調査終了
「で、何であいつらが知らねーんだ?」
車内で唐突に煉が口を開いた。
「あそこの人達はただの雇われ警備員です。一時的に拘束して、引取りに来た業者に引き渡すだけが仕事。引渡し相手についても、十分な情報を持っていませんでした。あそこの研究員の方々も噂程度にしか知らないようでしたから誰が知っているのか、という事もよく分かりません」
煉はしばらく考えていたが、総矢は言葉を続けてその思考を遮る。
「もちろん上層部の方々を少々『説得』すれば話を聞けると思いますが、大事になると思います。流石にそれは避けたほうがいいと思います。ちなみに引渡し相手は不明ですけど、毎回警備室についている固定の直通連絡で毎回引き渡し時に異なるパスワードを決めて確認していました」
更に都合がいい事に、警備員の一人がその連絡先を調べた事があった。工場内部である事は間違いなかったが、結局連絡先は見つけられなかった。その話を終えると、総矢は煉に潜入時からの一部始終を報告した。次いで玲子も詳しく事情を説明する。
「盗まれたって言ったけど、おそらくそれは政府の指示。証拠は無いけど条件はそろってるしね。その上アレを兵器転用のために提供したって情報を流出させたのも政府。多分研究員の女性を操ってあそこから持ち出そうとしたのも同じ組織」
玲子はそれを防ぐために持っていたものの大半を破棄していた。
「父も祖父もきっと私と同じ事を同じ事をした。人を傷つけ、不幸にするためのものに成り下がるくらいなら無い方がずっといいって教えられてきたから」
総矢は返答に困り、黙って聞いていた。
「話は変わるけど、どこまで乗せていけばいいのかな?」
沈黙を破った質問だが、再び社内が静まる。煉は腕組みをして硬く目を閉じ、唸っている。
「ねぇ、聞いてる?」
「……まぁ仕方ねぇんだが、ちょっとこの後時間くれるか?」
「デートのならお断りだけど?」
玲子の回答に煉はため息をついた。
「違ぇよ、真面目な話だ」
煉の真剣な表情を横目で見て簡単に答えた。
「アンタ達に関しては何も言いやしないから安心して。今回は色々と世話になったし。というか今度改めて礼はするよ」
「その言葉だけで信用していいもんか悩んだ結果がさっきのお誘いだ」
「無理。今日は流石に帰りたいから。明日でいいかな? というか私も当事者なんだから人に話したらイイ事無いってのは分かってるつもり。それでも信用できないなら、ホラ」
玲子は名詞を取り出し、助手席の煉に差し出した。
「名詞? ……あ? ……分かった。信用する」
「で? こっちからの連絡は総矢経由でも構わない?」
「平気だ。礼は期待してるからな」
名詞を受け取ってから煉が妙に嬉しそうだったのが総矢は気になったが、特に話に割り込む事はしなかった。その後、総矢と煉はレイルの店の近くで車から降り、無事に帰宅した。煉は終始笑顔で総矢の肩を何度も叩いた。
「お前には感謝してるからな」
当然ながら玲子について尋ねたが、煉は『知らなくていい事、あの人は凄い人だ』としか語らなかった。能力を使う事も考えたが、疲れが溜まっていた事と、煉は必要であれば教えてくれるという自信もあり、それは実行しなかった。
「あ、ちょっと俺寄るところあるんで先に戻ってて下さい」
「ん? あぁ、分かった。じゃ先に戻ってるぞ」
総矢は煉に別れを告げ、レイルの店へと向かった。
3連投稿 その③
強引ではありますが一先ず『調査』は終了です。
完全に夏です。暑す。