突入④ -分断-
「どういうことだ? 何故腕が治って……」
「『その他』は下がってろよっ!」
左腕を突き出し、突風を巻き起こす。男の腕が完治していた事に気を取られていた総矢達は後方へと吹き飛ばされた。だが一人、清正だけは男の部屋の中に引き込まれた。十分に後方へ押し返したのを見て、男は右腕を上げて合図を出す。体勢を立て直している間に、扉が閉ざされる。
「まずい、分断される! 水谷さん!」
清正は総矢達の方を振り返ることなく、身構えていた。僅かでも男から目を離すことは出来ない。扉が閉まる直前その後姿に向かって叫ぶものの、清正に声が届いたかどうかは定かではない。
「くそっ!」
「ねえ、そんな事言ってる場合じゃないみたいよ」
みことの言葉に、煉と総矢が後方に視線を向ける。先程は気が付かなかったが、両脇にある小さいドアが静かに開く。身構えた三人の前に現れたのは小学生くらいの子供が四人だった。子供達は虚ろな目で下を向き、肩を揺らしながら総矢達に歩み寄る。
「子供……?」
「目つきの悪ぃガキ共だ」
「タダの子供って訳じゃなさそ……ぐっ」
総矢が子供達に向けて能力を発動させた瞬間、以前に感じた頭痛に苦しむ。その間に四人の子供達は目を見開き、駆け出す。口元は不自然に両端がつり上がり、不気味な笑顔で迫る。二人は子供とは思えない速度で総矢とみことに対し、距離を詰めた。みことは突進を完全には避けきれずに左腕にしがみ付かれた。総矢は頭痛と、視線を外したために反応が遅れて少女に腹部に飛びつかれた。
「な、何よコレ、どういうこと?」
みことの右腕に飛びついた少年はみことの目から視線を動かさず、振り払おうと体を捻る間にも不気味な笑みを向け続けている。左手でみことの腕を掴みながら右手を振りかぶる。その間に別の二人がそれぞれみことと総矢に向けて掌を向けている。
「大塚っ!」
煉がみことに足払いをかけた。みことは男児ごと倒れ、その頭上を一筋の閃光が駆け抜ける。総矢も無理矢理倒れこみ、直前で回避していた。倒れ込んだ二人に畳み掛けるように再度狙いを定める。
「させるかっ、このクソガキ共」
煉が炎で離れた位置にいる二人の子供を威嚇し、攻撃を防ぐ。
「この、離れなさいよ!」
「くっそ。何だこの力?」
力任せに引き剥がそうともがく。だが、総矢でさえ少女をなかなか引き剥がせずにいた。みことにしがみ付いていた少年がみことの顔面に向けて拳を振るう。首を傾け、ぎりぎりで避ける。人体では考えられない甲高い音が響いた。思わず総矢も目を向ける。
(今のは? まさかこの子達は!)
総矢は自分にしがみ付く少女に視線を戻す。かつて遺伝子研究所で戦った男、人体実験の被験者を思い出す。
(そんな……アレと同じ……)
肩が震えた。怒りと悲しみに歯を食いしばる。少女が不気味な笑顔のまま繰り出す拳を紙一重で避け、攻撃に片手を使う間に振りほどいた。だが、立ち上がった直後に背中から電撃を浴び、体が硬直する。その隙を逃さず少女が総矢の腹部に強烈な一撃を入れる。
「総矢! ていっ!」
総矢に気付いたみことが炎を自身の右腕に纏う。能力の発動に気付いた少年はみことから距離を置く。離れたと同時に纏った炎を総矢に再び迫る症状に向けて放つ。総矢から離れ、炎を避ける。
「畜生……畜生……」
総矢は膝を着きながら、少女を睨みつける。少女が憎い訳ではない。人体実験という行為に、何かしらの方法で意思を奪い操る行為に憤りを感じていた。
「総矢! あの子達から何か分からないの?」
「駄目です。頭の中がぐちゃぐちゃです。記憶も何もない。火口さん、あの子達は」
「分かってる、この前と同じだ。だがあんまり甘い事言ってらんねぇぞ。その2人は肉体が大人以上の化け物だし、あっちの2人は『見覚えのある能力』を使ってくるぞ」
何かしらの方法で操られている事は明白だ。だが、戦闘においては大人をも圧倒するであろう目の前の子供達を無力化しない限り、その対処も満足に出来そうにない。
「総矢、お前子供殴れるか?」
無言でいるだけで煉には十分満足いく返事だった。
「だよな、お前はそれでいい。大塚、お前にあっちの2人任せる。俺達に攻撃が正確に向かない程度に威嚇するだけで構わない。総矢、いつものお前の武器を貸せ。お前は素手でさっきのガキを無理矢理抑えてろ」
煉が前に出た。