突入③ -再来-
「何だと?」
「どういうこと?」
煉とみことは信じられない様子だ。総矢を疑う二人を無視して清正は質問を続ける。
「本当だな? そこへの道は分かるか?」
「駄目です。人の存在が認識できるだけなので移動ルートまでは流石に分かりません」
「分かった、とにかく一度合流する」
総矢が能力を使用した地点へと全員が集合した。再度距離と位置を概算し、清正に伝える。その位置情報から清正が部屋、通路のパターンををいくつも想定し、当たりをつけて建物内を探す。その内の一つ、一階の階段に設置されている清掃用具入れの奥に隠し扉があるのを発見した。清掃用具入れは内部の人間が普段利用しない上に、その階段は部屋の配置の関係から利用する人間が限られる位置であった。
「で、見つけた事は認めるがロックは解けるのか?」
隠し扉には指紋認証と暗証番号の二種類のロックが取り付けられていた。清正は悩む事も躊躇う事も無く扉の外側に高圧縮した水で切れ目を入れ始めた。
「解く必要なんかないだろう? 隠してやってる事なんだからこれで警報か何かが作動して困るのは向こうだ。単純にココは扉のロックだけ……よし、切れた」
切り取った壁を手前側に倒す。その先に姿を現したのは細い下り階段の通路であった。その階段を下りながら清正が疑問を口にする。
「総矢、一度目のはどういう事なんだ?」
「俺にも分かりませんよ」
「この数日で使いすぎて能力おかしくなったんじゃないの?」
みことが鼻で笑いながら話す。
「だって普段あんまり使ってこなかったんでしょ? 私は日常的に訓練してたから使わない日の方が少ないくらいよ。でもあんたは急にここ最近に限って多量に使ってたから負荷がかかったんじゃない?」
「そうかもな。だが昨日は殆ど使わなかったんだろう?」
「まぁ。それに、能力の使用に違和感も無い上、能力自体は正常に機能してます。『今回は助ける余裕なんて無いかもしれないな』間違ってないですよね?」
清正の思考を読み取り、そのまま口にした。清正は能力に問題が無い事に安堵しつつも、バツの悪い顔をして頷いた。話しながら歩くうちに階段が途切れ、扉が姿を現した。
「ロックは……無いな。自動ドアのようだが、開かないところを見ると、人物確認をしてから内部で操作して開けるようだな」
扉の上に取り付けられた小型のカメラが四人を見下ろしていた。先の扉と同様に清正が扉を切り裂こうと手を掲げた瞬間、扉が勢いよく開く。煉がにやけながら真っ先に口を開いた。
「客として認められたか?」
「まさか。どうせ止められないから壊されるより自分から開けた方がマシってだけよ」
「どういうつもりかはこれから分かる事だ。とにかく進もう」
開かれた扉の先は幅が広く、天井もそこそこ高い通路だった。両脇に所々設置された非常灯が、総矢達が入ってきた場所が施設の非常口であることを示していた。
「非常口だったんですね。階段だけって時点で正規の出入り口ではないことは想像できてましたが」
「非常口まで用意してるなんてね。この施設、相当大きいみたいね」
通路の先に非常に頑丈そうな金属製の扉が見えていた。煉と清正は軽くノックし、扉の厚さがかなりあることを確認していた。
「これを壊すのは骨が折れそうだな。温度高めじゃないと変形すら出来なさそうだ」
「俺の圧縮水でも1度や2度じゃ厳しそうだな」
「壊す方法しか考えないんですか?」
総矢はここまで力押しで進もうと考えているとは思っていなかったために、戸惑う。
「一番効率がいい方法だからな。俺達は今夜中にここから出るべきだ。そうなると一つ一つロックを解除するなんて方法取っていたら朝までどころじゃすまない。それに、目的の一つにこの施設の破壊も入っている」
「そうかもしれませんけど……」
話している間に音を立ててゆっくりと扉が開く。その通路の先では見覚えのある人物が待ち構えて立っていた。
「何でもかんでも壊そうとしてんじゃねーよ!」
先日の夜、総矢達が撃退した男だ。腕を組み、余裕の笑みを浮かべていた。男の姿を見て全員が驚いた。切断されたはずの男の左腕が元に戻っていた。
「嘘だろ……」
「何で? あの時確かに……」
総矢達の反応は男の期待通りのものだったらしく、男の口元が釣り上がる。
「おいお前、この前の礼をさせてもらうぜ」
清正を指差し、声高々に叫んだ。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
この辺りから一度、書き直していたので投稿が遅れました。
まだ継続して推敲しているのですが極力週1ペースであげていきたいとおもっています。