進展⑪ -情報整理-
翌日、九月八日。煉に叩き起こされて総矢は目を覚ます。動かなくなっていた体は目を覚ました時には普段以上に軽く感じる。
「これ……」
「体が軽いだろ。試しに能力で俺の思考読んでみな」
黙って頷き、総矢は煉の思考を読み取る。能力のONへの切替が自然に出来る。
(アレ? 切替が軽い)
「限界まで能力使ったおかげで体が慣れたんだ。今までは限界になった時、体が勝手に休息状態に切替わってたんだが昨日はそれが出来ない状態に追込んで鍛えたんだ。話はこれくらいにして行くぞ」
三人が清正の病室へ到着した時には既に依頼を受けた柏木玲子がいた。
「来たね。三人が来る前に矢口先生の協力で、根元部分の接合は完了したよ」
清正の左前腕部には金属部品が数点埋め込まれていた。
「で、後は先端を取り付けて軽く調整。だね」
転送装置で機械の腕を取り出し、清正に装着させる。腕の外見は機構部分まで見える造りだ。
「はい取り付け完了。それじゃ腕の捻り、手首の動き、指先の曲がり具合を確認して」
言われた通り、腕の動きを何度も動かして慎重に確かめる。生身の右手と比較しながら動き易さを細かく確認する。
「ひねりに異常は無い。手首と指の動きが少し重い、様な気がするんだが」
「手首と指だね。ちょっと待って……うわ、パラメータずれてる。すぐ直すよ……これでどう?」
取り出した機材でさっさと調整を行った。
「ああ、自然な感じがする。しっくりくる」
「そう。じゃ、私の仕事は一先ずここまでだけど、問題があったらまた連絡して。この前の恩もあるし無料でメンテナンスくらいは請け負うから。徹夜で眠いから今日はもう電話に出れないと思うけど許してね~」
さっさと片付けて玲子は病室を後にした。病室に残った四人に張り詰めた空気が流れる。
「清正、能力は?」
「問題ない程度には使える。心配するな」
「ならいい。話を進めるぞ。清正、最初に説明するがこの前の先頭の直前に総矢に能力を使わせた結果、総矢は倒れた」
「それで?」
「俺たちが把握してるのはここまでだ。総矢、話してくれ」
煉に促され、総矢は読み取った記憶のかけらを整理する。深呼吸した後、総矢は話し始めた。
「まず、彼のあの風の能力についてですが。あの人の能力は人工的に身に付けられました」
三人の表情が強張る。清正が尋ねる。
「人工的に?」
「はい。彼は、彼らはある組織の一員です。その組織は多くの人間を集めて、篩いにかけて能力者を生み出しています。先に会った女性は新人、つまりは能力者になりたてです」
「『その篩いにかける』っていうのは? 一体何をして能力を身に付けたの?」
みことが思わず声を荒げる。
「身に付けさせるのが火の能力であれば生きたまま炎の中に、風の能力ならば竜巻の中に放り込み、水であれば溺れさせる。大多数はそれで命を落とします。ですが、極稀に生き残る者がいます。低い確率でその生き残りの中に能力者が誕生しているって方法です」
静まり返った中、煉が口を開く。
「その方法で今まで何人の能力者を生まれたか分かるか?」
「組織で彼が言われた事が事実ならば彼が6人目です」
清正が重い口調で話す。
「その分、犠牲者は相当な数になってそうだな……」
総矢は口にするのを躊躇い、目を横に逸らす事しか出来ずにいた。
「すまん、続けてくれ。まだ入手した情報はあるだろう?」
「この前、あの建物を襲撃したのはその組織からの命令です。命令内容は『情報屋を壊滅させること』、そしてその命令での処分対象、言い換えれば標的は『能力者以外』でした」
総矢の一言に空気が更に重たくなる。矛盾に気づいたみことが慌てて尋ねる。
「ちょ、ちょっと待って。でもそれじゃおかしくない? 女が逃げた後、『1人も始末出来てない』って言ってたじゃない。私達は標的じゃないんでしょ?」
「その組織の最終的な狙いは『情報屋』の完全消滅。向こうは情報屋に能力者がいるのは把握していました。能力者を殺すのは手間がかかると判断し、最初にそうでない者を全て殺しすことで俺達を誘い出し、罠にはめたんです」
「あの女が俺達を罠で殺すつもりだったが、失敗したわけだな」
「だが彼女の引き際の良さは見事だった。俺達に能力をある程度引き出させて既に分析しているだろうな」
「私達の能力を引き出させる事が目的だったの?」
総矢が頷き、続きを話す。
「その後現れた男に再び与えられた命令が、残りの能力者の『処分』でした。結果的には一昨日の2人は共に命令を実行できなかった訳ですが。これが最後の情報ですが、彼らが拠点にしていたのはこの病院から西に行った所にある多目的実験場です」