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突入⑨ -記憶-

総矢は能力を使用し、彼女の頭の中を読もうとした。だが、読めなかった。出来ない訳ではないが、様々な思いと考えが歪み、絡まり合い今にも壊れそうな心を直視できなかった。思わず目を閉じ、顔を逸らす。

(……滅茶苦茶だ。見てられねぇよ、理沙……こんな……)

 引き金を引こうと力が入ったその時、手にしていた銃が銃口から炎に包まれた。慌てて銃を手放す。

「……なんとか、当たったわね……」

 膝をつきながらもみことが炎を放っていた。

「あなた達はっ! 何でっ! 邪魔、しないでよぉぉぉ!」

 女性の絶叫と共に部屋中に電撃が放たれる。避けることも防ぐこともできず、総矢達は全員電撃を浴び続けた。個人に集中させず、拡散したおかげで誰一人として死にはしなかったが、今度こそ誰も体を動かせずにいた。みことに歩み寄ると、顔に手を当てる。

「武器も無くなっちゃったから仕方ないわよね……これしかないものね」

 全員の意識は戻っていた。だが、絶望的な状況に変わりは無い。

「……う、ぁ……やだ……」

「お、大塚……」

「まずい……クソ。動け、動け」

「……やめろ、やめてくれ……」

 目の前のよく知る人物が命を失おうとしているショックが総矢の脳裏に飛行機テロの記憶を蘇えらせる。悲鳴と苦しむ表情、激しい振動と熱い爆風、総矢達に覆い被さる両親の表情までも鮮明に思い出した。

「やめろぉぉぉ! 理沙ぁぁぁ!」

 総矢は絶叫した。満足に体を動かせず、声もまともに出ない状況だが限界まで力を振り絞って叫ぶ。その瞬間、何とも言えない奇妙な感覚が全員を包み込む。

「何よ……これ?」

 目ではそれぞれが今の状態を『見ている』ことは理解しているが、直接脳裏に焼き付けられる光景が全員の動きと思考を止める。総矢の事故直前の記憶、病院での出来事、他の研究所や工場での戦闘の記憶が染み渡るように。

(何? 何なのよコレ? どうして? それにコレ……)

 総矢の古い記憶までもが強制的流れ込む。


『……兄さん、私のアイス食べたでしょ?』

『食ってねーよ。俺じゃねー』

『流しに兄さんがいつも使うスプーンがあったもん!』

『何揉めてるの? 2人ともやめなさい』

『あ、お母さん。だって兄さんが私のアイス食べ』

『……すまん、食べたの父さんなんだよ。鍵矢、悪いが買ってきてくれ』

『嫌だよ面倒くせー、疑われて気分も悪いんだからさ』

『釣りは小遣いにしていいから』

『行ってきます』

『ちょっと待って鍵矢。じゃあお母さんのもよろしく』

『私ハーゲンだから。早く行ってきて』

『俺の小遣い無くす気かよ!』


(これ、私も覚えてる……私だ。記憶の中に私がいる。まだ子供の頃だ。その記憶があるって……でもじゃああれは……)

 総矢を見る目が明らかに動揺している。逆に理沙の記憶も総矢に向かって流れていた。


『お気の毒ですがご家族の皆さんは……』

『……嘘、でしょ?』

『ご両親の遺体は損壊が激しく、その……ですがお兄さんのご遺体だけでしたら……』

 顔にかけられた布を外し、見覚えのある顔が目の前に現れる。

『兄さん! うぅっ、どうして、どうして私だけ……1人にしないでよ……』

 病室のドアが開き、警察官が遠慮がちに理沙に話しかける。

『こんな時にすみませんが、何かご存知であればお教え頂けないでしょうか? その、まだ犯人が捕まっておらず……』

『おい、ちょっと君! 彼女は目が覚めたばかりだ精神的に落ち着くまで待ちなさい!』

『!? どういうこと? 犯人って何! アレは事件なの? やった奴がいるのっ?』

矢口の言葉を無視して警察官に掴みかかる。

『うわっ! お、落ち着いてください。まだ捜査中なので詳しい事は私も知りませんが、事故ではないそうです』

『その話は後日、今はとにかく体を休めて下さい。ほら、君も今日は帰って』

警察官を無理やり部屋の外へ押し出す。

『何よそれ……誰なの? 私の家族を殺したのは誰なのよ! どんな奴なのよ! 先生、何か知っているなら教えてよ!』

『私の個人的な推測になりますが、犯人は普通の人間じゃありません。特殊な力を持った人間です。人間凶器と言っても差し支えないでしょう。そうでもない限りこんな事件起こせやしませんよ』

『だったらその特殊な力っていうのを私にも頂戴! そんな人間、許しちゃいけない!』

『何を言い出すんです? 能力を身に付けるまでに死んでしまうかもしれないんですよ』

『私はもう1人ぼっち……これ以上失うものなんて無いわ』

『覚悟はできているんですね。では……』


(この記憶、やっぱり理沙……どういうことだ? 何故矢口先生が理沙とこんな会話を?)

「総矢、今の……お前の記憶、だよな?」

「え? 火口さんまさか」

 総矢の問いかけに頷く。煉だけでなく、みことと清正も総矢達の記憶の片鱗を読み取っていた。

(俺の記憶が……? 全員に?)

 そこにいた全員が何も、動く事すら出来ずにいた。呆然と立ちすくむ中に、甲高い足音と共に奥の通路から響く。

「誰だ!?」

 いち早く反応した清正が音に向かって叫ぶ。

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