調査⑳ -脱出-
「私も付いていっていいよね? その原因の一端は私にもあるわけだし」
「協力するってんなら文句はねぇよ」
工場地域入り口付近の警備室に辿り着いた。煉は総矢の静止を振り切って扉を開けた。警備室の中には大柄の男が二人いた。
「なんだ、どうした? 何があった?」
特に慌てる様子も無く、二人は近寄ってきた。だが、総矢達の様子を見てすぐに社員ではない事を理解したらしく態度が豹変した。男達は荒事に慣れていることもあり、警報装置を作動させる事も無く、警防を構えて殴りかかって来た。
「ハハハッ! 久々の獲物だ! 今日は付いている、女までいやがるしな!」
「うわ、台詞が三流の悪役だね……」
男達が返り討ちにあったのは言うまでもない。それも一分も経たずに。
「で、ココに連れてこられた人間は何処へ連れてかれるんだ?」
「……」
「総矢」
「はいはい。でも俺だって結構疲れてるんですよ」
「昨日教えた能力のコントロールが完璧ならそんなに疲れねぇ。出来ないお前が悪い」
「そんな理不尽な……」
「そんなのどうでもいいから早くして」
「それも理不尽ですね……くそっ。結果だけ先に言いますが、ダメです。有益な情報はないです。それと今すぐココから離れます」
「情報がねぇだと? どういうことだ?」
「詳しくは後で話します。それより、少し急いだ方がいいです。すぐに交代の人間が来ます。取りあえず脱出します」
総矢は警備室の中心に電子爆弾とタイマーをセットしながら二人に告げた。
「脱出方法は?」
「俺の持ってるもので何とかなりますよ」
タイマーセットを終え、二人の警備員をスプレーで眠らせると警備室を後にした。そのまま三人が向かったのは工場施設の入り口だった。向かう途中で総矢は得意げに話し始めた。
「簡単に説明します。警備室とココの設備はリンクしていてどちらかに何かトラブルがあると物理的に閉鎖されます。その上、片方には記録が残るシステムになっています。まず記録を避けるために警備室と入り口の門を電子爆弾でシステムをダウンさせます」
総矢は、警備室で拝借したヘルメットを二人に渡す。
「上手くいけば物理的な閉鎖自体が阻止できますが、上手くいかない場合はこの小型爆弾を使って強行突破します。閉鎖が生じた状態では門に注目が集まるはずです。そんな中火口さんが炎を使うわけにもいかないので。あと、極力顔を隠すためにヘルメットは深くかぶって下さい」
煉と玲子はただただその話を聞いていた。
「それで、門から出るのは後何分後?」
「タイマーは3分で設定したので、あと1分ちょっとです」
「で、外へ出たらどうするんだ?」
「……」
「総矢?」
「……ダッシュでお願いします」
総矢の回答に煉も玲子も呆れた。
「結局最後は自力かよ」
「向こうが車とか使ったら間違いなく追いつかれるよ? 出てからもしばらく見晴らしいい上に人込みも無いし……ったくしょうがないな、出た後は私が何とかするよ」
玲子の策を聞いている暇は既に無かった。総矢は腕時計を見ながら門へと歩み寄る。
(……3……2……1……よし)
電子爆弾を起動させる。警備室の物も同タイミングで起動していたが、門では地面から現れた分厚い壁によって封鎖された。
「下がって下さい!」
総矢はすぐに爆弾を壁に向かって投げた。爆音が鳴り響き、壁の一角が崩れた。
「よっしゃ、そこから出るぞ!」
真っ先に外へ出たのは玲子だった。煉と総矢もそれに続く。壁を通り過ぎたところで総矢達が見たのは、今まさに車に乗り込もうとする玲子の姿だった。
「ほら、早く乗った乗った!」
二人を呼び寄せる。玲子は、二人が完全に乗り切る前に車を走り出させた。
「オ、オイ! あっぶねぇな……」
「いででで、まだ乗ってな……」
煉は車内に足をかけた状態だったが、総矢はドアを開けて今まさに乗り込もうという体勢だった。そのため総矢は一人後部のドアに捕まり、引きずられた。
「あ、ゴメン」
悪びれる様子も無く謝罪の言葉を口にする。強引に総矢が乗り込んだ後、車はスピードを上げ、工場施設から離れていった。
3連投稿 その②