進展⑭ -作戦会議その2-
二人が聞き入っている間に煉が話を続ける。
「俺や清正が能力を持っていることを知っている人間は結構いたとしてもおかしくない。極力人目に付かない様、努力はしているが限界はある。だが、ここ最近入った大塚が能力者だって事を知っている人間はそうそういないはずだ。俺達をマークしている奴がいる、しかもかなり近くにいるはずだ」
「そうでもしないとあたしの能力の事を知り得ないからね」
「まさかスパイがいるっていうの?」
「可能性の1つだ。だが俺は『いた』が正しいと思う。少なくとも生き残っている俺達4人にはいねぇな。それも勘だが」
煉の一言に総矢もみことも固まる。何も言えなくなっていた。
「悪ぃな。だが言ってくべきかと思ってな。だからそんなに心配すんな。俺はお前達を信じてる」
笑顔で言い切る煉を見て、総矢もみことも苦笑いしか出来ずにいた。その間に煉は優衣を大声で呼び、コーヒーを再び注文していた。
「明日、向こうの戦力は未知数で俺達はこれ以上の戦力は望めねぇ」
「そうね。だから極力能力使用は抑えたほうがよさそうね」
「確かに皆さんは戦闘に関してはそうなると思います。ですから戦闘以外の危険防止には俺の能力を存分に振るっていきます」
「そうね。あんたの戦闘は武器を持った一般人レベルより少し上、程度だろうし」
総矢の言葉にみことは納得したが、煉は反論した。
「逆だ。総矢、お前が一番能力を温存しろ。おそらくお前が鍵になる」
「え?」
「どういうことです?」
「お前の能力は『相手の思考を読み取る』だ。情報収集はもちろん必要だが……」
煉がいつになく歯切れが悪い。
「……そうだな、お前の能力の存在を知っている人間が俺達を含めて格段に少ないからだ」
「さっき言ってたスパイの可能性? でもそれなら短期間だけど総矢の事も」
「把握している可能性もある。だがそれを話したのは生き残っている俺、大塚。清正だけだ。能力があることを知っていてもその内容までは把握してねぇかもしれない。敵に極力情報を与えねぇためにも総矢は能力を温存しておけって事だ」
煉はもっともらしく言っていたが、総矢は能力を使わずとも確信があった。
(嘘だ。でも、だとしたら火口さんは一体何を隠してる? スパイの件もあるからな……)
気は引けたが総矢は能力を使った。煉の中で一つの疑問が何度も浮かんでは消えていた。
『総矢の能力は本当に“思考を読み取る”なのか? だが、そうでなければ説明できねぇことが多すぎる。これは伝えるべきか? いや……まだ確証は無ぇ』
煉がスパイではない事が分かったものの、総矢は自身の能力について疑問を持たざるを得なかった。能力を使った瞬間から動きを止めていた煉がゆっくりと視線を総矢へと移す。
「オイ、今能力使ってるな?」
総矢は我に返った。
「は、はい。でも火口さん、俺の能力って……」
「今は分からん。ただ、お前が能力を発動させた瞬間。いや違う、俺の思考を読み出した瞬間に何とも言えない妙な感覚を感じた」
会話についていけないのはやはりみことであった。
「ど、どういうこと?」
「体感したほうが早い。大塚、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ」
言われるがまま目を閉じる。それを確認してから煉が総矢に顎で合図する。
「……あっ。今の?」
みことが目を開け煉と総矢を交互に見る。
「ホントに僅かではあるが、表現に困るな……微かに感じるんだ」
「そうね……頭の中を撫でられる。う~ん、違う。でもとにかく、妙な感じがしたわ」
「俺の『能力』が2人に作用した瞬間、ですか?」
煉とみことが頷く。
「この前の奴もおそらくこの感覚に気付いた。俺達は頭に血が上っていてそれどころじゃなかったしな。確認しておくが、今日までの訓練を含めて能力に大きい変化は無いな?」
「ないですね。能力で今まで変化したのは自分の意思でのON、OFFと訓練での持続時間の増加、有効範囲の制御くらいです。基本は相手の思考を読み取るという本質的な部分については変化なしです」
総矢の能力を話しても、それ以上は仮説でしかない。不毛な話し合いがされる事は無く、三人とも口を閉ざした。
「さて、そろそろ出るか。ごちそうさん!」
「どーも。お会計1200円になります」
レジで精算する煉に総矢が後ろから声をかける。
「火口さん。先に戻ってて下さい」
「ん?」
「少し話が……」
視線をレイルに向ける。煉は横目で一瞥してから
「分かった。程々にな」
と言い残し、店の外へとみことを連れて出て行った。
書けない...書けない...