進展② -着信-
清正たちのアジトはレイルの店からすぐ近くだった事もあり、総矢はすぐに到着した。
「来たか、総矢」
入り口のところで清正、煉、みことの三人が待っていた。様子がおかしい。
「何があったんですか?」
「仲間が殺された」
総矢は固まった。文字通り瞬きもせず、呼吸すらできずにいた。清正が続ける。
「俺も直接見たわけじゃない。生き残っていた1人から聞いたんだが、俺と大塚さんがいない時に何者かがココに侵入したらしい。抵抗する間も無くそいつが暴れ回って下から順にフロアにいた仲間を……」
清正の言葉が詰まる。煉が横から口を挟む。
「帰りにお前から聞いた、『通信の監視』ってのが原因でその連絡先だったココを標的にした可能性が高い。俺達はこれからもう一度あの工場へ向かう、お前も来い」
三人に会った瞬間、おかしいと感じた原因が分かった。怒りで表情が険しい事もあるが、何より全員、周りが見えなくなっている。普段冷静な清正までがここまで怒りを顕にしているのがその原因の一部であった。
「ちょっと待って下さい! 少し冷静に……」
「は? 何言ってんの? 仲間がやられたのよ! こんな理不尽な事、絶対に許しちゃいけない! やった奴は徹底的に苦しめなきゃ気が済まない!」
他の二人もみことを止めるつもりはなかった。
「同感だ。直接やった人間、指示した人間、どちらも許す気は無い」
「あぁ、構わねぇだろ。そうしなきゃ気が収まらなねぇよ」
(ダメだ、聞く気が無い。どう説得したら……?)
総矢は必死で考えを巡らせる。とにかくこの状態の三人を行かせると、手当たり次第暴れ、怪我人がでる程度では済まない事は目に見えていた。清正が怒りで冷静さを失い、頭が十分に働いていない事を期待し、誘導を試みる。
「分かりました。俺が行きます。ただ、4人も行く必要はないと思います」
総矢は玲子と煉を順に見た。
「何それ? 私達は必要ないって? 私は今すぐ行かなきゃ気が収まら」
「人数に関係なく、俺が行けば情報は十分に得られます。それに今の皆さんが全員で行ったら間違いなく状況が良くない方向へ傾きます。あんな事があったばかりで警備は厳重になっている上に、火口さんは能力を使用していて、戦力が少し欠けていることもあります」
「てめぇよりよっぽどマシだ。まだ3時間はぶっ続けで戦える!」
煉の反論を無視して話を続ける。
「怒りのままに暴れてしまったら、無関係な人にも被害が及ぶかもしれないんですよ?」
「……言いたい事はそれだけか?」
沈黙の後に口を開いたのは清正だった。
「関係無い被害が及ぶ? あそこにいる奴らは全員加害者だ。止めるつもりも無い!」
「それをやったら向こうと同じじゃないですか!」
「先に手を出したのは奴らだ! 受けた分は返す!」
「そんなこ」
電話の着信が言い争いを遮る。清正の携帯だ。発信元の名前を見て清正の表情が強張る。
「清正? 誰からの着信だ? いい加減早く出……」
後ろから覗き込んだ煉も目を丸くしていた。発信元は煉も死亡を確認した仲間の一人だ。
「もし、もし……」
『やっと出ていただけましたか?』
携帯から聞こえる音声は、人間の肉声ではない。声を変換させているために、妙に高い。
「お前は誰だ? どうしてその携帯を持っている?」
話しながら清正は煉に目で合図する。煉は黙って頷き何かを取り出した。
『今日拾った物なのでご連絡を差し上げたのですが』
「拾っ……まさかお前」
『本日そちらにお伺いした内の1人です。もちろん携帯を拾うために伺った訳でははありませんが』
「今どこにいる? 答えろ! 今すぐ潰しに行ってやるよ」
『ハッ……言うとは思っていないだろう? 逆探知までしっかりやってるくせに』
そういい終わると通話が切れた。清正は携帯を握り締め、歯を食いしばる。
「煉、場所は?」
「逆探知はできた。場所は近いぞ、あそこだ!」
煉が指差した先に大きな建物が見える。当然総矢達を見ている人間は確認できない。
「行くぞ」
総矢が止める間も無く三人は駆け出していた。
(しまった。油断した)
慌てて総矢も後を追った。