進展⑥ -回収-
『総矢! 外に誰か出てきてないか?』
「水口さん。それが、今逃げられました。引き留めようとしたんですが」
『クソッ……仕方ないか。俺達もこれから外に出る。安全に出られる出口はあるか?』
「大通りと逆側の窓の二階からなら。今サイレンの音が止まったの分かりますよね? 消防が到着しました。急いで下さい」
『ああ。お前は念のためもう1度近くに隠れてろ』
通話を終え、総矢は再び路地に身を潜める。一分もしない内に先程の窓に人影が現れ、開けっぱなしの窓から三人が次々に出てきた。それを確認した総矢は路地から出て歩み寄る。
「総矢、奴はどっちへ向かった?」
「あの角を曲がった所で見失いました」
「……使えないわね」
「聞こえてますよ。能力使われたら俺だって追いつける訳ないじゃないですか」
「よし、分かれて探すぞ!」
(俺はもうこれ以上は能力を使えないし、役には立てそうにはない)
煉の一言に総矢は顔を曇らせる。だが、清正は頷くことなく視線を総矢の後ろに向ける。
「待て。その前に、だ」
暗い中でもハッキリと認識できるほど派手なシャツを着た男が立っていた。細身の男は無表情のまま総矢達を見ている。
「あの女、結局1人も仕留めてないじゃねぇか。爆破で仕留められなかったのは仕方ないとして、自分の能力で誰かを殺す覚悟なんてまだないみたいだな」
肩でため息をつきながら、不満げにそう口にした。煉が声を荒げる。
「さっきの奴の仲間だな」
「当たり。用件は分かるか?」
「私達を完全に潰す事かしらね?」
男は答えずに歯を見せる。すぐさま清正とみことが身構える。そのやり取りを行ってる間に煉が総矢に目で訴えかける。
(能力使えって事ですか? もう限界なんですよ、ってそんな睨まなくても……分かりましたよ、後は頼みますからね。こうなりゃもう……一気に頭ん中、全部見せてもらうぞ!)
総矢は能力を発動させた。これまでに無い程全力で男の頭を覗き込む。朦朧とする意識の中、体をふらつかせながら読み取る思考を頭に刻みつける。
(組織……調査……能力者、新人……命令……処分対象……あ、もう無理……)
総矢の意識はその場で途絶え、冷えたコンクリートの上に倒れ込んだ。
「どうした、総矢?」
「ちょっ、何やってんのよ!」
「2人はあいつをどうにかしてくれ。総矢は俺が何とかする」
煉が気を失った総矢を担いで立ち上がった。男は左手で自分の頭に触れ自身が感じた妙な感覚確かめるために思考を巡らせる。
(今の感覚は何だ? それに今、アイツ何をした? 前触れなく突然倒れた。気を失ったとはいえ表情は自然、呼吸が乱れた様子もない……そうか、だからアイツだけ)
煉は相手を二人に任せ、その場から離れようと背を向ける。
「ちょっと待て。そこの男は我々が回収ささえてもらう」
「何を言って」
言葉を遮る突風が煉を襲う。予測不能な強風に態勢を崩して煉は総矢から手を離した。
「やべっ、すまん総……は?」
総矢は地面に横たわることなく宙に浮いていた。その体が突風にあおられ、空高く上昇した。
「ハイ回収、と。お前らは死んでいいから」
男は右腕を大きく水平に振った。清正はいち早くそれに反応し、男に向かって水流を放出した。水流が上下に割れる。
(やはりっ!)
総矢に目を取られていたみことの頭を掴み、地面に押さえつけた。と同時に立ち上がろうとする煉を制止する。
「煉っ!」
瞬時に理解し、煉も体勢を低く保つ。
「おぉお~すごいな。こりゃああいつじゃ仕留めきれねぇ訳だ。咄嗟の判断力、それに合わせた対応の早さ……いいねぇ、やっぱこうじゃねぇと楽しくねぇよな!」
最近のゲリラ豪雨は特にヤバイですね。
ゲリラ豪雨に限らず危険な地域もあるようですが。