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突入⑧ -叫び-

煉が怒り狂ったように吼える。

「てめぇか……お前ら一体何がしてぇんだ!」

「……」

 女性は無言のまま総矢を睨んでいる。黙ったままの女性に苛立ち、みことが叫ぶ。

「何とか言ったらどうなの?」

「……」

「総矢、こいつも操られているのか?」

「ダメです。能力が使え」

 銃を取り出し総矢に向ける。女性が静かに口を開く。

「あなた達はどうして、どうしてそんな事をするの? 能力は、手に入れた能力で誰かを傷つけて、殺して……いい加減にして!」

 顔を歪めて話す女性は泣きそうだ。構えた銃が小刻みに震えている。清正が怪訝な顔して尋ねる。

「殺しにきてるのはそっちだろ? 俺達はただお前達がやっている能力の研究を止めさせるために動いているんだぞ。それを……」

 清正が一歩前に踏み出した瞬間に銃声が響いた。清正の足下で銃弾が跳ねる。

「嘘つかないで。ここで行われている研究はあなた達を止める力が必要だったからよ! だから私は協力した、他の人も皆! 全てはあなた達を止めるために! 私の家族を殺したのもあなた達しかいないのよ。私はあの航空機テロ事件の犯人を絶対許さない!」

 女性は叫びながら涙を流していた。清正も煉も言葉を失っていた。その中でみことだけが冷たい目を向けていた。

「世間知らずのお嬢様なのね。そんな事だからいい様に利用されるのよ」

 女性が目を丸くして銃をみことに向ける。能力が使えない状況下であっても怖気づく事無く、みことは言葉を続ける。

「何驚いてるの? 私だって航空機テロでの生き残りの被害者よ。客室乗務員だったわ」

「……テロ起こした張本人が生きてても不思議じゃないわね。能力者なんだし」

 みことが頭を抱える。一つだけ女性に尋ねる。

「私は3人助かったって聞いたわ。あんたもアレに乗ってたの?」

「そうよ。あなたの話が本当ならもう1人あなたの協力者がいるって事ね」

 考えながらずっと黙っていた総矢がようやく口を開く。

「……お前、理沙か?」

 女性の表情が一瞬硬くなる。直後に怒り狂って叫ぶ。

「あんたは……兄さんのフリをするな! どれだけ私を怒らせるつもりなの!」

 絶叫と共に総矢に銃を向けて発砲した。銃声が響き渡る。が、銃弾は床で跳ね、無人の後方へと飛び去った。身動きを取ることなくその場に立っていた総矢は、一歩一歩前進する。

「やっぱり、理沙なんだな。生きてた……俺だ、鍵矢だ、正真正銘お前の兄貴だ。俺も生きてたんだよ……」

「コイツ、まだそんな事を! 兄さんは死んだの! あなた達に殺されてぇっ!」

 銃撃が部屋に響く。銃弾が総矢の左腕を貫通し、床を赤く染めた。よろけて立ち止まりはしたが、再び前進を始める。痛みも忘れて迫り来る不気味な総矢に怯え、女性はたじろいで後ずさる。

「信じてくれ……俺だ、理沙。理沙……」

「い、いや……いい加減に! その顔で、その声で……死んでよ、もう!」

 目を閉じたまま再び銃を総矢に向ける。目を閉じ、指を構えたのを見た清正が駆け出した。総矢が手にしていた棒を奪い、総矢を突き飛ばす。銃弾が総矢の耳を掠める。

「落ち着け、死ぬ気か! 説得なら後だ!」

 清正が身構える。その清正に向けて銃を向ける。

「いい加減にするのはあんた達よ!」

 清正と総矢に気を取られている間に回り込んだみことが跳びかかる。女性は押し倒され、銃が床を滑る。清正もすぐに駆け寄る。

「いい加減にするのはあんたの方でしょ!」

「この……テロリストがっ!」

 女性が叫ぶと同時にみことの体が痙攣した。力なく崩れたみことを押しのけ、女性が立ち上がる。冷たい目でみことを見つめている。遅れてみことが起き上がろうと手を着く。

「電気……力が、入らない」

「暫くはまともに動けないでしょう。悪いけどあんた達には容赦しない」

 みことの頭に手を向けて電撃を放たんとした瞬間、清正の放った水が二人の間に割り込む。みことの『電気』の言葉を聞かなければ間に合わなかった。

「また邪魔を。でも今なら……」

 女性は左手を水に突っ込んだ。その直後、水が瞬時に蒸発した。女性の手には炎が灯っていた。すぐに右手を清正に向けて電撃を放つ。再び放出した水で防ぐ。

「炎も使えるだと? しまっ」

追い打ちで放たれた炎球ですぐに蒸発させられ、盾を失った清正に激しい電撃を浴びせる。以前の威力と比較にならない強烈な一撃に、清正は意識を失って倒れた。手にした棒は清正の手元から離れ、床を転がる。

「もういいでしょ? あなた達は許されない罪を犯したの! 裁かれなきゃいけないのよ!」

「勝手な事を言ってんじゃねぇ!」

 煉が壁に肩を預けながらも炎を広範囲に展開させ、女性を包み込んだ。徐々に炎の壁が迫り来る。だが、炎の壁の中から放たれた一筋の閃光が煉を貫く。煉は悲鳴をあげることもなくその場に倒れた。元々の深い傷に加えて、容赦のない一撃は煉の意識を一時的に飛ばすには十分だった。

「……この力さえあれば、お父さんもお母さんも、兄さんも……」

 誰に言うでもなく自然に言葉が漏れる。頬を涙が伝う。傷つき倒れる清正達を見て総矢は愕然としていた。

「理沙……どうしてこんな。やめてくれ、やめてくれよ……俺の話を」

 涙ながらに訴える総矢を見て、女性の涙が止まった。

「もう黙ってよぉ! 嫌、嫌! あんたは、あんたなんか私の兄さんじゃない! 勝手に名前を、呼ぶなぁぁ!」

 女性は激しく肩を上下させて呼吸していた。両手で耳を塞ぎ、頭を左右に振る。落ち着いたかと思いきや、視界に入った銃を拾う。

「能力で殺したりしたら、あなた達と同じになっちゃうもんね……」

 銃を総矢に向けて、引き金に指をかける。手は震え、涙を流しながらも口元には笑みを浮かべる異様な姿に総矢は言葉を失う。

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