突入⑤ -足止め-
肉体強化された二人の子供は煉では無く、みことと総矢目掛けて走る。
「ちょっと、こっち来てるわよ!」
煉の脇をすり抜けようとした少年の脇腹を手加減せずに蹴る。少年は倒れたものの、蹴られた腹部を抑えながらすぐに起き上がる。立ち上がると再びみことに向かって突撃を始める。
「このマセガキが……女追いかけるのは10年早ぇよ」
少年の正面に回りこんだ煉が総矢に借りた棒で思い切り振り下ろす。少年は不気味な笑みを浮かべたまま右腕で受け止める。堅い物同士が奏でる独特の高い音が響く。
(やはりな……それなら)
煉は下がって炎で少年を囲う。少年は狙いを定める事も出来ず、ただ立ち尽くすしかない。炎の中、上から飛んできた棒を硬化させた腕で防ぐ。だが、弾いたと同時に首に衝撃を受け、少年は気を失って倒れた。
「やっぱ、肉体の硬化は自身でしか出来ないみてぇだな。不意さえつけば楽勝だ。よし、次だ」
煉は続けて総矢へと視線を移す。数発の打撃を受けていたものの、総矢には余裕があった。武器を手にした煉が駆け寄るのに気付き、総矢は体勢を低く構える。
「火口さん!」
「任せろっ!」
横に薙ぎ払う攻撃を両腕で受け、少女は一メートル近く飛ばされた。煉が更に追い討ちをかける。煉は一撃一撃に力を込めて打ち込む。少女は防戦一方ではあるものの肉体を硬化させていた事もあり、無傷だった。
「総矢!」
後へ回り込んでいた総矢に向かって煉が叫ぶ。総矢の方へと視線を向けた少女の隙を逃さず、首筋に打撃を入れた。重い一撃ではなく、意識を奪う最低限の威力で。それでも崩れ落ちる少女に慌てる総矢を見て、弁解する。
「加減はした。あと2人いるんだぞ」
「わ、わかってます」
二人の能力者の子供に相対していたみことに総矢達が駆けつける。
「あの子達の能力は弱いわ。ただ電撃を放つ事しか出来ない上に、意識を飛ばす威力も無いわ。持続時間も20秒程度しかない。さっきの2人のサポート程度の役目だったみたいね」
「この戦力でってことは、目的は俺達の時間稼ぎですね」
「よし、力押しで一気に蹴りをつけるぞ。大塚はそのまま攻撃を続けろ。総矢はとにかく撹乱しろ。意識を飛ばしたら勝ちだ」
先程と同様に総矢が注意を誘い、煉が意識を奪う。みことの攻撃もあり、すぐに二人の意識は無くなり、部屋には静けさが戻る。
「終わったわ」
「総矢、能力でガキ共の状態と清正の様子を調べろ。この扉、今からぶっ壊す!」
気合いを入れて掌をかざす。煉の全身から炎が噴出し、一点に集中する。だが、ゆらゆらと炎は揺らぎ、なかなか収束しない。
(『……能力の妨害か。しかしどうやって? よし、今……』なんだ? 途切れた?)
電話中のノイズのように清正の思考がかき消される。
「何かやばそうです。急いで下さい」
「こっちも調子宜しくはなさそうだが……よし、いけるな」
総矢の言葉と同時に煉は温度を高めた炎を作り出し、破壊を開始する。数分後、溶かして薄くなった部分に蹴りを入れて、人が通れる最小限の穴を開けた。