな格好を好むので、宝塚の男役の様な印象だ。


「リサ、早く穿くか脱ぐかしなよ」

「おぉう、すみません」


いきなり先輩から話を振られたリサはなんとも間抜けな格好でいた自分に気付き、素の言葉が出つつもそそくさと着替えを再開した。


「で?トオルとは最近どうなのよ?」

「どうって、何がですか?」

「だから、どこまで進んでるの?」

「ちょ…はぁぁ!!?」

「狼狽するとは怪しいなぁ」

「カズコ、さっきの意趣返し?それ」

「まあね、で、どうなの?」


赤面したリサはロールアップデニムとコンバースのハイカットスニーカーをはいて荷物を背負うと「お先に失礼します」と出て行った。


「からかい過ぎたかしら?」

「でしょうね」

「ねぇユキ、今夜、一杯つきあってよ」

「しょうがないね、付き合ってやるか」

「ありがと」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「で?実際今の彼氏とはどうなの?」


居酒屋に移動して、ビールとお通しがくるなりユキコが心配そうに聞いてきた。


「最近はお互いの休みが一致しなくて、昼間に会えたことはないの」

「そう」

「夜も一晩一緒にいることがなくなってさ…もう飽きられたのかなぁ」


カズコは言葉を吐き出すとビールを一口煽る。


「結婚しようなんて言われてたけど、違うのかな?」

「ただ本当に忙しいだけじゃないの?前にもあったでしょうがこんなこと」

「うん、そうだね」

「それに、お金持ってて優しくて紳士な人と結婚するのはアンタの理想なんでしょ?」

「うん」

「そのために婚活までして今の彼氏獲得したんでしょ?」

「うん」

「だったらつべこべ言わずに理想に向かって努力しなさい」

「はぁい」


カズコはユキコの説教に可愛らしく返事をすると、テーブルの端に立てられたメニューに手を伸ばす。


「ねぇ、何食べたい?」

「茄子の一本漬け」

「ユキは渋好みだねぇ」

「いいでしょ、別に」

「チヂミなんかどう?」

「ケンカ売ってる?」

「べっつにー。ただ、韓国人のダンナさまが羨ましいだけ」

「そんなことないよ。向こうは儒教の国だからね、色々ありますわ」

「今度会わせてよ」

「機会があったらね」

「絶対よ~」


テーブルに身を乗り出して約束を取り付けようとした時、自分のすぐ横で振動があった。彼が似合うといってくれた、パールピンクの携帯電話が着信を知らせていた。

携帯電話のサブディスプレイを確認すると、そこにはマサヒコの名前があった。


「もしもし?」

『あぁ、こんな時間にごめんね』

「ううん大丈夫」

『カズコさえ良かったら、今から会えないかな?』

「ホント?」

『あぁ、最近忙しくて中々会えなかっただろ?だから明日一日、僕にくれないか?』

「覚えててくれたの?」

『次に休みが取れるなら絶対あわせようと思ってね。いいかな?』

「もちろん」


先ほどまでのトーンとは違う、甘く恋人に蕩けるような声。正面でそれを見ているユキコは笑いを堪えるのに必死だ。

そんなユキコの様子に、カズコは人差し指でシーッと合図を送る。


『じゃぁいつものホテルで待ってるから』

「今すぐ行くわ」


通話を終えて携帯電話が畳まれると、ユキコはたまらず噴出した。


「いや~見事な猫かぶりだね」

「失礼ね、彼はこういう甘い女の子が好きなの」

「ま、キャラから遠く外れてはいないけど、しんどくないの?」

「彼のためならいいの」

「ふうん、ご馳走様」


そういって伝票を持ってユキコは右手を払う。


「私ご飯食べて帰るから早く行きなよ」

「え?でも」

「ビール一杯ぐらいでケチくさい事言わないから」

「本当にごめん、ありがとう」

「じゃ、いい夜を」


手早く荷物をまとめると、カズコは出来る友人に感謝しつつ居酒屋を後にした。

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