進展⑮ -作戦会議その3-
長めです
「レイル、さん? 総矢さん?」
珍しく真剣な表情のレイルと総矢に、優衣が心配して声をかける。
「優衣ちゃん。今日はもうあがっていいよ。それと、悪いが今日は俺が総矢借りるよ」
「べべ別に私のものじゃないですよ!」
大慌てで奥へと駆けていく姿を横目で見ながら、レイルが表情を和らげた。
「話って本当は優衣ちゃんと、だったか?」
「こんな時まで悪ふざけはやめて下さい。今日は俺がマジ話をしたいんですから」
そうしている内にすぐに帰り支度を終えた優衣が総矢達の下へ戻ってきた。入口で振り返り、頭を軽く下げる。
「お、お疲れ様でした。それじゃ、総矢さんもまた」
「ごめんな。今日は追い出すような事して。また今度ちゃんと時間作って来るから」
総矢が優衣の頭を撫でる。顔を赤らめながら小さく頷き、右手を差し出す。
「約束ですからね。じゃあ明日」
「はちょっと無理かもしれない。でも絶対すぐに戻ってくるから、その時って事で」
指切りをすると、優衣は手を振りながら店の外へと出て行った。外を見ていた総矢に、何時に無く低い声でレイルが尋ねる。
「それじゃ、そろそろ本題でも聞かせてもらおうか」
「ええ、政府関係者と連絡を取りたいんです。『名簿』にいるなら俺から仕事を依頼します」
「政府関係者? ……仮に『名簿』にそんな奴がいたとして、依頼内容は何だ?」
「中央病院の西にある多目的実験場。あそこについて詳しく知りたいんです」
レイルは首を傾げ、質問を繰り返す。
「何でだ? 政府所有の施設を民間が利用して研究開発しているだけじゃないのか?」
「表向きはそうですが、少し気になる情報を掴んだんです」
「俺が連絡できる政府関係者は使いっ走りだし役には立ちそうに無いな。『名簿』以外でなら少しばかり政府と繋がりがありそうな奴がいるぞ」
「それなら連絡を取って下さい」
「いや、お前が知っている相手だぞ。それの開発者」
総矢の左手の転送装置を指す。総矢はカウンターから離れ、玲子に連絡を取る。
『もしもし。どしたの?』
「お聞きしたいんですが、多目的実験場について聞きたい事があって」
『あー。あそこね。政府所有なだけあって、結構設備充実してるよ。大抵のデータ収集なら出来るから安心して。いつ使う? 研究内容によっては私も見に行きたいかも』
「いえ、そういう事では。少し妙な情報を掴んだんです」
『妙な情報?』
能力についてはレイルに聞こえないよう注意を払う。
「柏木さんも先日会った、炎を操る能力者を覚えていますか? 彼と同様に能力を扱う人間について研究しているという内容です」
『超能力者について? そんな研究は私が知る限りは無かったな……ちょっと待って、調べてから折り返し連絡するよ。それじゃ』
「お願いします」
通話を終え、総矢はため息を吐く。鼻で軽く笑い、レイルが口を開く。
「その様子じゃ、大した事は分からなかったみてーだな」
「ええ、まぁ今の段階では。でも4調べてみてくれるそうです」
「これならさっきの2人を先に帰らせる必要無かったかもな」
「それもそうですね、今更ですが。俺もそろそろ行きます、それじゃ」
総矢は店から出て行った。総矢が出て行った入口を見つめ、レイルは呟いた。
「多目的実験場か……」
総矢がアパートへと戻る直前に電話が鳴る。
『聞こえる?』
「はい。何か分かったんですか?」
『あそこでは多分野に渡って様々な研究されているのは知ってるね? そこで知り合った人に聞いてみた。あくまで噂程度の情報って事頭に入れといて。その人、生物関係研究してるんだけど、一部の団体がここ1年前くらいから『何か』をこそこそやってる、それもどこのエリアでやってるかも謎だって』
「何か、ですか?」
『そう。なんだか分からないけど見慣れない人が急に増えたって。もしそれが超能力だとするならほぼ確実に政府が関わってるね』
「その団体だけが関与している可能性は?」
『利用者は数年毎の契約で人数、使用エリアを厳密に決められている。突然人数が増える事は本来ありえない。それに施設利用をどこでやっているかわからないってことは少なくとも契約で提供されるエリアとは別の場所で行われてるって事だよ。話を聞いた彼は今年で7年目、ひたすら研究ばっかりやっている気持ち悪い奴だけど古株には変わりない。その彼が知らない施設って事は、分かるでしょ?』
「ええ、政府が公表していない施設が中に存在し、それを隠しながら研究している、ですね」
『それで? どうするの?』
「……とにかくその研究はこれ以上させないつもりです」
『それが本当に出来ると思っている? どういう手段を取るつもり?』
「必要とあらば関係者を全員……」
口にしようとした瞬間、遺伝子研究所での事を思い出した。総矢が戦った男も研究の被害者だった。その男は施設を壊し、人を殺していた。それを止めるために男を殺した。だが、今度は総矢がその立場に立とうとしている。総矢は最後まで言葉に出来なかった。
『……ごめん。嫌な質問したね……でも覚悟が必要だって事は覚えておいて。手が欲しかったらいつでも連絡していいから。それと、無茶はしないように。今のままを続けると命は当然、下手すると精神も壊すからね』
近いうちに総矢達が行動を起こす事を見越した発言だった。
「ええ。気遣いありがとうございます、それじゃ」
総矢が電話を切り、煉達の下に向かう。足取りは重くなる一方だった。
(研究を止めさせる……でも、俺は……)