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提案

 志井鍵矢という人間はテロ事件で死亡している。そのためこれまで鍵矢の簡易的な入院記録やカルテ等のデータは矢口が勝手に作り上げた架空の人物、石井健也として登録していた。矢口の案というのは『石井健也はすでに退院し、帰ったことにする。それと同時に鍵矢本人は別の名前を使い、DNA申請を含めた正式な登録を行うことで新たな人間に生まれ変わる。』というものである。


「強要はしません。ですがこのままでは君も危険ですし、この先我々も安全とは言えなくなるかもしれません」

 鍵矢は黙って聞いている。

「病院外で何らかの登録や申請を行うときにも融通が利くようになりますよ」

「分かってます」

 鍵矢は口を閉ざして悩む。しばらく黙った後、静かに口を開く。

「それでも、俺は志井鍵矢なんです。やはり自分自身を捨てるのは抵抗があります……」

「もっともです。ただ、それは『社会的に』の話です。実際に名前を変えることで君自身が変わるわけではないのでしょう?君が自分で志井鍵矢であることを認めてさえいれば何の問題も無いでしょう?」

 真顔で話す矢口の言葉には説得力があった。

「いや、でも……そうですね。先生の提案通りにします」

 納得はしたくなかった。だがこの方法を取ることが一番だと自分に言い聞かせ、矢口の提案を受け入れることを決意した。

「分かりました。すぐにでも登録してしまいたいので新しい名前を考えてください」

「今ですか?」

「今です」

「……」

「…………」

 腕を組み、考え込む。長くなる気配を察知して矢口は、

「仕方ないですね。登録は明日にしますので今日1日じっくり考えて下さい」

 そう言い、立ち上がる。鍵矢が部屋を出る直前、矢口は確認した。

「当然ですがこのことは他言無用でお願いします。病院関係者にも、です」

「分かってますよ」


 部屋を出た鍵矢は自分の病室へは戻らず、そのまま病院の外へ出た。

(俺は……志井、鍵矢だ…………でも……)

 空を見上げて立ち尽くす。夏日の快晴。空が蒼い。

(俺は、どうなるんだろうな。これから何をしていくんだろう……)

「何をしているのかしら?」

 鍵矢を見つけた同室の老婆が近づき、声をかける。老婆と病室以外の場所で言葉を交わすのは初めてだ。

「今検査が終わって部屋に戻るところだったのよ。でもあなたがいるのを見つけて連れてきてもらったのよ」

 老婆は車椅子に乗っていた。普段ベッドにいるところしか見ていない上に、常に元気そうに微笑んでいるために、老婆が足を病んでいたことをついつい忘れかけてしまう。

「そうですか」

 鍵矢も老婆に笑顔で応える。後ろで車椅子を押していた看護師に『同室だから後で部屋まで連れて行く』と告げ、老婆と二人、入り口のすぐ外に残った。

「何か悩んでいるみたいね。私でよければ相談に乗るわよ」

「ありがとうございます。……少し、退院した後について考えていました」

 言いながら再び空を見上げる。

「俺は……これから何をすればいいのかなって」

「若いんだから何でも出来るわよ。まだ20代でしょ?したいことをすればいいの」

「22です。したいことですか。それはそれで難しいですね。」

 視線を自分の影に落とし、難しい顔をして老婆に尋ねる。

「……もし、自分の家族が殺されたとしたら、その家族は無念を晴らしてもらいたいと思うでしょうか?」

「そうね。私があなたのご両親だったら無念でたまらないと思うわ。でも無念を晴らす、っていうのは多分あなたが考えていることとは少し違うかもしれないわね。」

そう言いながら老婆は鍵矢から空へと視線を移す。

「少し、長い話をしてもいいかしら?」

「はい、構いません。ただ……あの木陰に移動してからにしましょう」

「そうね。今日はいい天気でとても暑いものね」

 老婆の車椅子を押し、鍵矢は少し離れた木陰へ移動した。

展開が遅くてすみません。

病院滞在はあと2話くらいで終わりにするつもりです。


だんだんキャラが壊れていきそうで不安を感じてます。

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