進展⑬ -作戦会議その1-
翌日、9月9日。昨日と同じ廃屋。総矢達の訓練は午前中で終了した。
「明日に備えて、って事だ。大塚は威力もコントロールもかなり上がったし、総矢の持続時間も十分かどうかは分からねぇが伸びている。後は体を休めろ」
煉は二人に背を向け、歩き始めた。
「どこ行くの? 単独行動は危険よ」
「立ちションだ。先帰ってろ」
手で総矢達が離れるよう促し陰に向かう。総矢は能力で煉の本当の目的を把握していた。総矢は周囲に誰もいない事を確認してから、煉の元を離れる。
「火口さん、自分1人で鍛錬するつもりね?」
「え? 分かってたんですか?」
「分かるわよ。目つきが鋭かったじゃない。それに、見られたくないから私達を遠ざけようとしたんでしょ」
総矢はその観察力に感心していた。
「少し離れて来るのを待ちませんか?」
「いいわよ。後でどこかでゆっくりコーヒーでも飲みたいわね」
「喫茶店で良ければ。俺がよく行くところでしたら案内しますよ」
「ねぇ。話変わるけどさ、あんたはどうするつもりなの?」
「どうって? 何がです?」
「私達は許すつもりはないし、徹底的に潰す。関わった奴らは消す。そのために動いているわ。でもあんたはどこか私達とは違う。実験場に行って何をしたいの? 奴らをどうするの?」
真っ直ぐなみことの視線に耐えられず、総矢は目を逸らす。
「……行ってみないと分かりません」
「言うと思った。でもね、先に言っておくけど躊躇したら死ぬわよ。それはあんたじゃないかもしれない。あんたの周囲にいる人間かもしれない。それだけは頭に入れておいて」
「誰も殺したり、殺されたりしないのが理想なんですけどね」
「どう頑張ってもそれは無理」
総矢にもそれは分かっていた。その返事をすること無く、互いに言葉を発することは無くなった。無言のまま時間が流れ、足音が聞こえる。
「どうやら気を使わせちまったみたいだな」
煉が何とも言えない顔をしながら現れた。
「じゃ、コーヒーは火口さんの驕りね」
「分かった分かった」
「それじゃ行きますか」
「へ~い。いらっしゃい……? へぇ、客連れて来るとは感心だ」
戸を開けると、やる気の無い店主の挨拶が聞こえる。
「じゃあ」
「安くはしねぇぞ」
総矢の発言を先読みし、値切り交渉を拒否した。総矢達は大人しく奥のテーブル席へと腰掛ける。盆に水を乗せた優衣が席へと近づく。
「ご注文はお決まりですか?」
全員がブラックを注文し、優衣がカウンターへと戻る。その少女に聞こえない程度にみことが話しかける。
「よく来るのはあの子が目的ね? このロリコン」
総矢が水を噴き、咳き込む。その様子を見て煉も心配そうに尋ねる。
「大丈夫か? 図星だからってそんなに動揺するなよ」
「ち、違います!」
「そうなの? 本当に?」
みことの妙な視線に困り、総矢は黙り込む。
(何で毎回この流れなんだ?)
「それは置いておいて、客が少ないのは好都合だな。いろいろ話が出来そうだな」
煉が唐突に真面目な話を始めた。
「大塚の能力を知っているのは俺達、それとあそこの医者だけで間違いないな?」
「そのハズよ。あんたの方が病院に長くいたんだし、補足があったら言って?」
「少なくとも俺が話したのは矢口先生だけです。知られていたとしてもごく一部です」
煉は頷き、今度は総矢に視線を移す。
「お前の能力の事を知っているのは?」
「え~と、話したのは情報屋の皆さんと柏木さん、それとそこの店主です」
煉とみことが揃ってレイルに顔を向ける。新聞を広げ、客商売をしているとは思えない程寛ぎ、煉達には気付かない。みことは総矢に矢継ぎ早に質問をぶつける。
「え? なんであの人に教えたの? というより教える必要あったの?」
そんなみことを無視して、煉は納得してから尋ねる。
「……へぇ。総矢、誰からここのこと聞いたんだ?」
「え? 矢口先生です。目が覚めた俺が家族のこと調べるならまずここに行けと言われたんです」
「へぇ。あの医者もなかなか良く知ってるじゃねぇか」
総矢の回答に感心する煉。その横でみことが不満そうに口を開く。
「ねえ。一体何の話? 説明は?」
「ここは……」
総矢が簡単に説明する。表立ってではなく動いている人間が集う場所であり、自分がここに登録されている人間であること、能力を使って仕事をしてきたことを。次いで煉が、店については知っていたが、清正が不用意に深く関わるのは好ましくないと判断したために仲間内にも話してはいなかった事を説明した。
「なるほどね。あんたが持ってたそれもここで貰ったんだ」
みことが総矢の転送装置を指で付いている間に煉が再び話を進める。
「話を戻すぞ。この前の襲撃で『能力者以外の人間だけ』が最初の標的だった。つまり、相手は俺達が能力を持っていることを知っている」
各話毎の文字数が増えてる気が……orz